第15話 御神刀を取り戻せ!

 部屋に帰ってみると、強烈兄弟はお疲れで睡眠中、リラだけ起きて待っていた。そして、やはりほとんど時間は経っていなかった。

「お帰り、早かったね」

 翔は、

「鬼退治は、あまり時間が掛からないねえ。結構シンも頑張っていた割には」

 すると、シンに言われた。

「主は気付いておらぬ様じゃが、霊魂になると、この世の時空とは違う所に居ることになる。時間の経ちようが違っておる。気が付いた時には年寄になって居るかもしれぬぞ。ふふん」

「やだ、シンたら。あたし人よか早めに婆になりたくないよ」

「そうじゃ次は、リラのあ奴の中の鬼の欠片でも退治しょうかのう。以前に比べ、人数も揃うておるし」

 シンがリラを柄にもなくからかっているので、翔も、

「それが良いや、あ奴にリラが老けたと言われる前に片を付けてやろう」

「そう言う事か、気を使ってくれてありがとうネ、二人とも」

「おや、一龍と一人だろ」

「面倒だから、二人と言っておいたのさ」

 リラにまで地位を格下げされたらしいシンである。


 実行は次の日として、今晩は皆でゆっくり休むこととなった。皆自室に引き上げたが、翔は帰って来た時に逃げられた鬼の事が、気がかりだった。横になって、何となく様子見の感じである。様子を横になって窺っているつもりの翔であるが、何故か笑いたくなって来た。自分でも何が可笑しいのか分からないが、とにかく笑いたい。内心驚く気持ちだ。妙だから我慢していたが、段々我慢出来なくなった。

「ぷはっ」

 何故か噴き出す翔。

「うひゃひゃひゃは」

 大声が出る。

「きゃはははは」

「ききききき」

 何故か天井に飛びついて張り付くことが出来る翔。内心

「!!!???」

 そこへシンが部屋に飛び入り、

「鬼猿、出て来い」

 と来た。翔は我ながら呆れていると、自分の意志と違う、

「ヤダね」

 の言葉が口から出て来た。シンはなおも大声で、

「出て来い、鬼猿」

 翔は、

「ヤーだね」

 と言ってしまう。シンは、

「もう同化しおったのか」

 と呟き、御神刀を構え、

「又、殺そうかの」

 等と言い出した。翔は内心、『おいおい、又かよ。誰か止めに入る奴は居ないのか、寝ているのか、この騒ぎでも』

 また殺されるのも嫌だと思ううちに、ひょっとしたら、今度は紅ママ達のいる黄泉へ行けないかも、つまり人間の方の黄泉かもしれないと思えて来た。前は北の極みの尊の力で行けたようなことを、彼らは言っていた。『まずい。妙な猿、出て行けっ』

 何かが頭から、脳味噌をにょろーんと引っ張りながら出て行った感じがした。

「キキキー、ギャッ」ドてッ

 猿の悲鳴と共に、翔は天井から、仰向けのまま落ちてしまった。シンは翔を覗き見ながら、

「お主、取り付かれたらさっさと出さないと、今に本当に同化して殺されることになるぞ。やけに猿と気が合っておったが」

「何だって、屋根から消えた時から?それならそれと言ってよね。気が付かない俺がバカかもしれないけど、気が付いてないのも分かっていたんだろ」

「そうは出来ぬ、言うのは危険じゃ。大体笑いたくなった頃には馬鹿でも察するのが、心得のあるものぞ。そろそろ、我も眠りたいものじゃ」

 と言って部屋から出て行くシンである。後に残された翔は、床にのびたまま眠る事となった。取りつかれた後は眠くなるらしいな、と思いながら。

 朝になり、

「あーら、ベットから落ちてら」

 と言うリラの声で翔は目が覚めた。

「昨日は随分ぐっすり眠っていたみたいだね。夜中の騒ぎに起きてこなかったね」

 と言ってみると、

「何か、シンと騒いでたみたいだね、楽しそうだったけど眠いから遠慮したわ。仲良くしているみたいだったから、行く必要も無いと思ったし」

「なるほど、そういう感じだったんだな。ならいいや」

 すると、ドアの所から強が、

「俺の方は体が本調子じゃあないから、かえって邪魔になるかなと思って、はせ参じるのは遠慮したぞ。悪く思うなよ。烈も同じくだ」

「なるほど、結果オーライってとこだからな。気にしてないって」

「何なの、何の話」

「いや、翔のバカらしさの話」

 烈も顔をのぞかせ、

「翔はお猿と気が合いすぎる話だろ」

「段々、根に持っておく気になって来たぞ」

「何の話よう。はっきり言いなっ」

 近場に居た、強の胸倉をつかむリラ。強は殴られる前に言う事にしたようだ。

「翔はホテルに入る前から、鬼猿って言うやつに取りつかれていて、夜中にシンが退治したようです。ハイ」

「げっ、あたし気付かなかったよ」

「本人も気付かなかったようです。ハイ、だから放して」

「畜生、起きてフライパンで殴ればよかった」

「きっとまた活躍の機会は来ますよ。では俺らはこれにて失礼。朝飯食いに行きます」

 強烈は去った。リラに涙目で、

「ごめんね、助けに行かなくて」

 と言われるのが一番情けなくなる翔だった。

 朝食後、いよいよ、リラの因縁の女に取りつく、焔の童子の欠片を成敗に行く事となった。最近の欠片の中では、デカだけにデカいそうで、シンから気合を入れるようにと、わざわざ注意があった。珍しい事である。翔は気合ねえと思ったが黙っておいた。今更シンに気合について質問は出来ないと思った。

