にこやかな男

「どういうことなのか説明してもらえるか?」


「私たちは翠緑の大森林北西辺りに村を建てて暮らしておりました。オルリビ種自体は珍しくないのですが、ここのところ人をよく襲うということで王都12番街の商工会長にお願いをさせて頂きました。ですが……凶暴なオルリビ種の中に……うっ……ぐっ……」


「大丈夫だ、落ち着いてゆっくり続けてくれ」


「ザン・オルリビがいたのです……まさかいるとは思っていなかったのです……大きいクェルノスを越える程の大きさでした……我々は命からがらここまで逃げ延びたのです……」


 ルタの表情は一層暗いものとなった。そして森の大きい音が聞こえ森を見ると大木が一本倒れていくのが見えた。場所はそう遠くはない。コルックスは黙って森を睨みつけている。


 一瞬だった、低い打撃音が響いたかと思ったら4mはあろうかという巨大な猪の牙をルタは食い止めていた。村の人々は恐怖に慄き足がすくんで動けない様子、それをクリューが激励し何とかして逃がそうとしている。


 コルックスも剣を構えてザン・オルリビに挑んでいる。私に何か出来ることはないのだろうか。


「穂、こいつを持って行って村の人と逃げろ!」


 ルタは私に、彼がいつもよく使うものと同じような道具を投げよこした。魔道具なんて使ったことも無いのに……どうすればいいのよ。


「穂さん、これを使ってください。あなたが必要としているチケットが取り出せるパスケースです。その魔道具にま魔力が充填されていますからマナ核を持たない穂さんでも使えるはずです。大丈夫、私も一緒に行きますから」


 クリューはルタと目を合わせると頷き私の手を引いて走り出した。なるべく王都の近くにまで行くつもりのようだ。夜の街道は真っ暗かと思いきや星や緑の月が照らす光でいくらか明るく見える。


 村人たちを誘導しつつ振り返ると土煙が随分と小さくなっていた。大分離れたのだろう、一先ずは安心できるのかもしれない。


 はずだったのだが、クリューが何かを警戒している。ポツンと生えている木の影からフードを目深に被った人が現れた。手には細剣を握って明らかにこちらに対して敵意があることが見て取れる。


 クリューは魔法を使い既に剣を握っている。


「ザン・オルリビは本来もう少し小さいはずなんだけどね。いやはや、翠緑の大森林はマナが充分にあるからか僕に予想を遥かに超えてくれて嬉しい限りだ。」


 男はにこやかな口調で話していた、とても恐ろしいことを。そして私は男を見つめたまま動けないでいる、どうしよう、どうすればいい……。


 男は私に向かって細剣を振り上げた。もうダメかもしれない、と思うと炎が男に向かって伸びていた。クリューの放つ魔法である、私は咄嗟に男と距離を取ってクリューの隣にしゃがみ込む。

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