第20話 恐ろしき体育祭

 



「赤組行けぇ!」

「負けるなぁ」

「根性見せろ青!」

「ビリになったらどうなるか分かってますね?」


 俺は合戦の最中にでも居るんだろうか。物凄い応援、怒号、脅迫。それらが飛び交う今日この頃、皆さんはいかがお過ごしだろうか。俺はすぐにでも校舎の中に入りたいです。


 ついに訪れた鳳瞭学園体育祭。赤、橙、黄、緑、水色、青に紫、7つの組がそれぞれの色に分かれて戦う事から、別名レインボーウォーと名のついた伝統的行事。3年生にとっては是が非でも優勝を目指す意地と意地とのぶつかり合い。だが、それは俺の想像を遥かに越える光景だった。


 うわっ、めちゃくちゃ皆気合い入ってるじゃん。むしろ恐ろしいんだが。体育祭の域越えてんでしょ。


 競技者全員がガチで1位を狙いに来る、そんな学園の体育祭は果たしてここを除いて在るのだろうか。そして、そんな体育祭の犠牲者は言うまでもない、俺達1年生だろう。


「こらぁ! 1年! 真面目にやれ」

「全力を尽くせ!」


 おぉ、怖っ……1年から見たら3年なんて結構な目上だ。かなり恐縮しちゃう存在でもある。そんな人達から激励(脅迫)を受けたら死に物狂いにもなるわなぁ……しかも部活動に入っている人なら、それプラス部活の先輩からの圧力も加わるから更に半端ないプレッシャーだと思う。

 よかった、運動部に入らなくて……それでも違う意味で毎日プレッシャーは感じてるけどね。まっ、ちょっとトイレでも行って、時間潰すか。


「はぁ……早く終わらないかな」

「どう? 鳳瞭学園体育祭は」


 ん? この声は……桐生院先輩? あっ、やっぱり。


「いや、何というか恐ろしいですね。これを後2回も経験しなきゃいけないなんて、今から不安で仕方ないっす」

「ははっ、そうだよね。僕も去年そう思ったよ。けど、去年より今年の方がなんか盛り上がってる気はするけどね」


 去年より?


「去年よりですか?」

「うん。まぁ、なんとなく原因はわかるけどね。月城君も分かるんじゃないかな?」


 俺でも分かる? どういう意味だ? 俺なんかしたっけ? 体育祭……体育祭……あっ! もしかして……


「もしかして、体育祭特集ですか?」

「正解! 実際あれはかなり反響あったしね。各クラス体育祭前からいつも以上にヒートアップしてたし」


 あぁ、なるほど……。あの前哨戦みたいな盛り上がりは、昨年よりヤバかったって事なんですね。


「確かにすごかったですね」

「伊達に彩花からお墨付き貰った特集なだけあるよ」

「いやいや、あれってお墨付きって言えるんですか?」




「まぁ……可もなく不可もなくってとこかしら」


 うわ……相変わらず評価厳しっ!


「少し聞き込みが足りないかと思ったけれど……私が想定してた取材してきたものをそのまま載せるなんて最悪な事をしなかっただけでも良しとするわ」


 バッ、バレてた。危ない危ない。日城さんが指摘してくれなかったら危うくヨーマの思う壺だったぞ。日城さんに感謝だな。


「まぁさしずめ恋のアイディアだと思うけど、これを機にやり方が少しは分かったんじゃないかしら? シロ」

「ハイ、トテツモナク」


 日城さんのアイディアってのもバレてんじゃねぇか。


「それと、このレーダーチャートも思ったより良かった。スピード・パワー・チームワーク・パフォーマンス。それにダークホースって項目が斬新ね」

「彩花がそんな事言うなんて珍しいね」


「そんな事って何よ? 斬新だから言ったまでよ? でもその他は全然まだまだなんだから」

「はいはい」


 なんか褒められてる様で、実は全く褒められてないのかな? ただレーダーチャートとかはそれなりの評価って感じか。


「ちなみにこの項目は誰が考えたんだい?」

「それは月城君が」

「へぇ……あんたが?」


 へぇって何だよ。しかもなんだその顔、意外っていうか信用してなさそうな顔は止めてください!


「まぁ一応」

「じゃあその辺の意図も聞いておこうかしら? なんとなく……とかって言わないでしょうね?」


 えぇ……勘だとダメなの? 今後絶対そういう場面が出てくると思うんですけど。今回はたまたま浮かんできたから良いものの、ヤバイな……今後は気をつけないといけないな。


「それなりに考えはありますけど……」

「じゃあ聞くけど、まずこのポイントの付け方。この目安は何?」

「あっ、そこのポイント等の調整については私が提案したので……私が」

「なんだ、やっぱりシロだけの提案って訳じゃないじゃない」


 それ位はいいでしょうよ!


