第25話 夏休み?ダラダラ優雅に過ごすに決まってるじゃないですかぁ

 



「はいじゃあ、明日から夏休みだけど皆怪我とかしないように気を付けてね。じゃあさようなら」


 よっしゃ、明日からついに夏休みの開始か。とは言ってもやる事ないんだけどね。まぁ、ダラダラ過ごしつつ宿題もやりつつ、夏を満喫しようかな。

 あっ、そういえば部活ってどうなるんだ? でもそもそもヨーマとかわざわざ夏休み中に学園まで来るのか? 普通だったら来ないよな。それに取材の依頼とかもされてないし、きっとどっかバカンスにでも行くはずだよな? なら夏休み中は完全フリー! やったぜ!






「ふふっ、これね。あっ!」

「ひひっ、先輩……ドンマイです」


 どうしてこうなった?


「いやいや、それだとバレバレだけどね」

「うっ、うるさい。最後に勝つのは私よ!」


 どうしてこうなったんだ?


「ちょっとシロ早く采から取りなさいよ」

「大丈夫。僕は持ってないよ」


 どうして俺は……新幹線の中でババ抜きしてんだ?


 ……うわ。そんな俺に追い打ちをかけるように現れるジョーカー。あぁ、神も仏も居ないのか。フリーダムな夏休みを送るはずだったのに、桐生院先輩はまだしもなぜこの2人といる……


「おい、蓮! 早く手札引かせろー。あっ、さてはお前ジョーカー引いたな?」

「えっ、そうなの? 栄人君引かないでね?」


 そしてこのムカつく声。なんでクソイケメン委員長! 貴様がここに居るんだ! もう何が何だか分からん。まじでどうしてこうなったんだ! 


 そうだ、あの日だ……あの日のヨーマの一言からおかしくなったんだ。




「遠方取材?」

「遠方取材!?」

「そう、遠方取材」


「遠方取材って具体的には何処へ?」

「それは内緒。けど、1泊を考えてる」


 なにそれ場所不明の1泊なんて、めっちゃ怖いんですけど……


「えっ、なにそれ面白そうですね!」


 てめぇは只の手伝いだろうが、出しゃばるんじゃないよ。


「あっ、そうね。片桐君もここ1ヶ月位色々手伝てもらったから、一緒にどう? まぁ、本業は陸上部だと思うからその辺の都合もあるだろうけど」

「監督に言って休みもらうんで大丈夫です!」


 早っ! 即答じゃねぇか。


「シロと恋も大丈夫よね? じゃあ決まり。けど、5人じゃなんか人数合わないなぁ。恋? 誰か女の子呼んで良いよ?」


 あの……まだ答えてないんですけど? 俺相当暇だと思われてます? いやまぁ、暇なんですけどね。  


「えっ? 良いんですか? でも人数が多いとその分お金も……」

「それ位の活動費は貰ってるから大丈夫よ」

「本当ですか? じゃあ……」



「えっ、私?」

「うん。こっちゃんさえ良かったら」


「嬉しいんだけど、私なんかが良いの? その……葉山先輩とか話した事ないし……」

「大丈夫だって、俺達いるし。それに葉山先輩も桐生院先輩もすげぇ優しいし」


 なんでお前が乗り気で喋ってるんだよ。しかもどっちも優しいって、桐生院先輩はその通りだが、ヨーマが優しいとは……お前の思考回路はどうなってやがる。


「練習とか大丈夫?」

「大丈夫だろ。それに琴、お前監督にも少し休めって言われてたし、丁度良いじゃん」


 だから、お前が張り切るな!


「んーなんだか甘えちゃってる気がするけど……皆と行けるなら嬉しいな」

「よしっ、決定」

「良かった。それじゃあ先輩にも言っとくから、今度時間ある時にでも先輩に紹介するね」


「うん。今から楽しみだなぁ」

「そうだね。ふふっ」

「それはさておき、一体場所は何処なんだろうなぁ。まぁ、こうなったらどこでもいいや」




 てな具合で、今に至っている。6人で新幹線に乗りながらババ抜き。周りから見たら楽しそうな学生旅行とでも思われてるんだろうが、全然そんなテンションにはなれないね。

 まず、この新幹線という密閉された空間に危険人物3人と一緒に居るという事。席を離れていても、何かが起こりそうで恐ろしい。


 そして、行先不明の恐怖。大体この東北新幹線に乗っている事から東北地方に行くことは間違いないだろう。だが、詳細はまだ知らされてない。


 最後に、今回の遠方取材の内容。真夏の怪奇特集……これには本当に嫌な予感しかしない。あのさ……皆夏休みなんだから学園来る奴なんて部活やってる人だけでしょ? その間学校新聞なんて見ないだろう? そう思いました。それを空気を読めない栄人がヨーマに話しました。


