第16話 リラの決着

 ヒョロヒョロ三人でロンの家までやって来た。翔は、

「俺がジェーンといる間に、お前らさっさと御神刀を手に入れろよ。良いな」

「でも、どうやって」

 ケインは頼りなく言う。

「お前、さっき御神刀が呼んでいるとか言っていなかったか」

「それは親父が言っていた事で、今の俺の感じでは、呼ばれていないんだけど」

 アンリも

「僕も呼ばれてないよ、一応言っておくけど」

 と来た。

「親父さんはどの位の距離で、呼ばれたんだ」

「俺の予想では、ロンの家にあると分かったって言っていたから、自分ちに居る時から呼ばれていたと思うんだ」

「お前んち何処だ」

「あの家だよ」

 ケインの指さす家は丁度ロンの家の裏隣りで、距離としてはかなり近い。だが、そうやすやすと感じ取れるとも思えず、親父さんはそれなりの能力があるから、判ったのかもしれない。ケインが今呼ばれている感じがしないというのは、此処にあるのかないのか、測りかねる微妙なところだ。

「うー、分らね。一応、家の中に入ってみるしかない。お前らの能力が俺には分らんし」

「俺も、自分でも分からないです」

 リラの弟達、良い子だけれどかなりの頼りなさである。翔ははっきり言ってこれはピンチだと思った。

「手筈はさっき言ったとうりだ。良いな」

 翔はきょとんとしている兄弟を二階に行くように促し、自分はジェーンのいるキッチンへ入って行った。もう気分は破れかぶれである。もしかしたら翔らが来たことだって、感が良ければ分かっているかもしれない。

「やあ、君。ジェーンだろう」

 本来、人間は霊魂になっている翔たちは分からない筈だが、ここは賭けてみることにした。はたして、分からないふりをするだろうか。

「あら、何だ。お見通しの様ねえ。あんた翔ね」

 分からないふりをしないジェーン。

「お前さん、リラの親父さんを御神刀で切りつけたそうじゃないか」

「やだ、あれは事故よ。あたしが骨董品のオークションで競り勝った刀を見に来られたから、見せて差し上げていたら、急に具合が悪くなられたみたいで、まあ、間の悪いことに倒れた時に刀が刺さってしまったの。警察の方にもそう説明したら、状況からみて納得していただいたの」

「ちょっと俺らは納得できないんだけどな」

「あら、ヤルつもりだったら、このあたしが外すわけないでしょ」

 急に凄味が出て来たジェーである。翔は、これはヤルつもりで失敗したとは言えない事情があると見た。

「あれは実は龍神の霊力の入った御神刀でねえ、人間には効かないんだよ。知らないの。霊獣とか、鬼みたいな地獄から出て来た奴を殺す刀さ。だから人間は殺せない、絶対にだ。お前、しくじったのさ。誰かに𠮟られるんじゃないの」

「ヤダ、何の事」

「恍けるなよ、今だって俺が判るよな。人間は霊魂の俺を見ることはできない筈。お前は一体どいつの指金で、この世に居るのかな。焔の童子?欠片が入っているだけだろ。もっと大物が居るんじゃないか」

「いやだ、変な事言い出して、あんた何者?」

「さっきお前も言っていた翔だよ。お前は何者なんだ実際の所」

「あらあたしは、ジェーン。ロンの妻。正真正銘人間でしかないわ。霊魂だなんて妙なこと言わないでよ。あの刀はただの骨董品でしかないわ。変な事言わないで帰ってよ。ロンも居ないんだし、用は無いでしょ」

「それがあるのさ、お前の方にな。よくも親父を殺そうとしたな。これでも食らえ」

 と、急に現れたリラ。御神刀を手にジェーンに切りかかった。付いて来ていたのかと思った翔は、逃げようとするジェーンを押し留めた。だがリラは急所を刺せていない。ジェーンは何処かを刺されて倒れてはいるが。

