第15話 目立たず、出しゃばらず
「すげぇ、自然だらけだな」
「なんか空気が違うー」
横を流れる大きな川に、程よい風に揺られる木々の葉っぱ。それはまさしく天然のマイナスイオン。
そしてその全てが、俺の中の溜まった毒素を浄化してくる。ここはなんて素晴らしい所なんだろう。
「ひっ、ひぃ! 虫ー!!」
って、おい! 俺にくっついてくるんじゃないよ爽やかイケメン! そっち方面に興味あるやつだって思われるだろが! しかもお前違う班のくせに何で居るんだよ、勝手に班を混ぜるんじゃないよ!
「栄人君虫苦手なんだ~。何かいつもの感じからは想像できないね」
ほら見ろ、お前の好感度だだ下がりだぞ?
「でも、なんかそういう一面があるって良いよね」
イケメン爆発しろ!
お前が居たら影に隠れられると思ってた。でもここ2週間でその考えは吹き飛んだよ! お前と居たら何かと引っ張り出されて確実に巻き込まれる。お前がいなきゃ大人しく影の様に溶け込めるんだ、だからこんな時位さっさと俺から離れてくれぇぇぇぇ。
はぁ、せっかくの癒しの時間がどっと疲れたわ。んで? 今から晩御飯のカレーを班ごとに作る訳だが……さすがに1年全員となるとかなりの人数だな。まぁそんな人数が居られるキャンプスペースってのもある意味怖いけどね。ん?
「おっおい……どうする?」
「俺に言われても……」
あぁ、俺の班はこんな感じ。知り合いがいない同士、先頭を切って発言する人もいない典型的なまとめ役不在って状況だ。どれどれ? 他の班はどんな様子かな?
「じゃあ女性陣は野菜とか切ってくれる? 俺は水持ってくるよ。高橋は火起こし頑張ってくれ」
おぉ、いつも余計な事をしてくれけど、本来こういうのが得意なんだよな栄人は。こんな感じでいつも居てくれたら俺としても安心なんだが……たまに突拍子もない事言いやがるのよね。さて、他は?
「あっ、うん私野菜とか切るね。お米は研いだよ? 飯ごうも私見とくから、お鍋見てくれる?」
なるほど……早瀬さんは雰囲気通り何でも出来るタイプだな。ただ、頼まれ事とかも断れないって性格な気がする。いつか自分のキャパを越えなきゃいいけど、まぁこの状況だとその性格が頼りになってるって感じで上手くいってるみたい。
「えっとそこの君? 部活は? 野球? じゃぁ体力には自信あるよね? 木材とか持ってきてくれる? えっ? 料理好きなの? それ早く言ってよ! あっ、彼料理好きみたいだからみっちゃんと2人に任せるね。私は野菜洗ったり、他に必要な事見つけてやるから」
日城さん……意外とコミュ力高いのか? 言い方はともかく相手の話はちゃんと聞いてるし、その上で相手に不満を与えないように指示もしてて……なんだか栄人に似てる部分がある気がする。
なんだかんだ、皆上手いもんなんだな……という事で、問題は俺の班か。
えっと、
……仕方ない、あんまり目立たない程度に。
「えっと、皆いい? 皆ほぼ初対面でどうしたらいいかなんてわからないと思うけど、何かしら取り掛からないとどうしようもないからさ? とりあえず自分の得意な事やってみよう」
「得意な事って言われても……」
まぁ、いきなり言われてもこうなるわな。じゃあ、
「ちょっと、待って。まず名前分からない人とかいる?」
んーと無反応。じゃあとりあえず皆お互いの名前は知ってるって事だよな。だったら、ボチボチ動きますかって言っても、自己紹介の時の情報しか頭にはないけど……
まずは、明石。確か科学が好きで科学部に入りたいって言ってたよな? 科学か。
それに柳、水泳をやってるらしいから、高校でも水泳部に入部は確実……となると体力には自信あるっぽいな。とくれば、
「えぇっと、あぁ例えば明石君、君は確か科学が好きって言ってたよね?」
「えっ? そうだけど……」
「じゃあ、火を起こす為に必要な物とか、動作とか分からない?」
「あっ、大体は……でも僕やった事はなくて……」
「そこで、柳君の出番だよ」
「えっ? 俺?」
「確か水泳やってたんだよね? つまり体力はある」
「確かにそうだけど……」
「2人協力すれば火とか起こせるんじゃないかな? 明石君が情報を、柳君が体を使う」
「あっ……確かに! 頑張ってみよう」
「そっ、そうだな!」
よし、これで男性陣は大丈夫か。次は……女性陣。