「何言ってんの? ネットでも載せてるんだから夏休み中だろうと閲覧数にそんな変化とかないから」


 一刀両断されました。恐るべし鳳瞭ゴシップペーパー……まさかウェブでも配信されているとは。そんなこんなで、取材プラス小旅行的なノリでヨーマに導かれながらこうなってしまった訳で……ここまで来たらもう身を任せるしかない。


「ん!? なんで?」

「あれ? 彩花、その反応は……」

「うるさい! 最後に勝つのは私なの!」


 やっぱり、あるべき所に戻ってくるもんなんだな……


「シロ! なんか言った?」

「イエ、ナニモ」




 暑い。沢山緑があるのに、夕方なのに暑い。なぜだ? こんな山に囲まれた場所の夕方なんて涼しいってのが定番だろ? なぜこんなに暑い。


「うわぁ、見て? あれ全部温泉の湯気?」

「すごいね。温泉の匂いもする」

「あっ、俺この匂いダメかも……」


 唯一の救いは、イケメン委員長が大人しくなった事だろうか。それにしても、新幹線から降りてさらに電車を乗り継ぎ、タクシーに乗り変えて辿り着いたここは何て言う所なんだろう。もはや調べる気にさえならないよ。全部ヨーマの後に付いて行ってなすがまま、タクシーが停まったと思ったら、


「付いて来て」


 その言葉通り付いて来たんだけど、目の前に広がるのは山、山、山。独特な硫黄の匂いに、見下ろす先に無数の湯気。どこかの温泉地なのは間違いない。


「恋ちゃん、この雰囲気林間学習みたいだね」

「そういえば確かに」

「林間学習かぁ、確かにそうかも。懐かしいなぁ」

「あっ、桐生先輩達もあそこに泊まったんですか?」

「そうだよ? 皆のあそこって決まりだろ?」


 と言うことは、もしやヨーマも? 想像できないんだが……


「その様子だと、結構驚いたみたいだね。鳳瞭荘」

「そりゃぁ……ねぇ、こっちゃん」

「確かに……校舎とかがあんな感じなのでギャップというか」

「まぁ、普通はそうだよね。まぁ、僕達の時は意外とテンション上がってた人も居たけどね」


 テンションが上がった? いったいだ……ちょっと待って桐生院先輩? なんでニヤニヤしながら前の方チラチラ見てんですか?

 まっ、まさか……そのテンション上がってた人って!


「采? 何のお話かしら?」

「なんでもないよー」


 あぶねぇ。今の反応的に絶対ヨーマじゃん! 口滑らせなくてよかったぁ。迂闊に誰なんですかその人? なんて行った日にゃ一気に矛先が来てたぞ?


 それにしてもヨーマがねぇ。1番文句言いそうな気がするけどなぁ。


「お疲れ様。着いたわよ」


 おっと、あの人勘も鋭いからなぁ。疲れた顔してっと……うわっ。


 そんなヨーマの声に釣られるように視線を向けると、目の前には立派な門。そしてその奥にはザッ・日本の旅館て感じの建物が見える。

 なんか高級感バリバリなんですけど? ここに泊まるんですか? ただ立ち寄っただけですか? 温泉入りに来ただけですよね?


「ここが今日泊まる所……宮原旅館よ」


 あぁ、やっぱりここが今日のお宿ですか……マジですか!? 6人分の料金活動費で足りるんですか? 後で請求とかしないですか?


 めちゃくちゃ不安なんですけどぉ!!


 てか、活動費って一体いくら貰ってるんだろう……いや、安易…………に首突っ込むのは止めよう。


 下手な怪談より怖い事になりそうだ……。



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