第19話 チーム桂木 勘違いから新たな使命へ


 翔は形見の御神刀を手に、四人で元気なくわが家へ帰って来た。あまりの元気のなさにどうした事かと心配する母親の美奈、

「まあ、お帰りなさい。早かったのね、楽しかった?もう少し遊んでくる予定じゃあ無かったかしら。あら、何だか元気無いわね。強君達も一緒だったの。あらあら、こっちのお二人さんもどうしたの。御両親もあなた達の顔を見てから帰りたいそうで、まだご滞在よ。とにかく居間で一休みして頂戴。今お茶でも入れるから。お父さんは何処。あら、電話中なの」

 一人しゃべり続けながら、台所へ向かう美奈である。

「親父たち、まだ帰っていないのか。あまり報告する気になれないのに」

 強はそう言いながら、烈と居間に入って行った。翔とリラも出来る事なら話は彼らに任そうと、翔の自室に入った。翔がベッドに突っ伏すと、

「まあ、自分だけベッドにもぐり込んでしまう気、あたしだって突っ伏したいよ」

「客用布団出して寝たら。強たちも島と牢に分かれて、すぐ居なくなるさ。多分、今日事情が分かればご両親も帰るさ。布団も部屋も開く」

「まっ、あたしはこの部屋じゃない訳」

「言っておくけど、写真撮っただけ」

「ずっとスイートに泊った仲じゃない」

「部屋、別だったし」

 そこへ父親英輔が、何の配慮も無くガバットふすまを開け、そこではっと気が付くが、咳ばらいをし、要件を言い出した。

「お前、御神刀を持っているな、FFBBIがロン・ロック殺害の容疑者と凶器を探しておるぞ。何せ大統領のSP殺害事件だからな。それ、どこかに処分しないと、お前、捕まるんじゃあないか」

「心配いらないよ、犯人は死亡って届けるから。そういう事なら、一応、これもFFBBIに渡すけど多分、烈が盗み出す。いやだめだ。あの兄弟は御神刀は扱えないと言う事だったな」

 むくっと起き上がった翔。リラに、

「じゃあ、リラんとこのケインとアンリの仕事だな」

 リラは、

「悪いけど、あいつらにはとても無理、この前だって、あたしが金庫を開けたんだから。あんたが自分で取り返しな」

 ため息をついて翔は、

「んじゃあ、これから出勤して渡して来るから」

 と言い捨てて、御神刀を持ちふらふらと外に出た。

「どうしたんだ、翔。いやに元気ないじゃあないか」

 英輔も心配するが、翔は黙ってそのまま車に乗って、自分の部署に行ってしまった。残されたリラは、英輔に、かいつまんで説明した。

「信じられないかもしれないけど、あたし達、龍神の紅の新しきせせらぎの尊と一緒に、焔の童子やら、地獄の怪物的存在と戦って、その尊はシンてあたし達は呼んでいるんだけど、シンは怪物と相打ちで天国に召されたの。それであたし達、今、すっかりしおれている訳。かいつまむとそういう事なの」

「なるほど、熊蔵じいさんの奥さんが、それらしいことを最近私たちに言ってくれていたが、その龍神が天国に行ったとは知らなかったな。黄泉じゃあ無いかな」

「そうそう、その黄泉ってとこ」

 英輔は、首をかしげていたが、リラは翔のベットが開いたので、そこに突っ伏す事だけを考えていて気が付かなかった。

 翔の予想に反して、美奈がせっかくみんな揃っているからと、熊蔵一家を引き留め、もう一晩泊ることになり、葬儀の後の初七日のお食事会的雰囲気の夕食になった。

「まあまあ、元気出してちょうだい。みんな。翔、何しているのかしら。随分遅いわねえ」

「FFBBIと話し付けていると思います」

 リラの説明で美奈は納得したのか、しないのか一言、言った。

「犯人は死んだって事になっていないと、FFBBIってしつこいらしいのよねえ。でしょリラちゃん」

 英輔も、

「何せ、USBBの大統領のSPだったし、そういえばリラちゃんの義理のお兄さんだよね。そっちの死亡の件は、別に葬式とかはいかなくて良かったのかな」

「あっ、行くべきよね。何か連絡ないのかしら。えっと、あらら、沢山メールきてら。すっかり忘れてた。あたし、翔と明日の飛行機で行きます。丁度良かった。え、いえいえ、こっちの事。ちょっと電話してきます」

