第18話 日常の放課後
「あぁ、つまらない! なんてつまらないの?」
新聞部の活動は、は大体ヨーマの一言で始まる。そして今日の獲物はおそらく俺。手元にある取材してきた原稿と資料がそれを物語っている。
「シロ! 何なのこの記事! この内容! 全然面白くないわ」
うわ……まじか。各部活動キャプテンに聞く今年の目標、意気込み特集。そんなに悪いのか? てかそれを指示してきたのはあんただろうよ。
「えっと……でも、先輩の言う通りに聞いてきたんですけど……」
「あんたバカ? 私の指示した事そのままやったって意味ないでしょ? まだ1人だと力不足ね」
えぇ……評価厳しっ! 言われた事以外の事やれって、分かる訳ないじゃないですかぁ。
「あんた達やっぱりしばらくは2人で行動しなさい! 恋! わかった?」
「はっ、はい。分かりました」
結局日城さんとか……てか個人の力量を図りたいから今回はソロでって言ったのはヨーマじゃん。それに俺取材なんてした事ないって言いましたよね? はぁ……この人の考えもやっぱり分からないな……。まともなのは桐生院先輩だけか!
「シィロォ? 聞いてるの?」
やっ、やべっ。
「はっ、はい!」
「いい? 今回だけは私が手助けしてあげる。今後はそれを参考にしなさい?」
「わかりました」
「まず、今回私は各部活の取材……そう言ったわよね?」
確かにそう言われました。だから全部活動のキャプテンに話を聞きに行きました、女子のキャプテンも含めて。おかげ様で症状出まくり、佐伯先輩・桜井先輩にも捕まり、相良先輩にはまたしてもしつこく勧誘されたり、それなりに苦労しましたよ?
「それを馬鹿正直にやっちゃう時点で駄目なのよね」
えぇ……そうなんですか……
「こんな事なんて何処だってやってるわ。その時点でつまんないのよ。つまりそこからが記者の手腕が試される訳。それをどうやって膨らませるか」
膨らませるって……それを素人に求めてたんですか!? 悪魔や……
「ふっ、膨らませるって……」
「恋? あなたならどうする?」
「そうですね……。私だったらキャプテンはもちろんの事、その部活のエースとか看板になる部員を紹介してもらってその人をメインに記事にします」
えっ? なにそれ、そんな所まで考えなきゃいけないの? これが膨らませるって意味なの?
「んー。さすがに良い線はいってるわね」
「そうですか?」
なに俺の方見てんのさ。そのドヤ顔少し腹立つし、寒気が止まらないんですけど?
「でも……」
ん?
「もしそういう路線なら、私だったら……いっその事各部活動のイケメン・美少女を聞いて回って、特集にしちゃうけど」
はっ? いやいやそれだと最初の指示とだいぶ違う様な……
「なっ、なるほど……」
日城さん納得しちゃってる!
「でも、それだと元の目的からだいぶずれてないですか?」
「別に良いのよ」
「えっ?」
「私の指示を何だと思ってるの? 神様のお告げなんかと勘違いしてない?」
どちらかと言えば悪魔の囁きなんだが……
「指示は指示。まぁ、ドラマで言う原作みたいなもんよ。そこからどうアレンジするかはあんた達次第って事」
アレンジって……場合によっちゃ物凄くつまんなくなるって事? でも……ネットとかでは原作のままが良かったとか、そう意見も多くね?
「お言葉ですが……」
「なによシロ。今日は随分突っ掛かって来るじゃない」
いや、突っ掛かるっていうか……
「あの、中には原作のままの方が良かったってドラマも多く存在するのではと……」
「それは本当のドラマの話でしょ? 例えの話よ! 新聞は珍しい記事の方が良いに決まってるの。つまり指示は指示、そこからずれてようと珍しい! 面白い! 皆の目を夢中にさせる物なら何だっていいの。それを考えるのがあんた達って事!」
うわっ、無茶苦茶だ! 言ってる事は限り無く暴君そのもの! でも、良く考えたら分からない事もないかも。確かに見た事なかったり、特殊な切り口の記事の方が皆の興味も湧くよな? という事は……面白ければ指示を丸ごと無視しても? 一応聞いてみるか?
「なるほど……という事は、自分で考えて注目される特集にすればいいんですよね?」
「そういう事。分かってくれたかしら?」
「大体は……という事は、面白いと思ったら葉山先輩の指示を無視しても……」
「指示を無視……面白いわね」
あれ? 意外な反応。
「私の指示を無視……それが余程面白いなら良いけど。私の指示かすりもしないって……そんな事できる?」
っ! まずい! ヨーマが笑ってる! これは……これはつまりあれだ……
指示を無視してもいいけど、面白くなかったらその時はどうなっても知らないわよ?
