第26話 出会いと再会
「いらっしゃいませ」
「お久しぶりです、大女将」
やっぱ中も気品に溢れてる……ってか出迎えてくれる時点でやっぱりヤバイ。しかもお久しぶりって事は……
「あれ? 女将さんは?」
やっぱり、ヨーマはここに来た事あるんだな。しかも口ぶりからして、結構な回数か? 馴染みって雰囲気がする。それにしても結構歴史のありそうな旅館だよな。
「体調不良ですか。ではお大事にとお伝え下さい」
「わかりました」
「おっ、彩花ちゃん! 采くんもいらっしゃい」
ん? でっ、出たっ! 爽やかイケメン2号だ! なんだか俺の周りってイケメン多くない? まぁ、その分影が薄くなるから良いんだけどね。
「お久しぶりです。また、お世話になりますね」
「透也さん、さっそくお話聞きに来ました」
「あぁ、後でゆっくりと話してやるよ」
話? もしかして怪談特集の取材って……。
「お願いします。あれ? あなたは……最近働き始めた方?」
「あっ、そっかぁ。彩花ちゃん達は初めましてか。まぁ、働いてると言えば間違いじゃないけど……正確には住み込みでバイトって所かな? 真白」
「初めまして、4月から働かせていただいている桃野真白と言います。宜しくお願いします」
「おい……蓮! かなり綺麗な人だなおい!」
なに復活してんだよ、しかも微妙に声がでけぇよバカ!
「それにしても、今年は随分人数が増えたじゃないか。去年までは采くんと2人ぼっちだったのに」
去年? しかも桐生院先輩と2人きりって……なに? やっぱり2人はそんな関係なの!?
「日城恋です。宜しくお願いします」
「早瀬琴と言います」
「片桐栄人って言います。いやぁ真白さん綺麗ですね」
本人に言っちゃったよこいつ。
「初めまして月城蓮です」
「なんか初々しいなぁ、新入生か! 俺は宮原透也、宜しくな」
宮原……って、確かここの名前宮原旅館って言ってなかったっけ? まさかの経営関係者とかなのかな? ……あれ? ヨーマと桐生院先輩は挨拶しないの? なんか黙ってるし。
「桃……白……」
ん? なんか呟いてる? しかも桐生院先輩なんか驚いた顔してない?
「桃野真白さん!」
うおっ、どうしたんだヨーマ? 珍しく大きな声出して。
「はっ、はい?」
「あなたは……もしかして鳳瞭学園を卒業しませんでしたか?」
「はい、そうですけど?」
はっ? 待て待て、桃野さんが鳳瞭学園の卒業生?
「私が間違ってなければ、あなたは今大学1年生のはず……どこかの大学へ進学したとは聞いていましたが、もしかしてバイトっていう事はこの辺りの大学に通っているって事ですよね?」
「えっ、えぇ。隣の市にある大学へ」
「采……」
「うん……」
ん? 意味がわからんぞ? 桐生院先輩は理解してるみたいだけど……どういう事?
「私は鳳瞭学園2年、葉山彩花と言います。そして、あなたの事を知っています。あなたは元鳳瞭学園生徒会長……桃野真白さんですよね?」
生徒会長!?
「そうですけど……私を知ってるの?」
「しっ、知らない訳ないじゃないですか! むしろ知らない人の方が珍しいですって!」
どっ、どしたんだヨーマ! らしくない姿だな。そんな姿にさせる桃野さんって一体何者……
「そんなにすごい人なんすか?」
珍しく同意見だ、栄人。
「凄いってもんじゃないわ、成績優秀で生徒会長を2年生から務め、学園祭等を抜群の統率力で成功させ、生徒からの支持もものすごかった人よ? こんな所で会えるなんて感激です!」
「あっ、ありがとう……」
うわっ、手まで握ってるよ……すげぇ、こんなヨーマ初めて見た。皆も若干引いてるしっ!
