第11話 手違い及び間違いについての考察
岡重勝三の表札を見つけたリラ、
「ここね。翔、頑張ってね。いざとなったらフライパンで手助けするから」
翔は、烈の様子から、
「それは遠慮すべきらしいんだけど」
と言いながら、立派な門構えの新築の家の中を窺おうとしたが、特に能力があるでは無し、振り返ってシンにアドバイスしてもらおうとしたが、見当たらない。
「畜生、シンの奴、肝心な時に何処へ行った」
とうとう翔にとってのシンの地位は、地に落ちたようだ。
「きっとその辺に居るよ。中に誰かいるの、翔。ところで皆はどうやって欠片の入っている奴を見つけた訳?」
「別に見つけていたんじゃあないよ。適当に追い出そうとしたら、たまたま中に居たってとこだよな。強烈」
強も、
「そう言えば最初のはそんな成り行きだったよな。烈」
「そうだったな。後から来たシンが、もう居ないから次に行くと言ったんだった」
「と言う事は、まったく、適当って事よね。あたしら、大丈夫なのかな」
「シンが何処か行っちまったんだから。最初みたいに適当にやるしかないな」
翔は決心して、玄関のチャイムを鳴らした。
「どなた」
年配の女性が、裏庭からやって来た。果たして彼女には欠片が入っているのだろうか。
そこへシンが束になった住民票を手に戻って来た。チェックした分の家族を、調べるつもりのようだ。いつの間にか世事に長けて来ている。恐るべし龍神の能力。
「この人、やってみるか?翔」
シンが言うから、そうらしいので、翔は例の言葉をかけてみようとした。
「焔の童子、出て・・」
「いや待てっ」
何故かシンが叫んだ。しかし手遅れだった。女はにやりと笑うと、何かが翔に当たって来たようで、翔の体は2、30センチほど後ろに飛んだ。
「翔、奴を出せ」
叫ぶシンの願いもむなしく、翔はシンを見て
「残念でした」
にやりと笑った。
「おのれ、焔の童子」
シンは目にも留まらぬ速さで翔の左わき腹を例のナイフで刺した。
「すまぬ、翔」
翔は崩れ落ちた。
リラの悲鳴、強烈の叫び声。翔には聞こえたような、聞こえた気がしたような。
翔は目を覚ました。目の前には美しい年齢不詳の女性と、シンと似た感じのこれまた年齢不詳の男が、心配そうにのぞき込んでいる。
「気が付いたな。お前も人ではなかったようだな。こちら側に来るとは」
「でも、不思議ですわね。孫にあたる真太郎だってこちらには来なかったのに。おほほ、驚いているようね。翔、ここは霊獣の黄泉の国よ。あなたはあのナイフに刺されて、こちら側に来たのよ。そう、焔の童子に取りつかれてしまったから。シンが焔の童子を刺殺したのだけれど、あ奴は地獄に戻ったのでしょうか。大露羅様」
「うむ、その事だが妙な事になっておるぞ。戻っておらぬようじゃ。死んでは居らん。岡重の子に移っておる」
「まあ、どういう事ですの」
翔も同じく大露羅に食い下がりたかったが。紅姫に任せた。名前が長ったらしいので、かってに大露羅と紅姫と呼んでおいた。今は、少しの間大人しくしておこうと思う。どうもふわふわした気分で、力が入らない。
「あのナイフは始めから違う太刀から作ったものだ。つまり我が持って居った太刀ではない。多少の霊力は有るがな。だからシンは見間違えたのだろうが、シンも本物を見たことが無いからのう。翔、済まなかったな。そうだ、はっきり言うと、無駄死にだったな。しかし刀には霊力がほとんど無いのだから、死ぬのも不思議よのう」
翔は事態が飲み込めて来ると、怒りが彷彿としてきた。
「なんで偽物で死なされたんだ。おかしいじゃないかっ」
飛び起きると叫んだ。
「そうよのお」
「本当に変ですよねえ」
いくらシンの両親に同情されても、納得がいかない。
紅姫は雲の間から下界を覗くと、
「おや、シンも納得できないようですね。困っております」
「うむ、奴の責任であることには間違いない。しばらく悩ませようぞ。しかし翔がここにおるのは妙だな。おや、刀と共に来たのかも知れぬぞ」
翔の左わき腹を見ているので、翔も見ると、例のナイフが刺さっている。
「まあ。この刀はほれ、兄者様である北の極みの尊様の刀ではありませんか」
「おお、そうじゃ、そうじゃ。と言う事は。翔をこちら側に寄越したのかもしれぬぞ。剣が無ければ鬼の退治は困難の極みじゃ。我が何とかしてみようぞ」
なるほどと思いながら、翔も雲の間から下を覗くと、
「翔、翔う。なんで殺したのよ。他に手はなかったの。シンったら、酷い酷い」
