第14話 楽しい?林間学習

 



 皆さん、いかがお過ごしでしょうか。俺は相変わらず外を眺めながらボーッと過ごしてます。えっ? 雲の流れが速い? 外の景色が動いていないかって? さすがですね、それは見間違いでも幻覚でもありません。そう、俺は今、林間学習へ向うバスに乗っているのです。


 1泊2日の林間学習。

 もっぱらの目的はクラスの親睦を図る事らしいけど……あれから俺はヨーマのせいでクラスで少し目立つ存在となり、おかげで大半のクラスメイトとは話す機会があった。話すって言っても軽い世間話程度だけど。


 もちろん、その中には女子も含まれている。相変わらず話す時には寒気がしたり、口が思うように動かなくて未だに親しげに話す事はできないでいたけど、そんな様子も相俟ってか女子から話し掛けられるって事は徐々に少なくなってきてはいた……そう、あの子を除いては。


『わかった! じゃあ私が女恐怖症治すの手伝ってあげる』


 あの出来事から1週間、あの後、取材でマリンパークを回っている時からすでにそれは感じていた。職員にお礼を言って医務室を出た後、まぁヨーマに怒られないようにマリンパーク内の現地取材をした訳だが……なんか今までの様子が嘘の様で、表情だって普通だった。しかも何かに俺に話し掛けてくるし、その変わり身の早さに正直言って驚いて、なんなら軽く引いていた。


 もしかしたら、次の学校の日もそんな感じで来るの? とかって心配してたんだけど、月曜日に現れた日城さんは今までと同じ様子だった。友達と挨拶して自分の席に向かって……けど、そんな日城さんの様子を見ていた俺と目があった瞬間、驚いた顔を見せたと思うと俺の席に近づいてきて、


『月城君、おはよう』


 あの日の様な感じではなかったけど、俺に挨拶してきた。


『おっ、おはよう』


 やっぱり、その姿を見ると上手く喋れなくて……若干、カタコトの様になってしまった俺の挨拶を聞いた日城さんは、そのままそそくさと自分の席に戻っていったっけ。


 まぁ、結局はそれ位だった。日常的な挨拶、日常的な会話、周りから見たら学級委員同士仲良くなったんだろうなぁぐらいの感じだと思う。あの言葉通り積極的な行動を警戒していた俺としては、結構安心した部分はあったけど、逆に何か裏がありそうで少し不安になっている。


 日城さんがなんであんな事言ったのか、理由は分からない。たぶん女性恐怖症というのがどんな症状なのかって観察と記録か、はたまた面白がっているだけなのか、それとも克服させた事で私凄いって自分に酔いたいだけなのか……おそらくそのどれかには間違いないだろう。


 そうなると、なぜ正直に女性恐怖症の事を言っていまったのかって後悔しかないんだけど、あの時あの状況ではそうするしか最善の方法がなかった。だからどちらにしても、そうなる運命だった……そう自分に言い聞かせてきた。


 まっ、今の所何もないし……とりあえずクラスの女子に言いふらしたって事はなさそうだな。もうちょい様子を見るしかないって感じかな? それに、あっちからわざわざ来てくれるんだったらこれを機に女の子に慣れるってもの考え様によってはありだよな? といっても、症状が顕著に出るのは……日城さんだけなんだけどね。これだけは本人には言えないな。後ろに怖い人がいるし。


 なんて事を考えているうちに、バスは目的地である鳳瞭荘へと到着する。山の中に建てられた少し大きめな施設。近くには川が流れ、ハイキングコースやキャンプ場と自然を体験するに最高の設備が整っている。もはやこんな所まで自前で持ってるとは、やはり鳳瞭……恐ろしい。


「うわっ! すげぇな蓮!」

「あぁ、そうだな」


 日城さんに隠れて忘れかけてたけど、この爽やかイケメンもまぁまぁな事をしでかしてたっけ……まぁそれについては後々話すとして……


「はーい。じゃあ、とりあえず荷物置いてこよっか? 行程表に各自の部屋割書いてるから、そこ行こう」


 バスから降り、そう言いながら施設の中に入って行く高倉先生の後に俺達も付いて行く。そして、玄関に入った瞬間だった。ザワザワガヤガヤと前の方から他のクラスの奴らの声が聞こえてくる。


 なんだ? 

 そう思ったのも束の間、その理由が俺達の目の前に現れた。


 まじか! これは……ボロッ!


「えぇ? 嘘だろ? なんかボロくね?

「やだーなんか外見と違いすぎない?」


 玄関に並べられた下駄箱は、木で出来ていて見るからに古いって分かる。それに目の前に続く廊下も木で出来て、雰囲気で表すなら伝統ある昔の小学校。それが1番合ってる気がする。壁はなんかひび割れてる所もあるし、正直学園との落差が激しすぎる。


「はい、じゃあ靴適当に入れてー。あっ、自分の靴どこに入れたか忘れないように。じゃあ男子はこっちの左側、女子はあっちの右側、階段上がれば部屋あるから自分で探してって事で! そんじゃ俺は他の先生方と打ち合わせあるから、荷物置いたら外集合ー。じゃっ委員長、後はよろしく」


 高倉先生はそう言うと、そそくさと外に行ってしまった。なんだか適当に感じる所もあるが……結構要点だけまとめて話してくれるから、意外と分かりやすい。おそらく、爽やかイケメンに任せることで、委員長としての自覚。他の奴らはそれに従って、時には聞いて……そのコミュニケーションが互いの仲を深めていく。それが狙いなんだろう。いや、そうだと思いたい。その証拠にあの爽やかイケメンは目茶苦茶張り切ってるしね。


「はーい。じゃあ3組の皆、それぞれの部屋に行って荷物置いたら外に集合って事で。俺達学級委員が待ってるから、そこに集まってくれ! じゃぁ……琴と日城さん! 女子の誘導お願い! 男子は俺達に付いてきてー」


 おっ、さすがこういうのには慣れてる。こいつのこういう所だけは見習わないといけないかもな。


 そんなこんなで、行程表に書かれた3階に来た訳だが、やっぱりどこもかしこも玄関と同じ感じで結構ボロい。そのくせ部屋数が多いからなんだか雰囲気は人気のない寂れたホテルって気がする。


「えっと、皆ーたぶん俺達の部屋はここの通りに全部あるから、部屋の番号見てね? 俺達は……305号か……あっ、あった」


 古い引き戸を開けて部屋の中に入ると、そこには両脇に1つずつ2段ベッド。そして真ん中にはちょっとしたスペースがあった。まさか寮の部屋より狭いとは……やはり学園とのギャップが激しすぎる。


「じゃぁとりあえず、荷物置いてと……蓮? いいか?」

「はいよ、外行くんだろ?」


「あぁ、俺達学級委員が待ってるって言っちゃったしな。田中と高橋もすぐ来いよ?」

「あぁ」

「わかった」


 そんなこんなで、俺達は無事に林間学習の舞台である鳳瞭荘へ到着した。これから、オリエンテーションをして各班に分かれてハイキングコース探索、その後は恒例のカレー作り、そしてキャンプファイヤーに、なぜか肝試しといった催し物の予定みたいだけど、ぱっと見どれも楽しそうな雰囲気はしている。


 ただ、なんだろう……どことなく感じる嫌な予感。

 はたして俺は、楽しく林間学習を終える事が出来るのだろうか……



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