「急所じゃないぞ、貸しな」

 翔は素早く御神刀をリラから取り上げ、ジェーンの急所辺りを刺した。

「ぎゃっ」

 悲鳴を上げて、ジェーンは伸びている。死んだのだろうか。翔はさっきも自分で言ったことを思い出した。

「人間は殺せないんだった。と言う事は、やっぱりこいつにも何かが入っていたんだろうけど、ピンチでも火を出さなかったから、焔の童子では無いな。何かな」

「そうだね、急所刺したんだろ」

「そのつもりだけど」

 ケインとアンリもやって来て、四人でしげしげと見ていると、シン達の登場である。

「成敗したようじゃな。主らもなかなか使えるようになったのう」

「シン、こいつには何が入っていたの、火は出なかったよ」

 じっと見たシンは、

「地獄の住人の生まれ変わりの様じゃ。始めから根性の悪い人間もおるようじゃのう。魂は地獄に戻った様じゃが、人の命は助かって居るでの、目が覚めるとどうなって居るかのう。これは見ものじゃな。皆で見届ようぞ」

 リラはまだ疑問があった。

「じゃあ、焔の童子の欠片はどうなったの」

「ああ、あれはロンに入って居る。あれも片付けねばな。あれの方は面倒な奴じゃて、皆で片付けようぞ。御神刀が手に戻って来ておるから、心配ないがの」

 と言う訳でシンはソファで寛いで、ジェーンを観察している。そんなに面白いのかと、他の皆もロンの居間で寛ぐことにした。するととうとうジェーンのお目覚めだ。パチッと目を開けたジェーン、ちょっと目を擦りあくびをしながら、おしりも掻き、台所へすたすた歩いて行った。どうと言う事もない。翔は、

「人間は俺らが見えないんだったよね、いくら見ていても仕方なかったんじゃあないか」

 とシンに言うと、

「いや、焔の童子の欠片を仕留めようと思うてな。ロンが帰って来るぞ」

 というので、皆でロンを待つ事にした。リラはジェーンを追いかけて行っている。翔が様子を見に行くと、アイスクリームを食べるジェーンから、リラは中身をかすめ取り、空の入れ物を見て驚愕するジェーンに大笑いしている。ため息をついて居間に戻るとロンが帰って来たような車の音がした。いよいよである。

 ロンは裏口から入って来た。ジェーンがそっちに居たからだろうか。

「どうしたんだよ、ジェーン。何かあったのか」

「ロン、帰って来たの。アイス食べようとしたら、無くなってしまったのよう」

「なに、リラが来たのか」

 急いで居間の方に来るロン。リラはアイス泥の常習犯のようだ。

「あいつら直ぐ根に持つのよ。今日でたったの三回目」

 言い訳がましいが、常習犯ではないと翔に耳打ちする。ドアを開けたロンは、

「おや、皆さんおそろいのようで。何だよ、ケインやアンリまでもそっちに付いたのかい」

「ふん、親父を殺そうとしといて、そんな言い草。聞いて呆れらあ」

 何とアンリは一番若い割には、ハキハキした応答が出来る。翔はアンリにポイントoneと数えてやった。

「おや、この前からジェーンが言っていたじゃあないか、あれは事故なんですよ。皆さん。刺し傷では絶対ありえないという鑑識の結果があります。刀の上に倒れたというジェーンの主張は、立証されているんですよ」

「何、寝ぼけたこと言ってんだよ。親父がジェーンに刺されたと俺たちに言ったんだ。刺された本人の言う事以上にホントの事があるのかよ」

 アンリ、ポイントtwo。言うねえ、アンリ。

「アンリ、いちいち煩いなあ、黙らせようかな」

「黙るのは主の方ぞよ。聞き苦しくて適わぬのう。そろそろ此処から失せ、地獄へ戻るが好かろう」

 いつも以上に迫力あるシン。自分に言われた訳ではない幸いが、身に染みる翔である。

「なにおっ」

「出て来い、焔の童子」

 シンが呼ぶが、出てこない。

 ロンとシンが睨み合う事となる。いつもの展開だ。ところで御神刀は誰の手に?キョロつく翔は何とケインの手に有る事に気が付いた。いつの間に?誰が持たせたのか。大体ケインは奴らの急所が判っているのか。と言う前にロンから焔の童子が出てこないではないか。翔は悟った。同化している。そしてもしケインが急所を刺せたら、ポイントTENとなる。アンリはこの回は負けとなるだろう。仕方ない。あれこれ翔が考えているうちに、二人の一騎打ちはシンに軍配が上がりつつある。相手はまだ欠片のはず、当然の結果だろう。そう思っているのは皆も同じだ。ところが目にも留まらぬ速さで、ロンはケインから御神刀を奪うと、シン目掛けて投げた。ナイフ投げ的な技。おそらく、近付きたくは無かったと見える。それが勝負の分かれ目となった。シンはその動きを見切り、投げられた御神刀をキャッチし、あっという間にロンの中の焔の童子の急所を刺した。ケイン、ポイント無し。まあ、最初はだれでもそうなるものである。翔はそう思って、アンリに