 すたすた部屋に行きかけ、リラは強たちを見ながら、目くばせをした。

 あんたらも霊魂でUSBBに来いと言う事だろうと、兄弟は解釈した。

 翔はその夜遅く帰って来た。元気なくこのままベッドに突っ伏そうとしたら、

「ギャッ」

 と殴られそうになった。

「俺のベッドで寝ているのか。俺は何処に寝ればいいんだ」

 すると、リラは布団をはぐって、どうぞと言う感じだったが、翔は、

「今日は遠慮する」

 と言って強か烈と寝ようとしたが、彼らには拒否され、仕方なく居間のソファに横になった。FFBBIには凶器の御神刀は拾ったことにして渡したが、犯人死亡を主張するのは、さすがに無理があり黙っておいた。元々、あの紅琉川近辺ゆかりの刀と言っておいたので、捜査して犯人行方不明と言う事で、片付けてくれることを願うしかない。彼らも多分温泉にでも入って帰るんだろうと思った。


 翌朝、リラにロン・ロックの葬式に行くと言われ、霊魂でUSBBに行く必要が無くなりほっとする翔。その時、最初に出会った時の事を思い出し、泣きたくなった。シンに『北極に行く手間が省けてよかったのう』と睨まれたのだった。

 ソファの寝心地は悪く、翔はあくびをしながら、リラと飛行機の搭乗時間まで空港ロビーで暇をつぶしていると、同じく、飛行機で故郷に両親と帰るつもりで、空港に来ていた烈がやって来た。

「良いのか、こっちに来て、時間あるのかな」

 と言うと、

「母さんが、北の極みの尊が死んだと言うんだ。地獄から来た奴にやられたそうだ。シンが相打ちでやっつけたような奴。そしてレディー・ナイラに取りついたと言っている。死んだのはシンの伯父さんだった龍神だろ。けっこう強かったんじゃあないか。だけど、今度は俺らがやるしかない。御神刀を取り戻して、早いとこやっつけないと、そいつとレディー・ナイラと一体化してしまう」

