第9話 初めての捕り物
シンがベットに横になっていると、子孫二人、翔とリラがホテルの従業員さん四人を従えて恐る恐る部屋に帰って来た。
「あのう、食事の用意が出来ました。こちらにお置きしますので、ごゆっくりお過ごしください」
従業員さんはそう言って、慌てて出て行った。シンの只ならぬ闘気に恐れをなしていたのだ。人間は気を感じにくいと思っておったが、最近は進化したのかのう。等と思っていたシンであるが、自分の気を隠す術を忘れている本人、いやいや、本龍のせいである。おずおずと部屋の片隅に身を寄せている二人を見て、シンは、
「どうした、近う寄れ。夕餉が冷めるぞ。早う食せ」
と席に座りながら言った。
「は、はい」
おずおずと近づく二人を見て、やけに怯えている事に気が付いたシン。随分気が小さいようだが、鬼退治に連れて行ったものかどうか思案した。それにしてもリラは先ほどの元気は何処へ行ったのか、少し話でもして親しくしてみようかと思ったシンは、
「そう言えばお主、誰ぞが凌辱されたと話して居ったな。犯人を見つけるのであろう。犯人は我には分かっておるぞ、村の康夫と博とか申すもの達じゃ、苗字は同じ桂木じゃ。子孫の面汚しかと思うたら、どちらも婿養子じゃな。鬼の気の欠片が入っておる。夕餉が終わり次第、退治に参ろうかの。早う食せ」
「へっ」
怯えた返事である。
「我が、鬼の欠片共を、あ奴らの体から追い出す故、主らで、存分に打ちのめしてみよ。それなりの心得があるようではないか」
「・・・」
「どう致した。出来ぬと申すか」
やれやれである。それならばと、シンはアイデアを出した。
「では、太刀を探すことが先かのう。さすればいざとなれば心強い」
まだ怯えた様子なので此処でやっとシンは察した。
「主ら、我は味方ぞ。ほれ、主らの言葉で例えるなら、チームじゃ。チーム桂木ぞよ。よく心得るぞよ」
そこで翔も、
「そうですよね。チームですよね。ところでこのチームに、もう少しメンバーを追加してはどうでしょうかね」
「強烈の事か。そうじゃな。しかしあの強は何やら悪さの廉で牢に入っておるが、チームに入れることが出来ようかの」
「いつも適当に出入りしています、用のある時には。来てもらいたいです」
「そうか、メンバーは多い方が心強いのう。手が足りないとなれば呼ぶ事になろうかの。では太刀を手に入れた奴めの子孫を、一軒ずつ調べようぞ。手始めに、そうじゃな。主の、義理の姉君の実家から始めるとするか。さすれば主のやる気も出て来そうじゃな」
「何だって、あいつの実家がそうなの」
「そうじゃ。そのあいつの事じゃ。段々やる気になってきおったな。よしよし。あいつにも鬼の気の欠片が入っておるぞ。では、仕事始めはあいつに入っておる気にするかのう」
「するする、するよ。じゃあ、朝になったらUSBBに行くの」
「言っておくが、仕事は内々にせねばならぬ。奴の本体がどいつに入っておるか分らぬ故、太刀を見つけるまで、目立つ訳にはいかぬぞ。危険じゃ。皆で霊魂となってUSBBとやらに行く方が良かろう」
「どうやって霊魂だけになる訳ですか。ちゃんともとに戻れるかなあ。そのままあの世行きとか成りたくないけど」
「我が教えて進ぜようぞ。心配するでない。コツさえわかればどうと言う事は無い」
また怯えるので、
「チームぞ」
と強調した。
「主らがなじまぬ故、そうじゃな。我も現代風に変身しようかのう。どんな者が良いかのう。そうじゃ、茶髪にしようか、いや、もう少し砕けた方が良いかのう。男は皆翔のような成りかのう」
シンはやっと、二人になじんでもらう気になったようだ。何やら色々考えているようで、すると見る見るうちに、金髪のチャラそうな男に変身した。
「ひぇー」
二人とも、また驚愕したが、今度はすぐ慣れた。やはり、見慣れた風体の方が馴染みやすかった。シンはこのホテルに泊まっているチャラい男を観察し、その真似をすることにした。以前の勘を取り戻し、自然と闘気を隠せた。
「そうだ、温泉に入ろうかな。久しぶりだな温泉も、考えてみるとよくも数百年氷に浸かっていたものだな。出て来てみると我ながら馬鹿らしかった。同じ浸かるなら、温泉に浸かっていれば良かったな」
彼の良いようでまずい所は、化けると人格まで変わる事だろう。敵討ちを忘れてしまわねば良いが、翔はすぐこの現象を察した。
「ちょっとチャラすぎやしませんかね」
念のため指摘した。
「そうか。もっと真面目になれってか。ふうむ」
シンはホテルに居た、文学青年を見て今度は彼を真似た。眼鏡も適当に作ってみた。黒縁メガネの文学青年が現れた。今度は二人とも驚くことも無く、リラが感想を述べた。
「もうちょっと強そうな方が良いわね。何だか人格も変わるみたいだし」
「さて、どのようなやつかな。近くにはそう言う輩はおらぬし」
ここで二人は、誰かの真似をしているのに気付き、テレビを付けた。時代劇をやっているチャンネルを見つけ、主人公を指さしたリラは、
「こういう人はどう、着ているものはそのままで」
指図までしはじめる。馴染みだすとこの娘は面倒になりそうだと思いながら、シンは指図どうりになってやった。
「わあ、すごいすごい」
褒められて少し気をよくするシン。翔はこの人、いやこの龍とは、意外とうまくやっていけそうな気がした。
「では、温泉は仕事が終わってからにしようかな。君たち、霊魂になる方法を教えよう。とりあえず寝ろ。言っておくが眠るって事だからな。あはは」
彼が上機嫌になったのは良いが、急に眠れと言われても、無理な話である。指図通りにしないと、機嫌を損ねる予感がするし、困ったものである。
「急には眠れないですよ」
翔が意見を言ってみると、
「そうか、では眠らせてあげよう」
物凄いパンチが来て、やはりそう来たか、と思いながら翔は気を失った。
「ひぇー」
と悲鳴を上げるリラを見てシンは、
「そうだな、君は顔は止めとこう」
と安心させ、少し息を止めて気を失わせた。
二人がはっと気が付くと、雲の上のようなところに居て、目の前に始めの黒装束の格好をしたシンが居た。
「言っておこう。今は本当に雲の上におる。霊魂になる方法など、説明するまでも無いようだったな。では、あいつの実家に行こう。あいつの親たちは普通の人間だから、今回は穏便に例の太刀を持っていないか聞いてみよう、無ければ直ぐ近場から他を捜索だ。付いて来い」
どうやら彼の口ぶりから、警察の真似を始めたらしい。
雲の動きから、すごい速さで移動しているらしい。立ったままだが、どうやら二人は彼について行っているようだ。なぜこんなことが出来るのか、不思議だった。すると、
「君たちは、私の子孫だからな。龍の血が混じっている。人間にはできない技だ」
と、説明された。考えている事が解るらしい、筒抜けだ。するとまた、
「君たちも、私の考えが判るはずだが、どうだ」
と言われた。そう言われても、さっぱりである。翔は首を傾げた。
「何も考えては、おらんかったからな」
からかわれながら、移動しあっという間にあいつの実家に到着した。ところでこちらは真昼間だ。翔はどうなるかなと思っていると、何故か実態があるような感じだ。家の前に着いて、シンがチャイムを鳴らしている。翔とリラは慣れない移動のショックで身動き出来ないでいた。
「はい、どなた」
リラは何故か勝手にしゃべり出す。
「おばさん、リラですけど」
「あら、珍しいわね。何事かしら。ドア、開けたから、入ってらっしゃい」
三人はぞろぞろ入って行き、シンはリラに
「私が探すから、君は適当な事をしゃべって時間を稼げ」
と言っておばさんの視界から外れた。翔はシンについて行った。
「お前は捜索の役には立たぬが、その顔では人前には出られまい」
「この顔に誰がしたんですかねえ」
「お前、急に生意気になったな」
シンに睨まれると、さすがにぞくっとした翔、不味いと思っていると、
「あら、誰かいるのかしら、何だか話し声がしたような」
「まあ気のせいですわ。ところでおばさん、お宅には古い日の国の太刀とかありませんか」
リラが単刀直入に聞いている。
「あやつ、目立つことをするなと言ったのを忘れたかな。それとも、我が言い忘れたか」
「そのくらいの事、察しなきゃ。本体に知られてはならないとは、何度か聞いています」
「そうだろう、困った奴だ。しかし、妙だな。有りそうで無い。どういう事だ」
シンが悩んでいると、リラたちの話し声が、
「まあ、あなたも探しているの。さっきも主人の親類が来て、ここに太刀があるはずだって言うから、それで思い出したんだけど、一昨日燃えないゴミで出しちゃったのよ。だってクローゼットに何だか汚い錆びたものがずっと有って、うっとおしくなったのよ。だから思い切って出したの。そんなに大事なら、金庫にでも入れとかなきゃって思わない。そうでしょ。そう言ったら、さっきみんなで慌てて出て行ったのよ。いい気味」
「リラ、我らも慌てて出ようぞ」
シンが呟くと、リラも、
「おばさん、私も慌てて出るから、失礼します」
「ばかだねえ」
翔が思わず呟くと、シンはため息交じりに、
「手遅れだったか」
と言い出した、と言うのも、おじさんたちが戻って来た。
「あっはっはあ、キャサリン。太刀がドロドロ溶けていた。こうなったらデカシタと言っていいだろう。いや、あれが必要と言う訳ではなかったんだ。この人たちはある人から処分を頼まれていたそうなんだ。だから処分しました。と報告でオッケー、おしまい」
「まあそう、そんな事でしょうとも、あんな錆刀。あら、リラは何処に行ったのかしら」
「なにを寝ぼけた事を、リラなら日の国に行ってしまっただろう。この前広永さんが言っていたじゃあないか」
「でも、さっきまで、ここに」
「さっさと、ずらかろうぞ」
シンに指図されるまでもなく、皆上空に上がり、あのおじさんたちが行っていた所に急いで行ってみた。そこはゴミの回収センターと取引している工場で、回収した鉄くずをリサイクルして、製品を作っていた。シンは大事な太刀の成れの果てを見つけた。何かしらの気配があるらしい。
「やれやれ、これは何かな」
工場の中に入ったシンが手にしているには、流れ作業の工程の挙句出来上がった、テフロン加工のフライパンだ。
「それ、フライパンと言って料理に使うの」
リラが説明すると、
「これではどうにもならぬ、何やら妙なものと混じった金属になっておる」
ため息をつくと、フライパンをリラに渡し、
「それではこれで料理でも作ってくれ。・・・おや」
工場の隅に目をやると、
「これは太刀の霊魂だな」
と言って、鉄が溶けて飛び散った、そこら辺一帯にある塊の中から、ひと固まりを拾った。
「さすがに料理の鍋などには、なりとう無かったと見える。さて、これを入れてもう一度刀を作らねばなるまい」
「駄目になったんじゃあ無かったとか」
翔は思わず興奮した声で言った。
「しっ、大きな声は出すな。人間に聞こえるかもしれぬ。今は霊魂だから姿は見えないが、人によっては声が聞こるらしいからな」
「そうなんですか。でも、どうやって太刀を作るのですか。
「うむ、この工場には太刀を作る技術は無い。せいぜい小刀だな。仕方あるまい。作ってもらおう。早くせねばの、奴に感づかれては不味い」
そう言ってシンは、工場に居た年配の作業員の側に行き、鉄の塊を見せながら、何か耳打ちした。作業員は今やっていた事を中断し、どんよりしたまま、鉄の塊を高熱で溶かしながら、ナイフらしきものをコチコチと形作った。しかし、せいぜい刃渡り20センチにも満たない、切れ味悪そうなナイフでしかない。翔は、これでは鬼と距離を縮めなくては打てない事が解って、恐怖で気分が悪くなって来た。
「うわあ、短すぎる」
小声で、呟いた。
「うむ、止めは私が刺すしかあるまい」
シンも呟いた。絶望的雰囲気が嫌で、リラは
「あたしはこのフライパンで、頭でも殴ろうか?」
と言った。
すると、シンから、
「それも良いが、声がデカい」
と注意された。そして、
「計画は変更だ。日の国に帰ろう。温泉にでも入りたくなったな。その後練習がてらあの辺の鬼の欠片からやっつけようか。ここはどうやら、本体に近そうだ」
「ひぇっ」
二人は声を殺して悲鳴を上げ、USBBを後にした。
帰ってくると、意外と時間が経っていない事に気がついた。せいぜい1時間ほどであろうか。
帰り着くと、シンは居なくなったので、温泉に入りに行ったのだろう。翔とリラは何だか不安で、内風呂に入ることにした。温泉を引いてあるそうなので、同じだよねと言い、部屋からは出るまいと決心した。シンは一晩帰ってこなかった。ほぼ新婚なので遠慮したのかもしれないが、翔は遠慮は無用だと、言っておけばよかったと後悔して、不安な夜を過ごした。随分臆病になった気がしたが、ある程度の技量があると、敵対する者の危険性が察せられる。リラを守るには自分だけでは無理なのが判っていて、翔にはそれが恐怖だった。
朝になってシンがふらっとやって来た。
「どうして泊らなかったんですか。こっちは、奴に嗅ぎつけられていないかと、ひやひやしていたんですよ」