わざわざ口にしなくても、悪魔の微笑みからそんな声が聞こえてくる!
「ムリデス、ナンデモナイデス」
「そう? なら良いけど」
あぶねぇ。あの顔されたらいつ暴露されるかって不安しか出てこないよ! 機嫌を損なわないようにするのも、それを探るのも一苦労だわ……
「まぁそんな訳で、シロがゴールデンウィークという貴重な期間を無駄にしちゃったので」
なんか、チクチク攻めてくるんですけど? いや……頑張りましたよ? かなり頑張りましたよ?
「とりあえず今回はゴシップペーパー新年度の挨拶って事で作成するわ。後は適当に采が書くとして……」
「ははっ、まいったな。いきなりご指名か」
桐生院先輩、怒ってもいいんですよ? むしろ怒れるの桐生院先輩しか居ないっす。なのに何なんですかその冷静な感じ。言葉と態度が合ってないですよ? めちゃくちゃ余裕たっぷりな感じに見えるのは気のせいですか?
「2人にはまた部活関係をお願いするわ」
えぇ……また部活? てか聞き尽くしたっての。
「先輩? でも部活関係なら今回の月城君の……」
「甘いわね恋。今は5月……6月最初には何があるかしら?」
6月最初……? あれ? 確か学校案内とかに書いてあったような……なんだっけ?
「6月は……体育祭ですか?」
「正解」
へぇ~体育祭があるのか。それで、体育祭と部活に何の関係が……。
「体育祭と部活動……それに関わる面白い特集。さっきも言ったけど今回だけはアイディアを提供するわ。今後は参考にしなさい?」
「はっ、はぁ」
「じゃぁ、あんた達2人にお願いするわ。どのクラスが優勝するのか……開催目前! 体育祭特集よ」
「体育祭特集?」
「体育祭特集!?」
また日城さんと声が被ったわ。それにしても体育祭特集? マジで言ってんのか?
「あっ、あの……それってどういう……」
「言った通りよ。鳳瞭学園の体育祭は毎年かなり白熱するわ。全国区の部活所属の学生が居るんだからど当然よね?」
確かに……その辺り部活同士で張り合ってそうだなぁ。なんか火花バチバチなのが目に見える。
「だから、各クラスで部活所属者の数、それらを調査して、私達独自に優勝候補とかを予想するのよ。それ見たら、例年以上に部活所属者は気合が入るし、絶対盛り上がる事間違いなしね」
ははぁ……確かにそのアイディアは有りかも知んないな。学校新聞でそんなの書く学校なんてない気がする。それに、他の学生の目にも止まる様な内容だしなぁ。ヨーマめ、意外と的を得た指示ができるのか? てっきりその場の雰囲気で決めてそうな感じだったんだけど。
「という事で、その辺の取材頼むわね」
えっ……という事は、
「えっと……まさか7組全部に聞き込みと調査って事ですか?」
「本当にバカなのね、シロ」
バカって言われた、2回も言われた。
「運動部で足早い人とか、身体能力高い人。パワー系ならラグビー部とか目星付けてその人のクラスを聞き出せばいいじゃない。クラス全体を詳しく調べなくても、いざ本番になったら思わぬダークホースの登場で逆に盛り上がる可能性もあるから、有名どころだけでいいのよ」
「なっ、なるほど……」
なんだろう、めちゃくちゃ良い事言ってるのに、妙に悔しいな。ヨーマの見た目……というか日頃の様子で、結構力任せというか強制的に取材とかさせるよなイメージだったから、的を得た指示がしっくりこないな。
「はい。決まり! 2人頼んだわよ?」
「わかりました」
「はい……」
こうして、体育祭特集に向けて動き出した訳だけど、今回も日城さんとペア。果たして上手く出来るのだろうか。そしてあのヨーマが認めてくれるような特集になるのだろうか。不安で一杯で夜も眠れなそうだ。
早く帰って、松平勝三ポジティブボイス集ボリューム3聞きながら、トゥギャザースリーパーの枕で眠ろう……。
「あっ、そういえばこの前のマリンパークの取材資料とか原稿ってどうなったんです?」
「マリンパーク? あぁ、あれはあんた達の親睦を深める為の口実だからいらないわ。それにマリンパークなんて有名どころ、みんな知らない訳ないでしょ? 載せるだけ無駄だしね」
ははっ……そうですか。その口実のせいで俺はぶっ倒れて、秘密を暴露せざるを得ない状況に陥った訳ですけど?
「なに? 文句ある?」
「アリマセン、ナンデモナイデス」
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