佐藤さんは……料理好きって言ってなかったっけ? 確か実家が洋食屋さん。だったら料理全般を彼女に任せてみよう。
紋別さんは……やばい! 確か本が好きって言ってたけど、どうやってそれを生かすか……全く出てこない! そもそも本が好きって何の本が好きなんだ? 小説? それとも雑誌も含めた本全般? わからんな……とりあえず、探り入れてみようか。でもやっぱ女子に話し掛けるのは……嫌だなぁ。
「さっ、佐藤さん。佐藤さんは料理好きだって言ってたよね?」
あぁ、なんか口調が冷たい感じになってる。
「えっ! そっ、そうだけど……」
「分かった。じゃあ料理全般は佐藤さんに任せるよ」
「えっ? でも……」
「たぶんこの中で佐藤さんが1番料理上手いと思うから、大丈夫だよ」
「……うぅ。わかりました。でも、味は保証できないです」
「わかった。じゃあ頼むよ」
よしっ、後は紋別さんか……。
「あっ、あの紋別さん?」
「はっ、はいぃ」
うわっ、めちゃくちゃ怪しまれてる? 避けられてる? かなりオドオドしてるんだが。
「確か、紋別さんは本読むのが好きだったよね? ちなみにどんな?」
「そっ、それは……恥ずかしながら絵本でして……」
はっ? えっ、絵本? マジか? 小説とか雑誌とかじゃなくてまさかの絵本?
「えっ、絵本か……」
「はい……すいません。おかしいですよね」
やっば! ネガティブスイッチ入っちゃったか?
「いっ、いやいや! そんな事ないよ」
「いいんです。中学の皆からもそう言われてたので……自分でも分かってるんです」
ははっ、どうしましょう。まさか彼女も中学時代のトラウマ持ちだとは。これは厳しいか? 絵本、絵本……なにかカレー作りに生かせる事はないか? カレー、食べ物…………あっ! 待てよ? 可能性は低いけど、もしかすれば!
「そんな事ないって。あっ、じゃあさ……紋別さんが読んだ絵本で、カレーが出てくる絵本ってなかった?」
「カッ、カレーですか?」
「そう。カレー」
絵本と言えど、その中には色々食べ物が出てくる物もあるはず。それを生かせないか?
「カレーって……うーん」
やっぱピンポイントでカレーってないかな?
「あっ! ありました!」
おっ、マジか?
「でも、これって作り方とか具材の大きさとか種類とかが普通じゃないんですよね……」
普通じゃない……?
「普通じゃないって、どの位?」
「いえ……ある絵本で、王様が道に迷って田舎の民家に一晩お世話になるって話なんですけど、その夜に民家のお母さんが作ってくれた特製のカレーがとてつもなく美味しいって感じで……」
「へぇ。作り方はともかく、野菜とかは普通じゃないの?」
「それが……一般的にはカレーに入れないような物が隠し味に……」
隠し味か。多少の危険性はあるけど……どうなんだろう? 佐藤さんに聞いてみてもし可能なら取り入れてもらうってのは? それなら紋別さんも一緒に料理任せられるんだけど。
「いいんじゃないかな? ちょっと佐藤さんに聞いてもらおうよ」
「えっ? そっ、そんなダメですって」
「どうかしたの?」
「紋別さんがカレーの作り方で聞いてほしい事があるって」
「えっ? どんな事かな?」
「絶対無理ですって!」
ふう、後は佐藤さん次第かな。駄目でもそのまま一緒に料理作ってくれるだろ。
それにしても、目立たないように人を動かすってのも悪くはないかも知んない。あっ、いや! 変な意味じゃないぞ? 違うぞ? まぁ人の事言えないけど、やっぱり人にはその人でないと出来ない事があるんだよね……たぶん皆はその事に気が付いてないし、気付ける人の方が少ない。
だからそれを見つけて、導いて行くってのも……悪くはないのかもね。ただ、自分自身もそれが何なのか分かってないけどね。
俺にしかできない事……それってなんだろう。
「…………を入れて、」
「うんうん」
「……ってするんです」
「なにそれ? 斬新的!」
「えっ? 本当?」
「本当だよ! 挑戦してみたくなっちゃた。手伝ってくれる? 紋別さん」
「うっ、うん! もちろん」
えっ? マジですか? 佐藤さんめっちゃ乗り気じゃんか! 絵本カレーの爆誕か……
どうか美味しく食べられますようにっ!
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