リラは翔に取りすがり、シンを睨みながら涙に暮れていた。
シンはナイフを見ながら。眉間に皺を寄せて、考え込んだ。この事を今話せば、避難ゴウゴウだろう。チーム解散になる。あ奴は死ななかった。多分岡重の息子の中に逃げ込んでいる。この刀は違っていた。父上の匂いがかすかにして、間違いないと思ったのだが。では本物は何処にあるのだろうか。シンは側で口にこそ出していないが、非難の目で見ている強烈兄弟に目を向けた。この目の方が、口に出されるより、身に応える。しかし聞かねばどうにもならない。
「お主達、御神刀の噂を聞いたことは無いか。これでは焔の童子は死ななかった」
「死んでないのか」
強が鋭く言った。
「翔は無駄死にだったと?」
烈が呟いた。
リラは何故か何も言わず泣き続けている。無駄であろうが無かろうが、結果に変わりはない。
「奴は岡重の息子に取りついた。他に取りつく相手のいない所で、やるべきだった。少なくとも。私の責任だ。翔が鬼と一体になるのを見ることが嫌だった。私の我がままで間違いを犯してしまった。すまない」
「俺らだって翔が鬼になるところなど、見たくはなかったさ。仕方ない。こうするしかなかったんだ。そうだろ、烈」
「他に手はなかったのは解かる」
その時リラが振り向いた。
「この前、翔がお爺様と居合抜きの練習をしたことがあると言っていた。多分、真剣でだと思う」
「そうだ。爺さん、刀を持っていたことがあるな。だが、質に入れてもう流れたはずだ。それにあれは家宝の刀では無かった。」
強も思い出して言った。
「質?」
「売って金に換えたって事さ」
「御神刀は、広永家の家宝の刀とは違う代物のはずじゃ。それを探しに行って来ようぞ。おや、翔はどうやら息を吹き返しそうだ。見ろ」
シンは安堵しながら言った。
「ぷはっ」
大きく息を吸い込みながら、翔は目覚めた。
「翔っ、死んでなかったんだね。良かった」
シンはその時、翔が手に持っているナイフをじっと見た。
「それを何処で手に入れたのだ。正に御神・・・いや、何でもない。我ら、本日の所はこれにて引き上げようぞ。翔、黙っているのだ。引き上げじゃ」
何故だか、引き上げを急ぐシンである。翔が生き返ったのは嬉しいはずであるが、素早く翔を抱え上げたシンは1人いや、一龍でとっとと飛んで帰った。
呆れた事であるが、三人も追いかけた。ホテルのスイートルームに戻ったシンは、
「翔、その御神刀を何処で手に入れたのだ」
「何だかその話の前に、俺に声をかけたいことは無かったっけ。さっき雲の間から覗いたら、だいぶ反省しているようだったのに」
「なに、どの雲から覗いたと言うか?」
「えへ、横に紅ママとオーロラパパが居たな」
「主、黄泉の国に行くことが出来たというのか。我を差し置いて、父上や母上に会って来たか。おのれ、我はもう千年近くお会いしてはおらぬのに」
「シーラないよそんな事情。そしてほらオーロラパパがこのナイフに神通力っていうものを授けてくれたんだよ。つまりこれで晴れて奴を殺せるって事。だけど短いから、刀鍛冶さんを見つけて、こいつを中に入れて太刀にした方が使いやすいとは言っていたな。どうする」
「父上、母上、お会いしたかったのに」
ふて腐れるシンを見て、翔は、
「じゃあ、次はシンが死に役しろよ。死ねるものなら」
「冷たい物言いじゃな。我は不死身のような有様じゃと分かっておろうが」
「俺をあっさりヤッといてどっちが」
「仕方なかったとさっきも皆に言ったぞよ。お前の鬼の形相など見たくなかったぞ。強烈も同じ意見じゃったし」
「何、さっさと二人で帰っちゃってもめてるのよ。翔、良かった、生き返ったんだね」
リラが二人の言い合いを中断させた。そして翔を抱きしめて生きている事を確かめた。
「暖かいし、心臓も動いている感じ。強烈っ、確かに翔は生きているよ」
「すごい。どうなっているんだ。それにその刀はもしかしたら御神刀か。どうやって手に入れたんだ?」
「さっき、聞こえた所では黄泉の国に行くことが出来たらしい。で、大露羅の尊がグレードアップした刀をくれたそうだ」
皆より一歩早く着いていた強が解説した。つまり先ほどからのシンのふて腐れは、耳にしていたと見える。リラは聞こえてはいなかったが、シンの心情は察していた。
「チームだよね、あたし達」
鬼退治はまだ始まったばかりだ。
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