「今日はお前がポイントtwo」

 と言ってやった。シンは翔をじろりと見て、

「よくもまあ、ごちゃごちゃとどうでも良い事を考えておった事よのう。おかげで気が散ったぞよ。先ほど今回は油断するなと言っておったものを、返す返すも阿呆な奴と覚えておこうぞ」

「ごめん、シン」

 そんな時、ケインが倒れているロンを見て、

「死んだの?ジェーンみたいに起き上がるんでしょ」

 と誰にともなく聞いている。シンは、

「いや、こやつは死んでおる。同化して鬼に近い存在になって居ったからの。人でないものは死ぬ」

「僕たちロンを殺したの」

 リラが寄り添い、

「ううん、ロンはずっと前に焔の童子に殺されていたの」

 そう言って慰めるのだった。リラ達はしばらく一緒に過ごしたいだろうと言う事になり、翔達の方は先に引き上げることにした。大事にはならなかったが、何とも後味の悪い結末となった。

 三人と一龍で帰る道々、翔は、

「今回は強烈兄弟、やけに大人しくしていたな」

 と言うと、強は、

「いや、シンから御神刀は俺らには危険だから近づくなと言われたんだ」

「どうして。リラの親父さんだって、平気だったじゃないか手術は脳溢血の治療だったらしいぞ」

「それが俺らはお前らとはちょっと違っているんだ。龍神の血が濃いそうだ。これは内緒の話だけど」

 言いかけた所で、シンが、

「翔に内緒話が通用すると考えておるのか」

 鋭い指摘が来た。

「リラが居ないから、今言おうと思ったんだけどな。男同士の内輪話だから。と、言うか。一応教えとかないと、ふざけて刺すかもしれないし」

「それもそうよの」

 まさか、それほど馬鹿に見えるのか。と腹が立ってきた翔。しかし妙な言いようである。

「翔、これは絶対リラには言うなよ。シンによると、紅のせせらぎ姫様とリラはテレパシーでつながっている事があるらしいんだ」

「分かったから、早よ言ってよ、じれったいな」

「あのなあ、俺たちの母親の血筋も龍神の血が入っているんだそうだ。それも北の大露羅の尊の血だ。昔、シンの母親の紅のせせらぎ姫様と付き合う前に、俺らの一族の人間と付き合っていて、子供が出来たんだ。実際、島の歌にもなっている言い伝えに、北の大露羅の尊様と北の極みの尊様の事らしい歌詞があったんだ。島の女を巡る三角関係でね。俺らは人間だけど、龍神の血も濃い。と言うか、自然の摂理に反したことが、二重になっているんだ。それで下手に御神刀を扱うのは危険って事だ。覚えとけよ」

「へえ、分かった。それは良いけど、お前ら知らなかったんだろうが、紅ママは良く俺らの様子を、雲間から覗いているんだよ。今見ていなけりゃ良いけど」

「何だって」

 これには二人と一龍声をそろえて、驚愕だ。

「今頃、黄泉で喧嘩とか始まって無ければいいけど。あ、そう言えば付き合いだす前の話だったな。こういう事って仕方ないよね」

 すると、シンは、

「主がリラにしゃべる時の、安全策のつもりでそう言ったが、事実は同時進行の時期があったらしいぞよ。父上が強烈に注意しろと盛んに言っていたよって、注意した迄の事ぞ。もう、後の事は我の責任ではないからの」

「そりゃそうさ、気にすることないさ。こちとらの事が優先だよな」

 わわっ、急に積乱雲が現れ、慌てる三人と一龍、

「偶然。偶然」

 何も分からないふりをして、ホテルに到着した。

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