「まじか? 鳳瞭学園だったってのは知ってたけど、真白ってそんなに凄い人だったの?」
「桐生院先輩……桃野さんが凄いのは分かるんですけど、葉山先輩のあれは一体……」
「仕方ないよ……桃野先輩は彩花の憧れだったんだ。まぁ、ここじゃ何だから後でね」
「はい」
憧れって……なんか大人しそうなイメージだけど、あのヨーマがこんなになる位だからそれ以外にも凄い事してんだろうなぁ。
「まぁ、ここで話すのもあれだし、一先ず部屋に荷物置こうよ。それからでも十分だろ? 彩花。桃野先輩もビックリしてるし」
「はっ、ごめんなさい!」
「大丈夫だよ。それじぁあ、お部屋案内しますね」
「はい! お願いします」
おいおい、なんか見た事のない顔で桃野さんに付いて行ったぞ? いや……かなり驚いたんだけど、なんだかヨーマのあんな姿見たら少し気分が良いな。これは後々使えるぞぉ!
こうして俺達は、真白さんに案内されるがまま、本日の寝床でもある部屋へと到着した。
よっと、中々広くて3人で寝るには十分すぎる位だよ。尚更料金の方が気になるんだけど……
「やっぱ和室は落ち着くなぁ。鳳瞭荘とはまるで違うぜ」
「ははっ、去年改装したばっかりだって言ってたからね。畳の匂いも凄いするね」
確かに……この匂い何か落ち着くなぁ。
「おい! 蓮、見てみろよ! すげぇ景色だぞ!」
「ん? どれどれ……おぉっ、これはすごいな」
大自然の中からの町を見下ろすような景色。周りに建物しかない鳳瞭学園とは違ったそれは、今だけ自分達を現実から引き離して、別な世界へ案内しているかの様な気がする。
ん? なんか下から煙上がってないか? 煙と言うか……湯気?
「桐生院先輩、ここってもしかして露天風呂とか……」
「あぁ、あるよ。丁度下辺り、ここからだと屋根で見えないけど湯気上がってるの見えるよね? あそこが露天風呂だよ?」
マジか!? 露天風呂ってなんかテンション上がるよな? 開放的な気分になれるし!
「すげぇ! 後で皆で入りに行きましょ?」
えっ? 皆? 俺は1人で楽しみたいんだが?
「いいねぇ。夜になれば露天風呂から見える夜景が最高だよ?」
はっ……最高じゃねぇか!
コンコン
「はーい」
「失礼します」
あぁ、大女将さんか。
「ご飯の方ですが、どうでしょう? 本来であればお部屋で食べるんですけど、皆一緒に食べた方が良いんじゃないかって透也が言うもんですから……どちらかのお部屋で皆さん一緒に食べますか?」
えぇ……出来るなら野郎3人の方が気楽なんですけど。
「良いじゃん! どうせなら皆でワイワイ食べたいし!」
「うーん。彩花はなんて?」
「いいんじゃない? 采達にお任せ……だそうです」
おい! そこは断れよ!
「そっか……じゃあせっかくのご厚意に甘えさせていただこうか?」
「賛成!」
はぁ、マジですか。まぁ、桃野さん見てからヨーマが少し柔らかくなった気もするし、何とかなるかな。
にしても……世間って案外狭いもんだな。学園の元生徒会長で、しかも憧れの人物が取材先……ヨーマにとっては行きつけの宿で働いている。そして見事再会を果たすとかどんなドラマだよ。
あれ? でもヨーマの奴、桃野さん成績優秀って言ってなかったっけ? だとしたらなんで鳳瞭大学へ進学しなかったんだ? 大学だってトップレベルなのに……なにか理由がありそう。
それも含めて、桃野真白さん……謎が多い人だな。綺麗なバラにはトゲがあるじゃないけど、容姿端麗な人には裏がある……そうじゃなきゃいいんだけど。
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