第24話 早瀬琴の日常

 



 学園生活が始まって2ヶ月半。少しずつ学園の雰囲気にも慣れてきて、クラスメイトとも気兼ねなく話しが出来る様になりました。男子はまだまだだけどね。


 鳳瞭学園はやっぱりすごい所で、学園内の敷地が広いのは勿論だけど、校舎の大きさと綺麗さ、寮の豪華さには本当にびっくりしたっけ。とにかく利便性が良すぎて、逆に不安になる時もあるけど、十分すぎる学園の設備にはとても満足してます。


「こっちゃんおはよう」

「あっ、おはよう」


 大盛り上がりだった体育祭の熱も大分落ち着いて、静かな日常が続いている今日この頃、私はいつも通り、恋ちゃんと一緒に学校へ。


「良い天気だねぇ」

「本当、良い天気」


 この子は日城恋ちゃん。同じクラスで、寮から通ってる事もあって、朝は毎日一緒に登校してる。仲良くなったきっかけは、一緒に学級委員になったから。

 話していく内に、あっと言う間に仲良くなっちゃって、今では時間さえあればお互いの寮の部屋に遊びに行く位。正直、恋ちゃんの第一印象はクールってイメージだったんだけど……話してみたら物凄く明るくて、私の話もちゃんと聞いてくれて、とても優しかった。



「皆おはよう」

「おはよう」

「あっ、恋と琴ちゃん。おはよう」


 女の子で知っている人が居なくて不安だったけど、最初に恋ちゃんと仲良くなれて本当に良かった。中等部から進学した子とも恋ちゃんを通じて仲良くなる事が出来たし、そういう意味で私はすごく恵まれています。


「よっ、おはよう」


 この声は……


「あっ、おはよう」


 やっぱり。この人は片桐栄人君。中学校は違うけど、陸上の合宿とかで一緒になる事が多かったから、昔からの知り合いって言うのかな? 誰も知っている人が居なかった鳳瞭学園で、栄人君と同じクラスだって知った時は本当に安心したっけ、それに学級委員に推薦してくれたから恋ちゃんとも仲良くなれたし、本当の意味で栄人君は私の救世主だと思う。


「昨日の記録どうだった?」

「んーあんまりだったかな?」


 同じ陸上部で同じクラス、その両方で変わらずムードメーカーな片桐君はやっぱり凄いと思う。自分で委員長やるって言うなんて私には絶対無理だし、中学校の時から全然変わらないその明るさに少し憧れちゃう。


「栄人君おはよー」

「おはよう! あぁそっか! でもまぁ怪我だけは気を付けないとな。そんじゃ」


 片桐君は誰にでも隔てなく話が出来る。クラスの男子ともすぐ仲良くなったし、もちろん女子とも……親しげに話してる姿が、ちょっとだけ寂しく感じちゃうのはなんでだろう。


「おぉ、蓮! おはよう」

「朝からテンション高くね?」


「お前が低いだけだろ?」

「うるさいよ」

「あっ、月城君おはよう」


「おはよう、早瀬さん。あいつうるさいから何とかして」

「それ酷くないかー?」


 この人は、月城蓮君。栄人君とは同じ中学校で、御覧の通り仲が良い。まだ男子と話すには少し緊張しちゃうんだけど、そんな中で栄人君の次に仲良くなったんだ。栄人君が私に最初紹介してくれたのが月城君。いつもはイヤホンで音楽を聴きながら外を見てる事が多いけど、声を掛けると至って普通……というかむしろ丁寧な口調で答えてくれる。

 そして、月城君と言ったら、この前の体育祭の話は外せない。伊藤君に追い付いて、あと少しで抜いちゃいそうになる位の足の速さで、一躍注目の的になったのは間違いないと思う。なんであんなに速いのに運動部に入っていないのか不思議だけど、もしかしたら1番謎に包まれてる人物なのかもしれない。


