夕暮れの街
そう、なんてことない日の夕方頃だった。学校帰りで家路に着いているところで私は妙な人を見かけた。
この蒸し暑い時期には決して似つかわしくない外套を羽織った少年のような少女のような……。
しかし一目見ればこの町の人ではないことは確かだ。
ここはみんなが顔見知りのような小さい町だし知らない人がいたら非常に目立つわけで、観光地でもないここに観光目的で訪れているのならそれまた至極珍しい話だ。
そんな見知らぬ人は道の真ん中で紙を見つめながら唸り声を上げている様子に見えた。
道にでも迷っているのだろうか。
そんな人に話しかけるような酔狂な人もいないだろうけど、今日の私は吹き抜ける風に心地よさと妙な勇気を感じた。
「あの……もしかして道に迷っているとかですか?」
不審者だったらどうしようなどと考えることもせず私は思わず声を掛けてしまった。
明らかに怪しい人のような風体をしているわけだが、私は後にこの選択が間違っていなかったと思うことになる。
「ああ、申し訳ないがここに行きたくてね……人っ子一人通ることもないから困ってしまって……」
長い髪に端正な顔立ちから性別がわからなかったが、男だったみたい。
そして私はその声に不思議な懐かしさを感じた。
どこかで会ったことはないはずだけど……。
なんて考えていると彼は一枚のボロ切れのような地図を見せてきた。
地図はどうやらこの町のように見えた。
丸印がつけられており、ここが彼の目的地なのだろうと思う。
そして場所としてはここを私はよく知っている。
「あ……ここ私の家ですね……」
「あ、そうなると君は……いや、何でもない。案内してくれるかい?」
私が頷くと彼は地図を懐にしまい込み隣を歩き始めた。
暑い時期で外套をまとうのに汗一つかかないその横顔は10人が10人振り返るような顔立ちではあるが、随分と涼しそうにしている。
暑さに慣れているのだろうか。それとも発汗できない何かがあるとか……?
「ところでうちに何の御用でしょうか?」
「珠ちゃん……いや、君のおばあ様に挨拶をしようとね。近くを立ち寄ったものだから」
何かを納得したような顔つきで彼は私を見てきた。
しかしおばあちゃんにこんな若い人の来客など珍しいものだ。
そもそも訪ねてくる人はそうそういなかったと思うし、尚更こんな若い人との繋がりがあったようには思えない。
訝し気な目で彼を見ているとにっこりと笑って話し始めた。
道中に話していてわかったのはおばあちゃんの古い知り合いであるということ、そして私が幼い頃に電車の大事故に遭ったのを知っているということだった。
おばあちゃんの知り合いだから知っているのだろうか。もしかしたらあまり記憶にないお父さんとお母さんのことも知っているのだろうか。
好奇心は止まらないが私は聞くこともしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます