第12話 堅い絆の桂木チーム
ホテルのスィートルームにて、四人いや、三人と一龍はそれぞれ距離を置いて寛いでいた。
「確か親父には懇意にしていた刀鍛冶が居たよな」
烈が強に小声で話している。
「ああ、だけどお前は覚えていないかもしれないが、親父はその刀鍛冶とはひと悶着あったな。広永の家宝の刀を手入れしてもらっていた時、失敬して売っちまったんだぞ。もう頼めないな。伯父貴が怒って親父に勘当だと言ったんだが、言い訳が、あれは偽物だって事だった。本物はもっと以前に売ったそうだ。いつもの金要りでね。正真正銘の本物と気付いて慌てて取り戻そうとしたんだ」
「返す、返すも、いい加減な奴だったんだな親父は」
「仕方なかったんだ。いつも金要りでな。その時は本物を取り返すために、偽物を売って金を作ったけど結局取り戻せなかったそうだ。橘一家に売られた後でな。で、紅一族には家宝の刀は無しって事になった」
「だけど、あそこには無かったぞ」
「もっと、大物が存在するようだな。そいつが持っているんだろうよ。だけどもう、翔が黄泉から新しい奴を持って帰ったから、あれで良いんじゃないかな」
「太刀にしてくれる人は他に居るのか」
「知らない。帰って、親父に聞いてみるか」
「もう良い。このまま使おう。下手な刀鍛冶には、任せられぬ」
何やら熱心に住民票のチェックをしていたシンに、遮られた二人。
「何しているんですか、だいぶ沢山欠片の入った奴が居るようですけど、本体が判っているんだから、あいつをヤレば片が付くんじゃあないですか」
「あ奴を片付けようとしても、欠片の入った子が大勢居るからの。おそらくこの中の一人の所へ逃げ込むようじゃ。それに、あ奴は何か企んでいる気がする。その前にこの子らを助ける。酷く苦しんでいるようじゃし」
「それは大変、早く助けなきゃ。でもきっと感づかれるよ」
「この御神刀の事を奴は知らない。二手に分かれて一晩で済ませる。我と組むものと、この御神刀を使うものじゃ。チームを考えてくれ。リラ」
「どうしてシンが言わないの」
「我と組みたがる者は居らぬ様じゃからの」
「そんな事な・・・」
リラは皆を見渡し、
「じゃあ、あたしとシンでヤル?」
「そうはさせるか。シンと居たら見殺しにされるぞ。俺は一度死んでいるから俺が組む。一度死んだら、二、三度死ぬのも大した事ないさ。こうなったら破れかぶれってとこだな」
「翔、大丈夫?チームプレイが出来るの」
「見損なっちゃあいけないよ。俺だって少しは根性があるって事を見せてやろうぞっ」
翔の言いようを見て強は、
「根性があるというより、お前は軽すぎて思い詰められないんだな。アッサリしすぎる奴も使い道があるようだ」
「じゃあ、これで決まりね」
「大体、欠片の在りかは分かったからの。主らはこのチェックした子らを任せよう。翔、では、参ろうか」
「あれ、手ぶら、まだ居るわけ」
「うむ、チェックする間も惜しい気がするからの。分かっておる子らはまだ大勢居る」
「ひぇー、やっぱり大仕事だな」
と言う事で、二手に分かれたチーム桂木は、大仕事に出発した。
此処は紅琉川の川下、潮の匂いもしている河川敷である。年頃は中学生と思しき数人の男の子が、固まって何やら話し込んでいる。
「動かなくなったな、こいつ」
「うん、もしかして死んだとか」
「まさか、これくらいで?俺は親父にもっと殴られたことあるぞ。気を失っただけさ。もっと殴ったら気が付くさ。俺の時も目が覚めた」
「でも、なんだか気色悪いな。俺、帰るわ」
「何だよ、カツ。今更、抜ける気かよ。大体お前が一番殴ったろ」
「変な事言うなよ。これを言い出したのはヨシじゃあないか。お前の仕業だ」
今度は仲間割れのようだ。
二人が喧嘩を始めると、他の子らも、ヨシに加勢し出し、今度はカツと言う子がボコボコにされて、気を失ったようだ。ヨシは、
