第10話 チーム桂木結成
何時、何処で手に入れたのか、シンは自分でスマホを手に入れていて、どうやって知ったのか、烈の番号まで分かっているようだ。どうやら彼と話をしている。
「烈か、俺だ。誰だかわかるか。そうか、強を連れてこっちに来い。翔は役に立たぬ。ふふ。リラの守りじゃ。直ぐ来い。今しか退治できぬからな」
リラのお守役と公言された翔だったが、別に悔しくも無かった。
紅琉川の川下のホテルに三部屋つづきのいわゆるスイートを取って、強烈兄弟を待っている二人と一龍である。地図を見ながらリラは、
「それじゃあ、昔この辺に住んでいた人は、皆、欠片が入っているの。今では膨大な数になっているんじゃあない。ほら、子孫がどんどん増えちゃって」
「皆が入っている訳じゃあない。段々塊が大きくなってきている。数百年前は無数と言ってよいくらいだったが、最近は素質のある奴に多く入っている。だから分かりやすい。昔はお手上げ状態だったと、伯父上が言っておった」
「ふうん、大体苗字は分かっているのね。でも結婚とか養子とかで変わった人もいる。電話帳で分かるの。見てるって事は」
電話帳を手に入れたシンは熱心に見ていた。
「うむ、なんとなく感じるな、妙な気をね。しかし何も感じなくても、心当たりの苗字には入っているやつがいるな」
「へえ」
シンはボールペンでチェックしている。翔が横目で見ていると、だいぶチェックしているようだ。考えたら、大仕事だ。
「そんなに多いと二手に分かれないと、いつまでも終わらないね。小物でも中々死なないから、強烈を二手にしないと」
「シンはどうするの、本体がいたら本体のとこに居ないとね。それ見て本体分からないの」
「本体は表に出てこないね。この間USBBに居たようだが、また移動している」
「あいつ、根性悪いけど、そこまで大物じゃあないと思うんだ」
内心翔はそりゃそうだろと思った。それにしても、
「リラはあいつの事を、あいつ、あいつ、と言うけど名前ぐらいあるだろ、正式名ってやつが」
「正式名言ってどうするのよ」
「シンが名前でピンとくるって言うじゃあないか。ピンとくるか来ないか言ってみろよ一応な」
「そうかな、何だか名前を言うのも、はばかれる感じなんだ。でも、それじゃあ言っておこうかな。重里ジェーンて言うんだ。旧姓はね。それからお母様の旧姓の、ジェーン・ロックになった」
「ふうむ」
シンは唸った。
「どうした、シン、ピンときた?」
「いや、何でもない」
「えー、何だか意味深じゃない」
リラの勘は良い方だ。
強烈が来た。話は遮られた。
「紅の新しきせせらぎの尊様、我ら兄弟、ご所望によりただ今参上致しました」
随分ご丁寧な挨拶である。翔はひどく感服した。
強烈兄弟は、二人と、一龍がまったりしているのを見てかなりショックを受けたようだ。 強は翔に、
「随分くつろいでいる様だが、鬼退治ははかどっているのか」
と聞いた。無理もない。
「いや、シンのチェック待ちだ。電話帳でそれらしい奴の名をチェックしてそれから一軒づつ回るんだ。お前ら、俺かリラかどっちかに付けよな」
「随分打ち解けているんだな。略称の呼び捨てか」
「本人いや、本龍が打ち解けろって言うんだ。何せチームプレイだからね」
「へえ、チームプレイなんだな。で、俺たち、お前らのどっちかと組めって」
すると、シンは、
「いや、今回は初めてだからそれは止めておこう。お前ら三人で行け。私とリラは部屋で様子を見て居よう。手に負えない奴が出てきたら助太刀しようぞ」
「・・・」
翔は何だか躊躇した。
「どうした。何か言いたいことでもあるのか」
妙に優しく聞いて来た。翔は学習して、こういう時は黙っていようと思う。
「いえ別に」
「別にでは無かろう。チームなんだからな。お互い忌憚のない事を語ろうではないか」
「いえ別に、ただ部屋に残って何するのかなと思って」
強烈兄弟はひっと声にならない悲鳴を上げた。
「下賤な奴め」
シンの物凄いパンチを又食らった翔は、お先に霊魂になり、
「それじゃあ、そろそろ出かけようか」
と何事も無かったように、二人を誘った。
「あ、ああ」
予想していた通り、二人は霊魂になる方法を心得ていた。
「ではシン様、行ってまいります」
律儀な二人は挨拶して、出立だ。翔はシンに、
「最初はどこに行けばいい?」
と、打ち解けた物言いで。兄弟に感心された。
「俺たちとてもそんな勇気はない」
「なに、せいぜい一日経てば慣れるさ」
シンから貰った電話帳の切れ端を眺めながら、翔は事も無げに言った。顎がジンジンするのも、昨日から慣れたものである。
「えーと、家重昭雄だって、あいうえお順で行くと言う事か、だいぶあるなあ。家重は。こんなに一日で回れるかな」
強に、
「一日で回れって事だろ、さっさと行こうぜ」
と促され、素早く住所の家の前まで行った。