翔はシンに思わず言った。
「しかし、我は予約していなかったぞ。満室とか、ゆうておった」
急に現代的な事情を知っているシンである。
「朝飯が終わったなら、例の男たちに喝を入れに行こう。白状させて牢に入れるのが筋だが、目立ちたくないし、鬼の気を始末した後、ちょっとした災難に遭う程度にしようかの」
「はい、はい」
「おや、帰り支度か、2,3泊予約していなかったか。何度も言うが目立つんじゃあないぞ」
「絶対もう目立ってますって。写真受け取って帰りたいです」
「そうかな」
写真を受け取りに行くと、随分綺麗なリラが写っていた。リラも少し喜んだが、内心不安でいっぱいである。旅行気分は吹っ飛んでいて、それから三人は村役場に寄った。例の二人は役場勤めだった。シンはつかつかと、カウンターに行くと、
「桂木康夫さんか、桂木博さんと言う人は居ますか。遠縁の者ですが、近くまで来ましたから、会いたいなと思って寄ったんですけど」
シンはすらすらと、出まかせを言っている。驚くほど現代になじんできた。
「あら、そうなんですか。生憎二人とも、昨日の大雨で、紅琉川に点検に行っています」
「そうでしたか、ではそっちに行ってみます」
シンは二人の所に戻ると、
「丁度良かったな」
と、ニッと笑った。また凄味が出て来て、翔とリラは涼しくなった。
紅琉川に行くと川岸に二人の男が居た。
「居るな。用意は良いか」
「って、どんな用意です」
シンはため息交じりに、
「構えておれ」
と言い置き、シンは二人の所へ素早く行き、何か言っていると思っていると、二人は倒れ、火の玉が二つ翔とリラの方へ素早く飛んで来た。翔は捕まえようとするが、動きは速い。取り逃がすわけにはいかないと思い、負けずに素早く蹴って見た。当たってふらっと落ちかけたが、落ちはせず案の定、逃げようとしている。そこでいつもポケットに入れているビー玉を投げると当たり、落ちてきたところを踏みつけたが、火は消えず、結構足の裏が熱くなって来た。往生際の悪い奴とばかり、踏み続けどうなるかなと思っていると、だんだん火の勢いは衰えて来た。しかし消えてはいない。で、どうしたものかとリラを見ると、リラは水鉄砲を何処で仕入れて来たのか手に入れていて、水をかけて火を消そうとしている。
「消えるのか、それで。何処で手に入れたんだ」
「ホテルの土産物売り場だよ。多分とどめって、火消しだと思ったんだけど、消えないねえ。普通の火じゃあないね」
「そりゃそうだろ」
康夫と博を川に落とし込んできたシンが、そんな様子をしげしげと眺め、
「お前達、闘気が全くないな。普通の人間でも闘気のあるやつが昔は居ったものだが、どうしたものかな。今更、修行してどうなると言うものでもなさそうだが」
翔は、シンは訓練とか、練習とか言っていたのだから、きっとこの魂は大者とかじゃあないだろうけど、自分達には無理だと思った。
「その点は、強烈兄弟はありそうだな。強烈に殺させよう。リラ、強烈のどっちか呼んでよ」
「何であたしが、水鉄砲で忙しいのよ。かけ続けていないと勢いが増しそうな気がするの。あんたは手が空いているでしょ」
「いや、これでも睨みながら踏んでるんだ。気を抜くと逃げられそうだ」
「と言う事は、あの兄弟を呼ぶ役目は私かのう」
シンが、申し出て来た。
「そうなりますね。でも手っ取り早くしたいなら、ご自分で殺してください」
「しかし始めの打ち合わせでは、君達で何とかする事になっていなかったかな」
「いえいえ、打ちのめすだけです。とどめの話は無いです」
「私の役は本体のとどめだけだったはず」
「とにかく、こいつらのとどめは決めていないです」
「もう、ごちゃごちゃ言わないで、さっさとやってよ、腕がだるいし、水ももう無いんだけど」
「はいはい」
シンはさっさと闘気で殺した。
「強烈を呼ぼうかのう」
「それじゃあ、俺らは用無しって事で、帰らせてもらえませんかね」
「しかし、役には立たぬが、私と別れて大丈夫かな」
「やだ、大丈夫なはず無いだろ翔、あたしらもせいぜい小物捕まえながら、一緒に居させてもらわなきゃ」
「そうだね。すみませんが、雑用などしますから、居させてください」
「ふむ、それで決まりの様だな」
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