「死んだかな。多分これで、警察とかは二人が喧嘩したと思うさ。さあ帰ろうぜ」
すると後ろから、ドスの効いた声がして来た。
「帰すわけには行かぬのう」
ギョッとして振り返る男の子たち。見れば異様な闘気の男が二人、夕日をバックに立っていた。顔は見えないが、それがかえって恐ろしく感じられた。
「知らないよ、僕ら丁度二人が倒れているのを見つけたから、大人を呼んで来ようとしたところです」
すらすらと噓の出て来る。ヨシと言う男の子。翔は、
「こいつだね」
「うむ、例のことばを」
「焔の童子、出て来い」
バッとその子と同じくらいの大きさの炎が、翔目掛けて出て来たが、気が変わったのか側の子に向かおうとした、そうはさせじとシンがあっという間に炎を消した。子供たちはショックで気を失ってしまった。
「何とも嫌なものを見たな。シン、本当にこの二人死んでいるみたいだよ。どうする」
「どうやら地獄に連れ去られたようだな。連れ戻しに行こうぞ。このままだと鬼の手下になって生まれ変わって来る」
「げっ、地獄に行くってか。聞いてないよ」
「さっさとついて来い。行きつく前に取り戻すぞ」
霊魂になっている翔にとって、シンと共に地獄に向って行く事はさほど困難では無いものの、何だか恐ろしくて、ビビってしまうのだった。これは生まれてからこの方、地獄は恐ろしい所というイメージを、植え付けられているからだというのが、シンの説である。
「実際、恐ろしい所で、正解だろうが。なんでそんなに急ぐんだ?まずい所じゃあ無けりゃ、俺ら見物がてらうろつくのが普通だろ」
翔らしい理屈だ。
「罪の意識が恐怖を生む。やましい所が無ければ、恐れるには至らない。地獄に住む者たちは清浄な者、相容れない者が入ってくることを拒否する。地獄のそう言う所が恐れることは無い理由だ。恐怖心も地獄の輩は好むから気を付けた方良いぞ」
翔は、子供たちの霊魂を追いかけながら、シンから言われた忠告について、分かっちゃいるが、怖くなり、怖くなっては慌てて、打ち消し、忙しい道中である。
「間に合ったか」
シンの安堵の声に、よく前方を見ると、子供が二人何やら異形の者に引かれて、先を急いで行くのが見えた。
「お主はあの子らを連れて先に戻れ、我はあれを始末する」
と言われた翔、納得の役割だ。
シンが追い付いて、子供たちをそれから引き離した所で、翔は二人の手を引いてもと来た方向に戻った。そのつもりだったが、辺り一面真っ暗で、こっちの方向で良かったのかさっぱり分からない。だんだん不安になって来ると、かすかに前方に明かりが見えて来た。翔はほっと一安心で、その光を目掛けて急いだ。するとその光の中に人影が見え、手を引いた子が、
「あ、おばあちゃんだ」
とか、
「ママだ。生きているのかな」
とか言い出し、どうやら迎えに来たらしいその子らの身内に、役目を変わってもらった。天国があるのなら、きっとそこへ連れて行くのだろう。で、翔としては、問題は後の自分の行先についてである。辺りを見回しても、日没もしくは夜明けのような薄暗い灰色の世界だ。子供たちについて行くわけにはいかない事は、分かっていた。途方に暮れてしまう、情けない自分である。すると、
「こっちだ」
と声がかかり、ほっとするが、
「こっちとはどっちだ」
と聞くしかない。目の前でシンがぴしゃっと柏手を打ったらしく、急に前が開けて現実に戻った。
「しっかりしろ、主迄ついて行きそうだったぞ」
「やっぱり。だけど行く気はなかったんだけど」
「次、行くぞ。ぼやぼや出来ぬ」
そう言われて、またシンについて行く翔。何だか自分でも大丈夫かなと、疑問だ。
次の子は、小学生高学年っぽい様子だが、体は大人ほどのなりで、良く育っていると言えるだろう。今正に、猫の解剖を始めようかとしていたが、翔は思わず、
「ちょっと待った。まだ、生きているじゃあないか、惨いことをするんじゃあない」