「月城君、おはよう」

「おっ、おはよう」


 あっ、謎と言えばもう1つ。


「今日部室行くでしょ? 多分葉山先輩また取材頼むと思うよ?」

「ちっ、近い! てかこの前特集やったばっかりだろ?」


 この2人の関係。同じ学級委員だから、栄人君も含めて結構話す頻度は多いはずなんだけど……他の女子には丁寧に話す月城君が、なぜか恋ちゃんと話す時には浮ついたような、焦っているような。そんな口調になる事が多い気がする。一体なぜ何だろう……はっ、もしかして月城君は恋ちゃんに気がある? 男の子は好きな子に対して嫌がる素振りをするって言うし、その可能性は高いかもしれない。そっか……まぁ、そんなとこも含めて、私の1日がスタートします。




「であるから……」


 授業も、担当の先生の教え方がとても分かり易くて、今の所は楽しいし、




「なにお前俺の唐揚げ食ってんだよ!」

「いいじゃんか。また注文すればいいだろ?」


「チェックされて指導が入るの嫌なんだよ! お前しょっちゅう学生証忘れるから、俺の履歴にめちゃくちゃ残ってんだぞ? 脂っこいもんを大量に食うな!」

「部活やってると腹減るんだよー」


「だから自分のを……」

「まぁた始まったよ」

「ふふっ、本当に仲良いよね。あの2人」


 学食は毎日沢山の学生で一杯。それもそのはず、安いし量も多いし種類も豊富。値段は学生証があればタダだから、実質何を食べようと学生の自由。でも月城君が言ってた通り、誰がいつ何を頼んだかは記録されちゃうから、偏った食生活だと指導委員の先生に呼び出されちゃう。

 それにしても……栄人君は食べすぎだけどね。ちなみに私のお勧めは鳳瞭スタミナラーメン。チャーシューが6枚に野菜たっぷりな餡かけラーメンなんだけど、これがとんでもなく美味しいの。皆にお勧めしてるんだけど、なかなかこの美味しさが伝わらないんだよね。恋ちゃんなんてサンドイッチ3個とかだし、足りなくないか心配になっちゃう。


「恋ちゃん大丈夫? 足りてる? 私の少し食べる?」

「えっ? 大丈夫だよ!」


 んーやっぱり心配。




「よーし、じゃあ次! 女子はサーキット! 男子はスタート練習」

「はい!」

「はい」


 放課後は、ほとんど毎日部活動。さすがに有名な学校だけあって、最初は練習に付いて行けるか心配だったけど、今の所はなんとか全ての練習をこなす事が出来てます。


「よーい、はい!」

「さすがに片桐速いな……」

「伊藤も速いが、今は片桐か。この二人お互いが刺激し合えば……」


 さすが栄人君、才能抜群だね。中学の時から栄人君と伊藤君はライバルみたいな関係だった、それだったらギスギスした感じになるのが普通だと思うんだけど、栄人くんあんな調子だから伊藤君にも普通に話し掛けるんだよね。おかげで最初は嫌がってたのに、今では普通に話す様になって、ある意味良い友達みたいな存在になっちゃった。やっぱり凄いな栄人君は。それに比べて私は……


「ちょっと! 聞こえてる? いい加減もうちょっと近く歩きなさいよ」

「そんなに大きな声だったら、この位で良いんだよ」


 あれ? 恋ちゃんと月城君?


「もう。あんたが先輩に頼まれたんだからね? それなのにペアだからって私まで手伝うなんて……」

「いや……別に1人でも……」


 新聞部の取材かな? そう言えば恋ちゃんが、今は月城君とペアになって取材とかしてるって言ってたっけ。


「何? なんか言った?」

「何でもないよ」


 なんか、部活中も教室の感じそのまんまなんだ。面白いなぁ。


「絶対なんか言ったでしょ?」

「言ってないって!」


「言ったでしょ? なんて言ったか教えないと……」

「うわっ! 止めろ追いかけてくんな! わぁぁ!」


 なにしてんだろ? でもなんかいっつも思うけど楽しそうだよねぇ。


「ふふっ。なんか2人見てるとこっちまで楽しくなっちゃうなぁ」

「次っ! 早瀬、行くぞ!」

「あっ、はいっ!」


 これが私、早瀬琴の1日。友達に恵まれて、楽しくて充実した毎日……こんな日がいつまでも続けばいいのに……


 本当にそう思います。



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