異界渡り

 あれから1週間が経った。私達は村に食糧の手配をしたり復興作業の手伝いの依頼を掲示したり、王都と村を行ったり来たりで大変ではあったが楽しかった。


 パハロ種と呼ばれる鮮やかな色をした大きな鳥と荷車は決して乗り心地が良いわけではないがパワフルに運んでくれる。まさか荷車に乗って旅をすることもあるとは思わなかったからいい思い出だなと思う。


 村の復興は順調に進んでいる、しかし村人たちの心の傷は中々そう癒えるものではないだろう。それでも……脅威とも言われたザン・オルリビは討伐され少しの間は平和なのだろう。そして私たちは次の異界へと行く前に王都12番街の酒場に立ち寄っていた。


「いやぁ、何人も返り討ちにしたザン・オルリビを討伐するとはね。僕の名前はルーザス・ワイニングだ、よろしくお嬢さん」


 声を掛けられて返事をしようと思ったが既にその人は人混みに紛れてしまっていた。酒場は熱狂に包まれルタは大勢にもみくちゃにされながらマスターと何とか話をつけていた。私はコルックスとクリューと共に早々に酒場を後にした。


 駅で待っていると遅れてルタもやってきた。そろそろ異界渡りの時間なのだと言う。ブラフィカ・エクスプレスに乗って向かう次の異界はどんなところなのだろう。この世界で怖い思いも含めて沢山の思い出ともなった。風が私を吹き抜けていくからか、とても勇気が湧いたことを今でも覚えている。


 出発して星空の合間のような空間、異界の隙間を通っている時に私はルタにお願いしてみることにした。


 私はこの旅できっと何かを得られるんじゃないかと思っている。それが何かは今はわからないけど……またあの時のようなことになってしまった時に私も何か力になりたい。だから――


「ルタ、ちょっといい?」


「穂、どうしたんだ?」


「私も魔法を使えるようになりたい。戦うのは怖いけど……それでも魔法を使えるようになって力になりたいって思うんだ。ダメかな?」


 ルタは黙って私を見つめた。至極真剣な表情だったがいつものようににっこりと笑って「じゃあ少しずつ、貸したその魔道具でやっていこうか」と言ってくれた。チケットを使うから改札鋏というものなのだという。


 私が借りたのは彼の作ったものの一つ、プランサーというらしい。私は彼にプランサーのパスケースを受け取るとあの時と同じように風が吹き抜けた感覚がした気がした。


 次の異界では私も少しずつ魔法を勉強することになること、そしてまだ見ぬ異界に対しての高揚感で包まれていた。今の私はあの日常から程遠く眩しいほどに輝いているように感じられた。

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