そんな才能分配じゃ、まーた文句言われますよ
ちびまるフォイ
世間に浸透している才能分配
箱いっぱいに才能が入っていた。
私の仕事はこの才能をひとびとに分配する仕事だ。
「さて、どうやって配布したものかな……」
いろいろ分配方法を考えたけれど、
最終的にはみんなに平等に同じ才能を分配することにした。
「よしよし、これなら争いは起きないぞ」
自分の仕事に達成感を感じつつ、分配した結果どうなっているかを確かめた。
すると、才能を分配したはずなのにまるで才能が生かされていなかった。
「おいおいおい。せっかくたくさんの才能を平等に与えたってのに、
なんで使わずに宝の持ち腐れなんてするんだ!」
誰もが同じ才能を持っているとそれは才能ではなく、常識として扱われる。
誰でもできるようなことをひけらかす必要なんてない。
そのまま才能消費期限を過ぎてすべて失われてしまった。
「ああ……もったいない……」
さらに悪いことに、才能を分配した人からは怒られてしまった。
「おいどうなってるんだ! 才能が分配されてないじゃないか!」
「そうよ! ちゃんと分配してよ!!」
「分配してるんですよ! それに気づいてないだけです!」
「うそつけ!!」
才能消費者は自分たちが当たり前に感じている才能に気づかず、
いつのまにかロストしている才能への怒りをぶつけてきた。
もっと考えて分配しなければならない。
そうでなければせっかく才能を分配した意味がない。
そこで、今度は才能の分配量を少し抑えることにした。
「これなら才能があることにも気づけるはず。前のようにはならないぞ」
みんなに等しく分配するのではなく限られた人間にだけ才能を分配した。
最初からこっちにしておけばよかった。
才能を分配してから、人々の様子を見るとますます状況は悪化していた。
「なんてひどい分配してやがる! ふざけんな!」
「どうして私には才能が与えられてないの! 不公平だわ!!」
「え、ええ……」
狙い通り才能の有無には気づけたものの、
自分には才能が与えられてないことにも気づけてしまう。
そこからくる不平等への怒りの矛先はすべて自分に向けられた。
「で、でも一部の才能を与えられた人はきっとその才能を生かしてくれるはず……」
けれど才能を持っている人は、自分の才能を自覚したうえで腐らせていた。
才能を持っている人よりも才能がない人のほうが大多数。
へたに才能をふるったところで、その他大勢の凡人には理解できない。
才能をもたない大多数の反対により、才能を生かす環境になかった。
私はすっかり頭をかかえてしまった。
「もうどうすればいいんだ。みんなに才能を与えてもだめ。
かといって、しぼって配布してもだめ。どうしようもないじゃないか」
さまざまな才能分配に関する文献を読み漁り、
いろんな才能分配に関する数式を研究したがだめだった。
何をどうやっても分配したあとで文句を言われる。
寝ずに三日三晩考え続けても答えは見えないままだった。
「もう……どうでもいいや……」
そうしてすべてどうでもよくなってサイコロでテキトーに才能を割り振った。
いっそ、最大まで文句を言わせてやると全員にバラバラの才能を分配した。
「ははは。もうどうにでもなれっていうんだ」
悩み考えることも馬鹿らしくなり雑に才能を分配して寝た。
不平不満が聞こえないようにしっかり耳を塞いだまま。
しばらくして目を覚ますと、冷静になったことで自分のやらかしたことに冷や汗が流れた。
「やばい……今どうなっちゃってるんだろ……」
めちゃくちゃでいい加減に割り振った才能でどんなに怒られているか。
社会はどれだけ混乱してしまっているか。
おそるおそる見てみると……。
才能を分配した世界では誰もが才能を最大限に生かして大成功していた。
全員にバラバラの才能を配布したことで差を妬むのではなく、
お互いに才能を認めあったことで受け入れてくれた。
「す……すごい……こんなことになってるなんて」
自分でも想像してなかった大成功に面食らっていると、
才能分配の社長が上機嫌でやってきた。
「いやぁ、君の才能分配がすばらしいと連絡を受けてきたよ」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます。ねっ……狙い通りでした」
「狙い通りとはおそれいった。それで、名前はもう決まっているのかな」
「名前?」
「今回大成功した才能分配方式の名前だよ。
このノウハウをぜひ他の人にも教えて、同じような分配を広めなくちゃな」
「なるほど……それじゃ、こんな名前はどうですか?」
そうして、この才能分配法には【個性】という名前で登録された。
そんな才能分配じゃ、まーた文句言われますよ ちびまるフォイ @firestorage
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