風が吹く
パスケースは必要なチケットを出してくれると言うが……。
一瞬、私の肩を風が撫でて行った気がした、まるで私の背中を押すように感じられた。怖くて泣きたいし逃げ出したいのに頑固な足は頑なにみんなを守れと震えながら立ちあがる。
私が考えている間にクリューは剣でフードの男に立ち向かう。軽くいなされているような、まるで防戦一方に見える。……今ここで私は自分を奮い立たせなければ一生後悔するような気がした。吹っ切れたわけじゃ無いけど、小さな勇気を私は握り締めていた。
手には一枚の切符、私にはこれが何かわかる。これを使えば良いのね。
「ウトゥ・ヴェントゥム・アブス・クォンダム、チェック!」
ルタやクリューがやっていたように私もチケットを魔道具に差し込み、魔法の名前を読み上げてクリューに向けてトリガーを引いた。
クリューの身体を風が包み込んだかと思えば姿が消えた。これは風に身を隠す魔法だ。よく動くような時に使う魔法なのかもしれない。
姿を現したかと思えば斬撃を放ち風に消えゆく。ヒットアンドアウェイがどこまで持つのだろうか分からないが……私は村人の避難を誘導することを忘れて見てしまっていた。
「猫の分際で中々やりますね……ザン・オルリビがもうすぐ倒されてしまいそうですから、ここは身を引くとしましょう」
不気味な男は言い残して消え去ってしまった。安心からか足の力が抜けてへたり込んでしまった。クリューが安心した顔で私にサムズアップしてくれた、ということは一先ず大丈夫なのだろう。
そしてもうすぐ終わるというルタ達の方に目を向けるとザン・オルリビという巨大な猪は横たわっていた。どうやら勝てたようだ、私は村人達と共に急いでルタのところへ向かった。
「このザン・オルリビや残っていた凶暴化したオルリビは討伐してある。金に換えて村の復興を目指すと良い」
ルタは村人達に向かってそう言った。自分の故郷が壊滅してしまう、というのは経験が無いが無くなってしまったらとても悲しいのだろうとは想像が付く。村人達もまさか復興資金が手に入るとは思わなかったのだろう、戸惑いながらも嬉しそうだった。
「穂さん、まさか身を隠す魔法を使うとは思わなかったよ」
「必要なチケットは自分が戦う、ということだけではなく支援することもなのね。私もびっくりしちゃったよ」
私は戦えなかったし戦う術を知らない。だから支援できるような魔法を必要として手元に来たのだろう。命のやり取りだった後なのに借り物とはいえ魔法を使えて私は嬉しかった。もっと魔法が使えたらと欲さえ出てしまうほどに。
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