「まだ、四時前だけど、家に居るのかな」
烈が疑問の所を指摘した。しかし翔も、指摘するなら色々あると思う。
「だけど、家族が居そうな家だぞ、誰の中に居るかもわからないんだぞ。観察だな」
「観察して分かるのか」
強も疑問を言う。
「シンは分かっていた」
「シンは居ないぞ」
烈が指摘する。すると、強が、
「なんだよ、もう呼び捨てか」
「でも、翔が言うし、良いんじゃないの。それにどうするんだよ。何もわかっていないのに」
「とりあえず観察するとして、鬼が分かったとすると、それからどうするんだ。翔は昨日見ていたんだろ」
強に詰め寄られた翔は、
「ええとー、奴に何か言っていたような。多分、出ろみたいなことを、昔風に言うとなると」
「もしかしたら、名前を言うんじゃないかな。なんかの映画で見たような気がする」
烈が思いついた。
「そうだな、やってみようか」
強がやる気になったらしい。
そこへ中学生風の男の子が帰って来た。
「手始めに丁度いいかもな」
強は彼の所へ降りて行った。ここで三人の計算違いを指摘しておこう。鬼の強さはその器の見かけではない。
「焔の童子、出てこい」
「お呼びとあらば、出てこようぞ」
言うが早いか、投げられた火の手が早いか。強はあっという間に火だるまになってしまった。残る二人が右往左往する間もなく、シンが大雨を降らせながら、やって来た。強の火は直ぐに鎮火して、大火傷だったが、不思議と雨が火傷を癒して見る見るうちに治って行った。ほっとする後の二人。シンを見ると、焔の童子をコテンパンにし終るところだった。驚いたが欠片だったようだ。火傷が癒えた強は、烈に、
「今度はお前の番だからな」
と、念押しである。
「部屋でゆっくりもしておれぬようだな。まあ、コツがわかるまで皆で行こうかの。リラ、フライパンを持ってきたのか。それでどうするつもりじゃ。叩いてみるか、ほう、まあやって見ろ」
リラのフライパン攻撃、通用するだろうか。
「ええっと、次はどこにするかな」
翔は電話帳の名前を見てみる。
「他の奴をあたらなくていいのか」
烈の質問にシンは、
「ここは、あ奴だけだ。このあたりに別のが居そうだな翔、住所を見て見ろ」
「この家は5の11だな。5の4に兼重郁夫ってやつがいる」
「おや、お出かけのようだ。感づいて逃げる気だな」
シンの見ている方角を皆一斉に見ると、その番地あたりから猛スピードで出ていく車があった。
「わあい、追いかけなきゃ。ここの車借りたいな」
「霊魂の方がよほど早いぞ。カーチェイスは辞めておけ。他人の車は後が面倒だ」
翔に止められ、リラはだったらあんたらで追いかけろといった態度である。そこで翔ら三人は追いかけすぐに追いついた。車の中に入ると座り込んで、必死で逃げようとしている男に、強は、
「無駄、無駄。逃げられっこないぞ。何処に行く気だ」
三人を見て兼重郁夫は、
「わあっ」
と、叫びながら電柱にぶつかってしまった。
「強が脅かすから。誰も居なくて良かったよ。烈の番だって?」
翔が促すと、烈は、
「うん、そう決めたらしい。小物そうでラッキーだな」
学習して無い烈である。
「焔の童子、出て来い」
さっきよりも、強烈な地獄の炎に当てられる烈。思わず逃げ腰の翔は、睨むリラと目が合いフライパン貸してと誤魔化し、フライパンで炎を打ってみた。すると火の勢いは弱くなった。効き目は有る。
火傷をするは、フライパンで殴られるはで、さんざんな目に合う烈である。シンに雨をかけてもらいながら、
「フライパン攻撃は遠慮するから」
と翔の手助けは拒否した。
「翔、今度はお前が言ってみろ」
シンに命令された翔は、
「いえいえ、ワタクシ目はまだまだお役には立ちませんや」
拒否しようとするが、全員に睨まれた。
「無理だと思うけど」
と、リラに同情してもらおうと、必死で目くばせした翔だったが、リラにも、
「あんたも、やる気だしな」
ときつい一言を貰い、仕方なく順番と言う事で決まった。
「無理と思うけど、多分出てこないよ」
と渋ると、シンは、
「欠片とはいえ出て来て、お前に乗り換えるかもしれぬぞ。欠片は実態のあるものを好むが、攻撃するつもりならば、中に入って霊魂を蝕む」
と恐ろしい事を言い出した。
「そういう場合の対処の仕方も会得しなければならない。乗り移られたら、強く打ち消せ。すぐさまやることが肝心だ。ぐずぐずしている内に、きっちり入り込まれたら厄介だぞ」
「うへっ」
聞けば聞くほど、寒くなる翔。
チラッと電話帳を見て、シンは、
「次は、6の6兼重兵吾か。いや、ここからは8の10、岡重勝三の方が近いか。では岡重に行こう」
とぼとぼと後ろからついて行く、翔である。
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