と声をかけた。翔の方を向いた眼はどんよりと、虚ろだった。
「あんた誰、邪魔しないでよ」
「猫だって生きているんだ。痛いとか感じるし、可愛がれば人に良くなつくし、死んでいるならともかく、いや、死んでいたとしても、子供は解剖とかしてはならない。医学を学ぶ人しか、やってはならないんだ。止めろ」
「僕の実験を邪魔しないでよ。血がどのくらい出るか実験だ」
「ンな事、実験と言う名が汚れる。止めろ」
「翔、言っても無駄だ。例の言葉を言え」
「ああ、焔の童子。出て来い」
「・・・・・」
「出てこないね、シン。どうする」
「おや、こいつは、欠片がすっかり同化している。あ奴の子分のようだ。仕方ない。我も子供は殺しとうない。中止じゃ。大人になるまで待つしかあるまい」
「猫殺し、ずっとやりそうだぞ」
「児童相談所に連絡しろ」
最近ますます世事に長けて来るシンである。翔は猫を取り上げて、逃がし。電話連絡しておいた。
「次、行こう」
次は高校生の5、6人の集団が、コンビニの駐車場でたむろしていて、側の公園に住んでいるホームレスの男を襲う相談をしている。全員欠片が入っていた。ため息交じりに小さな欠片を出して始末した。
翔は、考えてみて、
「何かしでかす所に行くみたいだね。分かるんだね」
と、シンに言うと、
「うむ。急にあ奴の動きが活発になっている。我らの事を感付いたのかも知れぬ。次、行くぞ」
「リラ達、大丈夫かな」
「気になる事を言うのう。急を要する事態だぞ。だが我も気になる。二手は取り止めにするかのう」
「そうだよ。皆でさっさとやろうよ」
そこで翔達はリラ達の所へ行ってみた。翔の勘は鋭くなっていた。焔の童子と御神刀を持った強が睨み合っている所だった。力のまだ弱い欠片の焔の童子と、良い勝負になっているようだ。
「どうする、シン」
大声を出すのも憚れる気がして、小声で言うと、シンも霊魂のテレパシーで、
「こういう時は邪魔建てするわけには行かぬ。強に任せるしかない。下手に間に入ると危険だ」
他の皆はどっち道、恐怖で動けなかったのだが、正解だった。二人の闘気がぶつかり合っている様だった。強には御神刀が加勢しているようだ。しばらくすると焔の童子は脂汗のような物を出している感じがした。手に汗を握る展開だ。鬼と人間の勝負なのだから、油断は出来ない。急に焔の童子が物凄い勢いで、強目掛けて炎と一体になって襲ってきた。翔は身動きできなかった。シンが目にも留まらぬ速さで焔の童子を蹴ったと思う。翔の目に止まらなかったので、ほぼ大体の解釈だ。すると強がこれも、目にも留まらぬ速さより幾分遅く、焔の童子に御神刀で切りつけた。生憎急所では無かった。と翔は見切った。しかし手応えはあり、焔の童子は、「ぎゃっ」と声を上げて消えた。だが、急所では無かったはずだ。死んだのか?。翔はあたりを見渡した。シンは、
「翔、追いかけろ」
と、無理な注文である。
「逃げたと、知れていよう。キョロついて」
「いや何となく」
「向うじゃ」
シンの指さす方向へ、これまた何となく飛んで行った翔。皆きっと追いかけているように見えるだろうが、実際はさっぱりである。ところが先ほどの河原に妙な黒焦げの塊があるのが気になって降りてみた。よく見ると、人型に見える。じっと目を凝らして眺めていると、シンがひょろつきながら追いかけて来た。怪我でもしたのかなと思う。
「見つけたようだな」
シンは御神刀も持って来ていた。後から皆もやって来ている。シンは御神刀で黒焦げの塊の急所あたりを刺してみた。変化はない。
「どういう事?」
「ふむ、どうしたものかのう」
つまりシンもさっぱり?と言うことだろう。
「死んだの?」
リラが聞くが、それが問題だ。翔も質問した。
「大体、鬼が死んだら、どんな感じになるわけ?」
シンは答えず。
「つまり、鬼を殺した奴は未だかつて、居ないんじゃあないか。だからシンも知らないのだろう?」
