第14話 思案する紅の新しきせせらぎの尊
鬼木姫を何とか退治したらしいシンは、お疲れの様子でスィートルームの自室に籠っていた。烈はしばらくすると気が付き、
「シンが言っていたけど、何かが入って来た感じはしたな。でも俺にはとても抵抗出来るような力はなかった。どうなるのかな、これから。ああいうのに出会ったら」
感慨深げな様子だ。リラは、
「でも烈は人質になっていたから、体力が無かったじゃない。これから体力付ければ何とかなるよ」
「せっかくの慰めに反論するのも気が引けるが、ああいう事は体力じゃなくて、気力と言うか闘気と言うか、精神的な物だろうな」
強はそう言うけど、先ほど鬼木姫に操られていたのは自覚しているのだろうか。懸念のリラに変わって翔が言った。
「そう言うお前も鬼木姫に操られて、とぼけた台詞を言ったんじゃあなかったかな。おかげでシンが、カクンとなって鬼木姫に引っ掻かれたんじゃないの」
「何だと、あれは鬼木姫に操られていたのか、シンが言っていたのか」
「そうだよ、で、またお前に逃げ込んだと思って、お前の台詞ミスって事で話を進めていたんだ。だけど今度は烈に入っていた。今の話の流れでは強の方は、入って来たのも気付かなかったと言う事になるぞ」
「シンがそう言うという事は、操られる前は『この世も地獄並み』が決め台詞と分かっていた筈じゃあないか。それを忘れさせられたんだ」
翔はちょっと考え、
「そうかもな」
と思った。
「だが、俺はさっきまで忘れていたぞ。お前に言われて前は分かっていた筈だと思ったんだ。ひょっとして、おれ今も変じゃあないか」
「・・・」
翔は答えに窮していたが、烈は強をじっと見て、
「欠片、入っているんじゃあないか。まだ」
と、翔が考えたくない事を言い出した。
「なによう、怖い事言い出して」
リラが怯える。ついに強に異変が起こった。
「あーら、変なもの食べさせてくれた、お嬢ちゃん。まだ仕返ししていなかったのよねえ。だからまだ帰れなかったの。やられた振りしていたけど、それも何だか飽きっちゃった。これでも食らいな」
操られた強は、懐から何か臭いものを出して、リラの口に入れようとした。しかし動きは鬼に操られているにしては遅く、強としては少しは抵抗しているようだ。おかげで翔と烈で止める事が出来た。現れた鬼木姫を素早く羽交い絞めにした翔。烈は例のフライパンで頭を打ち付けたが、とどめではない。シンが素早くやって来て、鬼木姫の左脇を刺した。ギャッと悲鳴を上げた鬼木姫は今度こそ、死んだらしい。
「どうやら仕留めることが出来たのお。今度こそ。先ほどは急所を外してしもうた。あ奴が死んだふりをしておったから、話を合わせておいたが、あまり長い事強の中に居られると、同化してしまう。翔のおしゃべりが功を奏したのう。やれやれじゃ」
「今のはきっと誉めてくれたんだよな、芝居じゃあなく」
シンはじっと翔を見ながら、
「芝居では無いが、別に誉めたつもりも無いがの」
つまり皮肉だったらしい。翔はシンの性格について失念していた事に気が付いた。
「強、気分はどう。大丈夫」
リラは強を気遣った。
「大丈夫だ。ありがとう、リラ。おれも奴に抵抗出来なかったな。同化される前に出て行ったから助かった。翔もありがとうよ」
「良いんだ。俺の機転のなせる業さ」
烈が聞いてみた。
「先の成り行きが判って言っていたんじゃあ無いだろな」
「訳が分からなくてもできる所が、俺の実力と言える」
大した自信である。
三人で騒いでいたが、シンは相変わらず先ほどから何か悩んでいる様子である。翔はまさかまだすねている訳でもないだろうから、何か気がかりなことがあるのだろうと思った。気になりだすと我慢できない性格の翔は、
「何だよ、せっかく一匹やっつけたにしては、辛気臭い顔しているな。あ、元からだったかな」
と、シンに声を掛けた。
「主は能天気で幸いじゃのう。我は先の事が気がかりでな」
「先の事って、何だよ」
「どうやら、地獄から鬼がやって来ておる。焔の童子が力を取り戻そうとしておるのと同時なのは偶然ではないぞ。鬼木姫も隠そうとしていた『この世も地獄並み』は奴らの思惑の極みじゃ。我とお主らで阻止出来ようかの」
「出来ないと思うのか。出来なくてどうする。やるしかないだろ、俺たちで出来るとこまではな」
どんどん強気の発言になる翔である。じっと翔を見ているシンは、
「主も、黄泉で何か仕込まれたのか」
強も言う。
「だろ、なんか違うんだよな。翔も刀同様レベルアップした感じだろ。北の大露羅様に何かしてもらったんだと思うな。」
