精霊竜

『今度はわたしのばんだよ、ニンゲン』


「アクア、チェック!」


 改札すると炎に向かって勢いよく水が噴き出した。炎の威力を弱め、やがて消火してドラゴンを水浸しにしてしまった。


 やりすぎてしまったのかもしれないと思いつつ、私は精霊の力を実感している。


「穂、よくやった。ひとまずマナ核に干渉して暴走を抑えられるかやってみる。ビンディングの魔法はそのまま頼むわ」


 ドラゴンに近づくと腕を鱗の隙間に捩じ込んだ。血飛沫が上がると精霊たちは不安そうな声を上げ始めた。


 しかし、しばらくすると禍々しさは無くなり半透明の翼に綺麗な翠緑が揺めき始めた。そうか、このドラゴンの本来の姿……。


「こいつはアルヴ・ドラーカという精霊竜だ。まさか二度も暴走しているのに出会すとはな……。」


 精霊たちのお父さんこと精霊竜は大人しくなってすやすやと眠っている。


「ところで穂……危ないからあまり無茶をするな。精霊たちが助けてくれたとはいえ、危ないものは危ないんだぞ」


「ごめんなさい……それでも……助けなくちゃって思ったんだ」


 ルタに少し叱られながらも私は魔法を使えた事を少し誇らしげに思った。


『ニンゲン、カンシャするぞ』


『ニンゲン、ありがとう』


「助けられてよかった……力を貸してくれてありがとう」


 精霊たちと一言の会話を終えると見えなくなった。


 ヴルトスの魔法の効果が切れたのだろう。


 私達は旅籠にて一泊した後、次の世界に向かうのだとルタは言っている。


 新聞には精霊竜が一面の大見出しになっていた。精霊を父親という存在に加えて凶暴化していたのだからそうなるだろう。


 翌日、私達はカノエ国で不思議な話を耳にした。ルタが屋台で朝ごはんを買いながら聞き込みをした。


「なあ、精霊竜に何があったか見たりしたか?」


「あぁ、見たよ。変な男が精霊竜様を化け物に変えちまいやがったんだ。まったく、精霊竜様になんてことしやがるんだ」


「やっぱり……」


 ルタは眉間に皺を寄せて考えていた。私たちは焼き魚とおむすびに舌鼓を打っているがルタは一向に唸ったまま食べ始めることをしない。美味しいんだけどなぁ……。


「ドゥクトゥス、チェック」


 ルタは魔法を使うと目を閉じて更に黙りこくってしまった。一体、どうしたのだというのだろうか……。しばらくするとルタは顔を上げて私たちに言った。


「奇しくも次に向かう場所に奴がいるらしい」


「奴って?」


「ルーザス・ワイニング。禁忌魔法を研究していたはみ出し者の魔導師だ」

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