第7話 匂いと柔らかさと、時々寒気
ん? 俺……寝てる? なんでだ? しかも、なんか下敷きにしてる? 顔とか上半身になんか柔らかい感触あるんだけど。それに……バラみたいな目茶苦茶良い匂いがする。あれ? なんか右手のとこ……なんだこれ? めちゃくちゃ柔らかい……。てか一体全体どうなってんだ?
まるで高級マットレスに寝ているような感覚。そんな気持ち良さを感じながら、ゆっくりと目を開いていく。
少しぼやけた後に、鮮明に見えてくる視界に写ったのは、見覚えのある色合い。それに気づいた瞬間、背中に寒気が走る。
うっ、うわ……これって制服だよな? しかも……女子!?
「んっ……あら初めて会うのに……ずいぶん積極的なのね」
その声に、俺の予感は確信に変わる。
まずい……明らかに女の人。しかもこの状況は……
恐る恐る、顔をあげていく。見覚えのあるボタンにリボン、そしてその先には水色の瞳に金髪。まるで外人の様な美人さんが俺の事を見ていた。
まてまて、そもそもなんだこれ! なんで俺倒れてるんだ? しかも金髪ってまさか留学生とか? まじか大丈夫か? ここに来るって事はそれなりの家柄! 国際問題とかそんなのに発展しやせんか? あれ……ちょっと待てよ? じゃあ今俺、この人の上に乗っかってる? そうなると、この右手で鷲掴みにしているのは……。
見るのが怖い。見なくても分かる。この状況で右手の位置、そしてこの大きさ、柔らかさ…………あぁ、やっぱりそうでした。思いっきり鷲掴みしてます。この美人さんの胸を。
「まぁ、そういうのは嫌いじゃないけど」
美人さんの声が、おれを現実へと連れ戻す。その状況を把握した瞬間、異常なほど心臓が早くなって血の気が引くような感覚が体全体に走る。
やべぇ! 最悪だ! 超最悪だ! 周りから見たら俺、押し倒して胸揉んでる変態じゃねぇか! 早く離れろ!
「うわっ! すっ、すいません。すいません」
その状況と美人さんのお言葉に、俺は我ながら物凄い反応速度で立ち上がって謝っていた。
やばいとにかく謝れ! これ公になったら俺絶対退学じゃねぇか! 入学2日目で退学とか伝説になるレベルでやばいぞ!
「すいません! わざとじゃないんです! 本当にすいません」
「そんなに謝んなくていいよ。気にしてないから」
えっ? マジで? 許してくれんの?
「だから顔上げて?」
上げて良いのか? もしやこれは試されてるんじゃ?
「いえっ……本当にすいません」
「だからいいってば。早く顔上げないと言っちゃうよ?」
えっ、それだけは勘弁してください。
何としてもそれだけは阻止したい俺は、美人さんの言うとおり顔を上げる。すると、顔を上げた目の前に立っていた金髪の女の人はやっぱり美人で、それこそ外国人って言われてもおかしくはない。
うわっ、身長高いな……俺と同じ位じゃん。それに足長! 細っ! モデルって言われても遜色ないぞ? って、とりあえず体の心配しなきゃだよな?
「あっ、あのすいませんでした。怪我とかないですか?」
「少しびっくりしたけど大丈夫。君見かけによらず結構積極的なんだね」
なんか体全体を分析されてる……もしや、これを餌に脅迫されるのでは?
「まぁ、それはいいとして」
え? いいのか?
「君名前は?」
「つ、月城です」
「1年生よね?」
「はい」
「かなり急いでたみたいだけど……なんかあったの?」
急いでた? あれ……そういえばここどこだ? 待てよ? そもそも俺何してたんだっけ? 確か教室に部活の勧誘が来て、それで具合が悪い振りして教室を出たよな? あっ、そうだ日城さんが目の前にいてパニックになって、とりあえず離れたくて宛てもなく走り出して……そのままぶつかったのか。
思い起こせば起こすほど、何と無様な姿。想像するだけで恥ずかしくて仕方ない。
「そんなに急いでました?」
「えぇ。物凄い形相だった」
「すいません」
「まっ、それなりの事があったんでしょ。そこまで詮索する気はないわ」
ん? なんかこの人変わった雰囲気だな。普通、ぶつかられて胸まで揉まれたら、怒ったり驚いたまんまだと思うんだけど、なんか冷静沈着というか。俺がこう言うのもおかしいけど……とりあえずお礼でも言っとくか?
「すいません。ありがとうございます」
「ところであなた……部活には入ってるの?」
「部活ですか? 特に入ってないですけど……」
部活? なんで部活の話?
「そう……じゃあ、君新聞部に入る気はない?」
はっ? 新聞部?
「えっ? 新聞部って」
「その名の通り新聞部よ。校内新聞やその他もろもろの情報をまとめて校内に掲示するの」
まぁ、確かにその名の通りだよな? でも……校内新聞ってなんかなぁ。
「はぁ、でもなんで俺を?」
「んー。直感かな? それに今部員が3人しかいなくて、人手不足なのよね」
「でも、俺そんな文才とかないですよ?」
「そういうのは得意な奴がいるから問題ないのよ、取材とかしてくれる丁度良い人居ないかなぁって思ってたの」
正直なんだかめんどくさいな……まぁこんな美人さんと同じ部活ならやる気はMAXだけど、取材って各生徒とかにでしょ? 男ならまだしも女だったら……わざわざ近寄る機会を作り出すのもなぁ……
「きっと適任な人が入部しますよ! 何なら俺クラスで……」
「……ホントにそんな事言っていいのかな?」
はっ、美人さんの様子が変わった。なんか笑ってる! けどあの笑い方は大方なにか悪い事を考えてる時の笑い方だ! ドラマとかで見た事あるぞ!
「怖かったなぁ。いきなり押し倒されて、無理矢理触られて……怖くて声も出なかったなぁ」
あぁ……やっぱりそうですか。そうきますか畜生! そういう事か……俺は最初から美人さんの手のひらで転がされてたんだ。勧誘ではなく、強制的でもなく、自主的な入部を余儀なくする為に。こうなったら……断れない。断ったら、俺の愚行が暴露され、高校生活は破綻してしまう。
こちらを悪魔の様な微笑みで見つめる美人さん……その要望を断る事なんてできなかった。すべてを受け入れる……それしか俺に残された道はない。
「わかりました……入部します」
「します?」
「いっ、いえ! 入部させてください!」
「よろしい。入部を許可します」
悪魔や……この人、本当は悪魔なのかもしれない。
「それでは改めまして。、新聞部いえ、鳳瞭ゴシップクラブ編集長の2年|
「えっと、蓮です」
「蓮……」
ん? どうかしたのかな? なんか考えているような……気のせいか。
「それじゃあ、月城君。改めて歓迎するわ。ようこそ鳳瞭ゴシップクラブへ」
こうして……俺は不本意な出来事が重なった結果、その間わずか5分にも満たない内に、見事この美人な悪魔の支配の下、鳳瞭ゴシップクラブ(新聞部)への入部が決定した。
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