烈が結論付けた。
「そういう事じゃな。我の身内には居らぬ」
シンもこれには回答した。しかしシンは「うっ」と言いながら足元を見た。
皆もつられて見ると、シンの片足が微妙に大きくなっていた。シンはさすがに恐る恐る裾を上げてみた。皆一斉に声を上げた。その足は一回り大きくなっていた。つまり腫れているのか、
「これは何だ」
「シンの足、変。さっき鬼を蹴った足でしょ」
「ここに居るんじゃあないか」
「じゃあ俺が切ったろか、御神刀で。さっきからふらついてるなと思ったんだ」
「主、まだ根に持っておるようじゃな。よかろう、その小刀で、突き刺してみよ」
シンから了解も得たし、翔は太くなったシンの足を、しげしげと見ながら、どうなってるのかと考えた。御神刀に刺されたくないから、やむを得ずシンの足に入ったのだろう。と言う事はこいつを刺そうとすると、また移動しそうだ。それにしても、翔達は今霊魂だが、シンは実態があるのだろうな。この鬼は実態のあるものにしか取りかれないのだろう。
「この一帯に取りつきやすい奴は居るかな」
「もう、居ない様じゃ。それで気が進まぬが、先ほどから我に取りついたそうだ」
「あんた、会話してるのか」
強が驚いて問いただした。
「翔さっさとやらないとシンに取りつくんじゃあないか」
「そうか、じゃあ刺してみよう」
シンは適当に足を刺してみた。するとシンはギャッと叫んで翔を殴り、ひとっ飛びで上空に上がった。
「あれ」
見上げるとシンが、カカカと笑い飛び去ってしまった。
「どういう事?何笑ってんのさ」
リラも不思議がった。察したのは強しか居ないようだ。
「シンに取りつきやがった。俺たちどうなるんだ」
どうなるか心配なのは、チームだけでは無いだろう。
「追いかけよう」
「そうだな」
翔と強がシンの行った方行へと飛び去った。
こうなると、烈とリラも行くしかない。
「きゃー、大変だ」
「まさか鬼が龍に取りつけるとは思わなかったな」
二人とも、気分は引き気味だが翔達を追いかけた。
翔と強はシンを追いかけながら、
「この前言っていたよな。何が心を強く持てだと、素早くしないと取りつくだと、自分で言っておいて自分が取りつかれるとはな」
「しかし、足にくっついていたから、気が付かなかったのかもしれないぞ」
「まさか、あいつの辞書に気が付かないは無いな、ぜったいに。きっと根性が無いんだ。はっきり言っておれの根性と、似たようなものだ。お前もこの前聞いたろ。俺があいつの親に会ってきたらすねてやんの。あれで何百年も生きているんだと。俺ひょっとしてあいつよりましと違うか。お前も俺の事だいぶバカにしていたけど、シンと比べてどうよ」
翔の問いに、何とも答えかねているらしい強、
「何だよ、やけに龍神様に遠慮してるねえ」
と、食い下がる翔に、どうも前方に顎をしゃくった様な動きをした強。そこで気が付き前方をよく見ると、こちらに戻って来るシンが見えた。
「しまった」
あっという間に翔の目の前まで戻ったシン。じっと見つめられた翔は、
「おや、お早いお戻りで。さすが龍神様」
と言うしかないと思った。
「あの場であ奴を振り切れば、辺りの誰かに入り込もうとすると思ってね」
「そうでしょうとも、龍神様」
横で強のため息が聞こえた。
「何よう、お空で立ち話?て、言うよりプカリ話ね」
リラと烈が追い付いて来た。
「リラが一番可愛いのう」
「あら、なあに。あたし、ちょっとカマトトぶったかな。うふ。遠くまで行ってやっつけてきたのね。様子が変だったから心配したけど。」
「良い子じゃ、我はお前が生き甲斐じゃ。さて、これからは二手は止めてチームプレイぞ」
「そうだね」
気まずくなっていた翔は、リラのカマトト芝居で救われた。
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