第21話 嫌な予感ほど良く当たる

 



「絶対勝とうぜ!」

「おー!」


「ここまで優勝あるのみだ!」

「おー!」


 うわ……どっちもやる気満々じゃねぇか。そりゃそうだよな。


「ごらぁ1年! 綱引きは点数高いんだ! 何がなんでも1位になってここで突き放せ!」

「紫に負けんなよ? 独走を許すな!」


 やっぱこんな具合じゃ……必死になるのも無理はない。これも1年の宿命か……。ちなみに現在の順位は、


 1位紫組(3年7組、2年5組、1年2組)

 2位青組(3年5組、2年4組、1年7組)

 3位水色組(3年1組、2年7組、1年5組)

 4位緑組(3年2組、2年1組、1年3組)

 5位黄組(3年3組、2年2組、1年1組)

 6位橙組(3年6組、2年3組、1年6組)

 7位赤組(3年4組、2年6組、1年4組)


 以上となっております。俺達緑組はなんだかんだで4位。丁度真ん中だから良いと思うんだけど、それを先輩方は許してくれるはずもなく心強い声援をくれる訳で……そのお陰か、俺達はトーナメントを勝ち抜いてしまい、只今から決勝が行われようとしています。


 マジか……なんでここまで勝ち進んだ? ガタイのいい奴は野球部の工藤にラグビー部の板倉と相撲部の太子位か? この3人を後ろに固めた戦法がここまで効くとは思いもしなかった。明石の奴、無駄にそんな知識持ってやがって。


 とはいえ、相手は現在1位で点数も少し離れている紫組。そしてラグビー部2人に柔道部2人、砲丸投げの選手とガタイ・人数的にはかなり不利だ。これなら負けても大丈夫だろ。早く終わってお昼食べたいなぁ。


 それでは皆手を挙げて……

 パンッ!




「どうしてこうなった?」

「ふぁ? なにが?」


 物を口に入れたまま喋るんじゃないよ! イケメン委員長! こんな姿見てもキャー可愛いとかって言われるんだろうな!


「なんで綱引きで優勝できたんだ? 紫の方が有利だったろ?」

「なんでって……勝てたんだからいいじゃないか。嬉しくないのか?」


「嬉しくないだろ! しかも2年・3年生まで綱引きで優勝したから、一気に2位まで順位上がっちまったじゃねぇか」

「良いじゃないか。これで優勝狙えるぞ!」


 はぁ、分かってねぇよ。優勝に近付くって事は、その分俺達への応援も凄まじくなるって事だろ? しかも午後からのリレーは花形にして高得点の競技。受けるプレッシャーもヤバいに決まってんだよ……


「お前はいいねぇ。気楽で」

「ん? それは褒めてんのか? 一応ポジティブだとは思うけど」

「そうだな」


 こいつみたいな鋼のポジティブハートが欲しいわ。


「あっ、そう言えば学年対抗リレーなんだけど、蓮アンカー頼むわ」

「はぁ? なんでだよ、それはお前の役目だろ?」


 只でさえ目立つリレーで、なんでさらに目立つアンカーなんてやんなきゃいけないんだよ。足の速さ的にも、委員長って立場的にもお前だろ普通。


「いやぁ、紫のアンカーが伊藤なんだよ。今の所は俺の方が速いけど、差がついた状態だと抜ける可能性は低くなる。だからその前に俺と琴で差をつけるから、蓮はその差を守ればいいんだ」

「いやいや。もしその差ができなかったらどうなるんだよ? しかもお前俺の足の速さ知ってんのか? 買い被りすぎじゃない?」

「お前の足の速さは、サッカー部の練習や試合で目の当たりにしてるけど? お前は普通に速いよ」


 お前絶対おちょくってるてるだろ? しかもそういう作戦って……失敗したらお前じゃなくて俺のせいになるだろ絶対。


「お前さぁ……それで1位になれなかったら俺の責任になるんじゃないか?」

「大丈夫! 俺が責任取るって。それにこれが最善の方法なんだ。頼む蓮!」


 はぁ……。絶対責任取れよ? 絶対だぞ? 俺は逃げるからな?