「根性レベルアップかな」
烈が感じたままに言った。
「そう言う事となれば、取りも直さず、欠片の始末じゃな」
シンが懐に御神刀を入れ出かける用意を始めた。
「まだやるのか」
翔はさっきの強気発言について、言い過ぎを懸念した。
「翔、付いて来い。強烈は鬼に操られて居ったから、少し休んでおれ」
やはりそう来たか、と思う翔。言い過ぎの結果が身に染みる。
『オーロラパパ、本当に仕込んだのかな』
そう思いながら、シンについて行った翔である。
目的地に向かいながらシンは、
「鬼達の思いどうりにさせるわけにはいかぬ。じゃが、あの計画を察したことを、あ奴らに感づかれておるぞ。良いか翔。部屋で言うたならリラが怖がると思うて言わなんだが、あ奴らが我らに何ぞ仕掛けて来るかも知れぬな。あれは知られてはならぬ事であった様じゃ。執り合えず今日は、野放しにしておいては面倒な奴を仕留めるが、その後は用心してチームプレイじゃ」
「と言う事は、今からやるのは面倒な奴って事で、シンと俺だけなのにって事で・・・」
「今更なんじゃ、グレードアップしたのであろうが」
「もしかして、しゃべりだけグレードアップだったらどうする?」
「とぼけるで無い。我は真剣勝負じゃ。他の者もじゃぞ」
「分かってらあ、こっちは一度死んでいるんだ」
「ならば黙っておれ」
相変わらずのおしゃべりの片が着いた所で、目的地に着いたようである。シンが急に止まり、とある家の屋根の上から中を窺い、御神刀も構えだした。こうなると翔は何をするべきなのか。シンは翔の頭の中に、
「鬼木姫の時の様に、我に加勢しろ」
と言ってきた。どうやら、あの時の睨みは加勢だったらしい。翔は自分の能力が不思議だった。シンが言ってきた直ぐ後、ぶあんっと何かが上にやって来た。闘気だけ感じたが、何も見えない。シンには見えているようだ。翔としては、見えていなければ睨みようがないではないか。ピンチと言えるだろう。仕方なくそこいら辺を睨むしかない。しかし、目を凝らしているうちに、透明ながら、厚身のある所が判って来た。睨むところの見当がついてやれやれと思う翔である。大体の所をしっかり睨んでいると、段々実態が見えて来た。なおも安心して睨む翔。すると、そいつは、
「ひいいー」
と声を上げた。同時にシンがそいつに切りかかる。
「ギャッ」
と叫んで、どうやら一巻の終わりとなったようだ。
「へえ。案外あっけなかったな」
「主、あっけなかったと申すか。近頃はあっけなかったの意味が以前とは違うておるのかのう」
息を切らしながらシンが問うてきた。翔はその様子を見て、
「いや、同じだと思う。随分大変だったみたいだね、俺がちょっと気が付かなくて、ごめん」
「主の妙な闘気を感じておったが、何をしておったのだ。あ奴が悲鳴を上げたであろう、あれはお主のやった事ぞ」
「へえ、そうなの、睨んでいただけだけどな」
「だけだけとな」
「あは、だけだけどなだよ」
一龍と一人、一仕事終わりホテルのスィートへ楽しく帰る事となった。
ホテルが見えて来たところで、シンは急に止まった。翔がどうした事かと、シンとホテルを見比べているうちに、ホテルの屋上より少し上に浮かんでいる、異様な風体の者が居るのに気付いた。
「あ、今度は俺にも見えるぞ。鬼だな。イェーイやっつけようぜ、シン」
そう言って鬼の方にさっさと行く翔に、
「これ、早まるでない。我より先に行くな。ったくお調子者が」
後ろからシンが追いかけて来る。イェーイと思いながら鬼の近くまで来たつもりだったが、見当たらなくなった。翔は驚いて、しまったと思いながらあたりを見回すと、
「逃げられたな」
後ろにいたシンが言った。
「逃げたって?気配がないって事」
「その様じゃ」
「ちぇっ、俺様に恐れをなして尻尾を巻いて逃げおったか、かかかかか」
「主、見ておったのか」
「いや、今のは逃げる様子のたとえ、鬼は居ないとシンが言うから、逃げた奴をカラかっている所だけど。安全だし。第一さっきから居ないって探していたろう。見ていた訳ないじゃあないか。シンお疲れのようだな。部屋で休んでくれや」
「うむ、しかし言うておこうかの。先ほどの奴は尻尾が有って、実際尻尾を巻いて逃げおったぞ」
「へえ、これは偶然だよ偶然。見てなかったって」
シンはじっと翔を見たが、暗かったので、翔は気づかなかった。
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