 四人と一龍、前回よりももっとスピードを上げてUSBBのリラの実家方面に近づいていると、前方に二人の同類らしき気配の人影が見える。

「あれ、あたしの弟らみたい。凄い、いつの間に霊魂になれるようになったのかな。おーい、あたしだよ、あんたら、どういう事」

 リラは勢いに乗って弟たちに近づいた。

「リラ、帰って来てくれたんだ。良かった」

 ケインとアンリは大喜びでリラに飛びついた。

「どうしたの何か有った訳」

「大変なんだ。ロンが大統領のSPに抜擢されたんだ」

「凄い出世じゃない」

「でも、焔の童子っぽいんだ。大統領をヤルつもりらしい」

「何だとっ」

 他の三人は叫ぶ。何だか驚愕の展開になった。俺らでやれるのか。シンは何か考え中である。ケインはもっとショックな事を言い続ける。

「おまけに、ほら、例のオーロラ剣もジェーンとロンの家に有ってさ、それを使って大統領の奥さん迄殺すらしいんだ。親父がロン達の家を調べていて、感づかれてやられた。いや、死んじゃあいないけど、ジェーンにオーロラ剣でやられて、そしたら、あの剣は逆に人間は助かるらしい。心臓を刺し損ねられて、病院行きになった。病院で麻酔で気を失う前の親父に、リラに知らせに行けって言われて、それでさっきから、俺らどうしようかなと思って、だって、こんなでうろついたことないし」

 かなりのピンチなので、シンはオーロラ剣と言う言い方について、何も述べなかった。と翔は思った。事実は違うようである。シンは唐突に話し出した。

「近頃は自由恋愛らしいが、USBBなどは特にその様じゃのう。時代は変わったものじゃ。我もこの時代に生まれたかったのう」

 あっけに取られて、翔らは返す言葉も無い。シンの話は続く。

「このUSBBの大統領の奥方、実は我の伯父上、北の極みの尊の元カノじゃ。どうやら伯父上に見切りをつけ、この人間である大統領と結婚したらしいのう。もちろん素性は伏せて居るが、異形の者たちには正体は知れて居る。焔の童子はあ奴の計画の邪魔建てをしそうな輩を殺すために我が御神刀を手中に収めおったのであろう」

 ようやく話が戻って来てほっとする翔たち。翔はまさかとは思うが、シンがこの事態に匙を投げて、下界の奔放な人間の真似でもしようと思ったのではないかと、一瞬考えた。悟られてないかとひやひやして来た。一方、強は話の要点を理解していた。

「それで、伯父上様は俺たちに加勢してくれるのか」

「加勢したいのはヤマヤマらしいが、レディー・ナイラが拒否しそうだと言っておる」

「レディー・ナイラって言う名前なの。素敵。それにしても、シンとシンの好きだった人も今の時代なら夫婦になれたかもしれないわね」

 先ほどからのシンの深刻な表情を理解していたのは、リラだけだったようだ。翔は気を取り直し、

「それじゃあ、俺らでその計画を、阻止するんだろ。そのレディー・ナイラだって、龍神なんだから自分の面倒は見れるんじゃないの、俺らは大統領の命を守り、リラの因縁の野郎の始末をするんだよな。大方、始めの計画通りだろ」

「聞いてなかったか?向こうには太刀、こっちはナイフっぽい奴。計画は練り直しだろう」

 強が翔に念を押す。翔は、

「しかし、強烈が幾ら盗みが得意だって、まさか太刀は盗めないだろう。相手は鬼だ」

「盗むしかなかろう。太刀が相手に有れば勝ち目はない」

 シンの一言で、深刻な事態なのが判った。

「人間には害をなさないんだな。それじゃあ、人間として活躍するしかないな。強烈、よろしく。盗んできて」

「翔、血筋が上の者の方が龍神の血の影響が大きい。あ奴は一度しくじったが二度はないぞ。急所を刺されたらひとたまりもない。お前や、リラの弟の仕事ぞ」

「ひっ」

 指名されたような三人は悲鳴を上げた。

「あたしもだろ」

 リラが名乗りを上げるが、

「リラはジェーンとやらに嫉妬されておるから、すぐ気配で判ってしまうぞ。止めておけ」

「ふうん、そうなの」

 いよいよ、腹をくくる事となった三人である。翔は仕方ないので盗みについての、コツを強烈兄弟に聞いてみた。

「お前らいつもどんなふうに、盗んでいるんだ」

 強は

「俺はひとりでやっていたが、お前らは三人いるんだから、焔の童子の気を引く奴と、実行する奴、見張りをする奴で、計画したらどうだ」

「はいっ、僕、見張りっ」

 三人同時に申し出て見たものの、翔はため息交じりに、

「解っているって、俺が気を引き、ケインが盗み、アンリは見張りな。内部事情に詳しいのはケインとアンリなんだからこの役は動かせないさ。ところでケイン、太刀が何処にあるか分かっているのか、さっき親父さんが調べたとか言っていたけど」

「親父は太刀にある程度近づくと呼んでいるのが判るって言うんだけど」

「ほお、それは初耳じゃな。そう言う事なら世話なしじゃ。善は急げじゃ。早う行け」

 シンに追い立てられ、ロンの家に向かう三人である。


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