トナカイ
「穂、心配をかけてすまんね。」
聞き覚えのある声が格納庫内に響く、戦闘機の陰から現れたのはラフな格好をしたルタだった。
言いたいことは色々あるし溢れ出てくる感じもあるのにも関わらず私は咄嗟に何も言えなかった。
それでも私の口をついて出た言葉は――
「おはよう。三か月もぐっすり夢の中ならしばらくは大丈夫そうね。」
「どうだろうな……。とはいえ穂、自分から訓練受けたなんて凄いじゃないか。
ここの連中、荒っぽかったろう。」
久々のルタとの会話だった。
三か月間、自分が何をしていたのかを思わず話してしまった。
それはルタに褒められたいからじゃないと思っている。
多分、話せなかった分、聞いてほしかっただけなのだろう。
その晩、私はテラスで夜風に当たっていた。
不意におばあちゃんのことが心配になって水面に映る月をぼんやりと眺めていた。
その静寂を破ったのはルタだった。
アリスと一緒で渡したいものがあるとのことだった。
「穂、プランサーの代わりにこいつを使うといい。今の穂なら大丈夫だろう。」
受け取ったのはプランサーと同じような形をした魔道具だった。
しっかりと手に持つと夜風が私の全身を吹き抜けていった気がした。
もう一つはパスケースだった、ルドルフというこの魔道具に適合させた物だそうだ。
使い方は変わらないそうで、ベルトにでも提げておけばいいとのことだった。
「旅をする中できっと暗闇の道を彷徨うこともあるだろう。
その時、ルドルフは穂の勇気に応えて進むべき道を照らし示してくれるだろう。」
それからルタは二つの魔道具を取り出した。
一つはいつもルタが持っているもの、もう一つは見たことがなかった。
同じ形だけど私には対になっていることが直感的にわかった。
一つはフラクタルと名付けられたもの、大人しく良く言うことを利いてくれるからよく使うそうだ。
一方、シンプレックスと名付けられたそれは暴れん坊だったという。
「核になる部分が暴走してしまってね、俺自身、上手く扱える自信が無くてずっと封印していたんだ。」
しかしながら私が重症を負ったあの日、ルタの想いに応えるかのようにシンプレックスは彼に力を貸した。
もしかするとちゃんと持ち主として認めたのかもしれない、と彼は笑って話す。
潮風に体が冷えてきたころ、私たちは眠ることにした。
もうじきここを発つ、ルタはルーザスのことに対して決着を付けようとしている気がした。
三日後、私たちは支度を終えて地下格納庫に集まっていた。
一つのロッカー、ここが駅に繋がっているのだという。
次の目的地は崩壊した異界なのだという。
ルーザスの潜伏先を調べていたのだが、ようやく居所を掴んだそうだ。
「元々は魔法使いの為の学校がある異界だ。
だが、ルーザスがそれを崩壊させてしまったんだ。
だからリスクもある。
けど、決着を付けなきゃならない。
乗客はしばらく別便でターミナルに停泊してもらう。」
私も、コルックスとクリューも息を呑む。
どうやら既に手筈を整えているようで、別便は先ほど出発したようだ。
アリスが私たちを心配そうに見守る。
私は恐怖からか足が震えている気がした。
それでもそよ風が頭を撫でていった気がして私は拳を固く握りしめた。
「アリス、またくるね。」
私はそう告げて駅へと入る。
見慣れた黄昏のホーム、三か月ぶりだから久々に感じられた。
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