「分かったよ。その代わりお前絶対責任取れよ?」

「ありがとう。もちろんだ! 俺に任せろって」


 はぁ……嫌だわぁ。




 ≪それでは1年生による学年対抗リレーを行います≫


 来てしまった、最悪な時間。鳴り響く怒号がものすごく嫌だ。とりあえず、早瀬さんと栄人で差をつけてくれるのを願うばかりか……


 ≪それでは位置について、よーい……≫

 パン!


 とりあえず、ビリじゃなきゃいいけど……1走は佐々木さんか、まぁまぁ良い位置だな。4位か悪くない。


 んで、2走は柳か。水泳部だから足腰は強いはずだけど……おぉ良い感じ! 1人抜いて3位か。


 次は阿部さん。確かバスケ部だったような……なかなかの走りっぷりで現状維持って感じかな?


 そして、戸山。けど後ろから陸上部が来てるからな……まぁ抜かれても仕方ない。


 江本さん……追い越せはしなかったけど、3位にぴったりついてる。それにしても1位から4位までそんなに差はないなぁ。


 そろそろ俺の出番も近付いてきたか。男3人目は島口! 頑張れって言いたい所だけど、そんなにうまくはいかないよな。変わらず4位のままで次は未知数な日城さんか……


 って、待て待て速くね? 新聞部だよね? スポーツとかやってないよね? 思いのほか速くてびっくりしてんだけど?


「おぉ、あの緑組の女子速くね」

「誰だ? あの子」

「日城さん速くねぇか?」


 なんかザワザワしてるし……てか俺もその1人なんだけど。まじか、日城さんも足が速いのか……って馬鹿野郎なに考えてんだよ。記憶から消せ!


「片桐頼んだぞー」


 はっ、もう栄人の番か? 順位は2位か……すげえぇな。あっ、ヤベっ、日城さんこっち来る! なんか言っといた方がいいか?


「日城さん、お疲……」

「あぁ!」

「マジか!?」


 ん? なんかあったのか……って、おい! 栄人コケてる! 何やってんだよバカ! 速く走れ頼む!

 うわ……4位か? 


「マジかよ……めちゃくちゃ速かったのに、追い越そうとした人の足が当たったのかもしれない」

「くそぉ。あのままだったら1位まで行けたのに」


 嘘だろ……こりゃもう無理じゃん。あれ? でもこれで気楽に走れるかな?


「月城君!」


 うっ、忘れてた……日城さんが近くに居たんだった!


「なっ、なに?」

「諦めてないよね?」


 はっ! なぜそれを?


「多分、こっちゃんは順位を上げてくれるよ? だから、月城君も諦めないで、1位目指して?」


 えっ? こっちゃんって……早瀬さんの事? 何? いつの間にそんなに仲良くなったの? 


「片桐頑張れ!」

「早瀬さんと月城君が何とかするから!」


 おいー! 何言ってくれてんのさ!


「緑組の人ー、早く来て!」


 なんだよ皆……盛り上がっちゃって。めっちゃ応援してんじゃん。まだ2ヶ月くらいしか経ってないぞ? それなのに、まだよく分からない人の事、周りの目も気にしないで大声だして……おかしいんじゃないのか?

 でも、そんな雰囲気……嫌いじゃない。


 どこか懐かしい感覚、久しぶりに感じた気がするなぁ。こんな時なら、皆の期待に応えれる気がする。


 やってみるか。


「あっ、月城君」

「まぁ、やれるだけやってみるよ」


 トップは紫組、栄人並みの足の速さの伊藤か。もしかしたらバトン落としたりするかもしれない。初っぱなから飛ばさないと追い付けないかも。


 そうだ思い出せ、試合の時を……ボールを追い掛けたあのイ……


「月城君!」


 ん? なんだよ、今せっかく……


「アンカーは1周!200メートルだから!」


 えっ! えぇ!?


 うそだぁぁ!



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