「気安く言うけど、俺らにそんな事できるのか」

「やるしかないだろ。言っておくが飛行機より霊魂の方が早いぞ」

「でも乗っておかないと、俺ら葬式に出席だし。お前は何便か遅れたって良いだろうけど」

「とにかく大統領の家の近所迄行って、そこいらに集合だからな」

 そう言って烈は立ち去った。リラは翔に、

「御神刀取り戻さないと、どうにもならないよ」

 と言ったが、

「それは心配ない。FFBBIが捜査に行っている間、元山さんが持っているんだ」

「なるほど」

 飛行機に乗った後、飛び立つのも待たず、直ぐに睡眠状態の翔とリラ。周囲の、

「新婚さんかしら」

 と言う予想の言葉を聞いたのか、寝ながら眉をひそめる。

 元山さんの所へ霊魂となって行ってみると、御神刀をデスクの上に置き、目を皿のようにして見つめていた。

「これで、どうやって盗むの」

 リラは呆れてしまった。

「この様子だと一晩中起きていたな。何か食えばきっと眠るさ。もう昼飯の時間になる」

 あくまで、楽観的な見解の翔。

 元山さんは食事に行く事務の女性に、帰りに弁当を買ってくれと、御神刀を見ながら、ポケットの小銭を探っている。

「あら、帰ってからで良いです。ポイポイで買いますから」

「そうか、頼む。五百円ぽっきりの奴にしてくれ。それ以上百円玉は無かった」

 随分不自由をしているらしい。御神刀紛失の責任を取らされ、又、収入が減ってしまうのは気の毒ではあるが、心を鬼にして頂戴するしか道は無い。

 翔は、

「彼女たちが戻る迄は待てないな。いつも休み時間ギリギリしか返ってこないんだ」

 と言うと、元山さんが段々瞬きがゆっくりになっているのを見て、比較的長く目を瞑ったタイミングで、さっと奪って窓から外に出た。後ろから、物凄い叫び声が聞こえた。

「元山さん、ごめん」

「ほんと、良心咎めるね。でも仕方ないし」

 等と話しながら、USBBへ急ぐと、強烈兄弟が前方に居るのが判った。

「おおい、御神刀持って来たぞ」

 と言いながら追いついた翔とリラだが、異変に気付いた。霊魂での動きに追いつけるほど、自分らが早く移動できるはずがない。

「なんで止まったの。早く行かなくちゃ」

 リラが聞くが、彼女も前方を見て、段々動きを止めた。

「あれは・・・」

「何だよ、行ってみようぜ」

 翔は目指すところへどんどん進んでいく。やっぱりあいつだ。間違いない。畜生、どう言う了見だ。しかも見た感じ結構良いもの着ている。しかし、男物の金襴緞子はどうかと思う。

「おおい、それに似合ってないぞ。どういうつもりで来やがった。ちくしょー。よくもだましたな」

「だましたなどと、人聞きの悪い事じゃ。実は黄泉の龍神枠は三体での。定員オーバーで追い出されたのじゃ」

「嘘つけ、判ったぞ。伯父さんが死んで顔を合わせづらくて、戻って来たんだろう。そうでなければずっと黄泉で暮らすつもりだったんだ。畜生」

「ふん、図星と言っておこうぞよ。我が、父上や母上とのらくらしておったのを、顔を合わせれば、伯父上はきっとお怒りじゃろう。死んだ後に怒りが酷いと地に落ちて、怨霊龍となり果てることがあるらしくての、父上や母上が顔を合わすなと言うのじゃ」

 そこへリラ達が到着し、

「わあ、シン生きていたんだ。会いたかったよう」

「よしよし、我も最後、主と会わずじまいなのが気がかりで在ったぞ」

「んなら、生きているけどちょっと、黄泉の親に会って来ると何故言わなかったんだよ」

 礼儀正しかったはずの強も、思わず意見する。

「さすれば、直ぐに戻らねばならなくなりそうでの」

 烈は、

「伯父さんが死ななかったら、地上に戻る気は無かったんだな。それなら死んだのと同じだからな。だけど、随分ぼうぼう燃えていたじゃあないか。あれで助かるとは驚きだ」

「あれは、以前の焦げた鱗がよく燃えたのじゃ。中に新しい鱗が出来て居っての。主ら、我が死んだにしては、やけに元気そうに上に翔けて行ったとは思わなんだか」

「なーんだ、元気になったから黄泉に行けたんだ。鱗とかがちゃんとしてないと翔けて行けなかったんだね。翔ったら、あたし達が誤解していたんだよ。龍は死ななくても元気なら黄泉に行けるんだよね」

「そう言えば、何かお礼言われたな。いちおう挨拶していたし。分かったよ。と言う事で。ハイ御神刀。またよろしく頼むよ」

 急に翔は、シンが現れて都合がよい事に気が付いたようだ。

「うむ、そう怒ってもおられぬ事情を思い出した様じゃの。伯父上は御神刀無しで戦われておったから、さぞ無念の事じゃったろう。不義理をした我は、当分黄泉には行けぬようになってしもうた」

 御神刀を手に、反省のシンである。翔らは、シンが文句言を言われる以上の大事になっているのが判り、シンをこれ以上糾弾することは出来なくなった。

     

         翔の冒険 パート1  完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

翔の冒険 龍冶 @ryouya2021

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