「まぁでも項目とか、それに関わる理由については月城君の提案だったので、私は中身をちょっと考えただけなんです」

「なるほど……それで?」


「えっと、各部活における足が早い人、パワーのある人を取材して、その人達がクラスに何人いるか、3人で1ポイントとして計算してます。まぁ、部長さんに聞いただけなので、中には隠れた人物もいるかもしれませんが、そこは項目のダークホースの部分に関わって来るので問題ないです」

「じゃあ、チームワークっていうのは?」


 なんか軽い尋問みたいで怖いな。項目は俺が考えたから、ここは俺が答えるか。うっ! 寒っ! 日城さんもしかしてこっち見てるか? って見てた……何か頷いてるし! そうですか……分かりましたよ。俺が説明しますよ。


「項目については俺が考えたので、俺が説明します。まぁ単純にそのまんまの意味合いで、2年生の時と組が同じ人、2人につき1ポイントで計算してます」


 7組もあれば大体はバラバラになる。けど、それでも同じ組になる人だっている訳で……結束=チームワークという項目も入れさせてもらった。高倉先生に去年と今年のクラス表もらったおかげで、取材もしなくてよかったしね。ありがとう高倉先生。


「それで……このパフォーマンスは?」

「これはいわゆる実績ですね。各クラスでここ2年間の体育祭で優勝または準優勝を経験した事のある人を計算しました。優勝経験者は4人で1ポイント、準優勝経験者は4人で0.5ポイント。ここの部分は結構ポイントに差が出たので、この振り分けにしました」

「意外と考えてんのねシロ」


 意外とって何なのさ、意外って! こっちはあんたにボロクソ言われないように必死だっての。


「では、最後にこのダークホースって所」

「それは簡単です。4つの項目だけみると、結構総合ポイントに差が出ちゃうんですよ。特に5組と7組とか高いですし……そうなると他の組は面白みがなくなるかなって思いまして、この項目を入れました」


「なるほどね? 特に詳しく取材はしてないから、もしかしたら思わぬダークホースが居るかもしれない。それにレーダーチャートと総合点の見栄え的にも、ポイントの少ない組にこの部分を多くすることでなるべく拮抗している様に見えるって訳ね?」


 あっ、すいません。正直そこまでは考えてませんでした。詳しく取材してないからその期待を込めて、点数の少ない組に多く付くようにって、そこまでしか考えてなかったんですけど……


「読者の気持ちを盛り上げる為には、そういうのも必要になってくるわ。なかなかやるじゃないシロ」

「いっ、いえそれほどでも……」


 何だこの雰囲気? なんか褒められてる気はするけど、なんか嫌な予感が……はっ! このままじゃ俺に対する取材のハードルが高くなるんじゃないのか? 量も段々増えるんじゃないのか? ダメだ! それだけは嫌だ! なんとかしないと……なんとか!


「でも、ポイントとか、参考になった意見は日城さんが出してくれたので……俺は上手く乗っかっただけというか」

「そうなの? まぁそうだとは思ったけど。でもこれでペアでの取材のやり方ってのが分かったんじゃないかしら? 片方の意見を片方がもっとより良く……それが良い新聞の作り方よ」


 確かに……こんなの俺1人じゃ無理だったよな……。日城さんの知恵に乗っかっただけ……。この部で生き残る為には、もっとこういう知識を付けていかないといけないって事か。大変だなぁ。


「ちなみに……今回の特集3点」


 3点?


「ちなみに何点中の3点なんです?」

「もちろん10点満点中の3点! 恋2点、シロ1点」


 3点? しかも俺……1点? マジか? マジで厳しすぎるだろうよー!




「てな具合だったんですよ?」

「まぁまぁ。彩花も口下手だからさ」


 くっ、口下手? 思った事何でも口にしてそうなあの人が?


「あの特集も、君達が書いた原稿ほとんど直しなしで掲載したからね。自信持っていいよ?」


 いやいや……その前に1点って言われたらそんなの自信持てないですよ……。


「そんなもんですかね……」


 ≪続きまして、1年生綱引きの点呼を取ります。出場する選手の皆さんは待機場所②へ集まってください≫


 あっ……出番だ。


「それじゃあ桐生院先輩、俺綱引きに出るので行きますね」

「そっか。頑張ってね? 怪我しないように」

「わかりました。失礼します」


 桐生院先輩はああ言ってたけど、やっぱりまだまだ何だよな。覚える事がいっぱいすぎる。まぁ、何とか頑張りますか。とりあえず、今は目の前競技……綱引きだ。


 適当に頑張ってる振りしとこう。怪我とか怖いしね。



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