105 激しく情熱的に
ここは医務室。
マサキとネージュが気を失ってから三時間が経過した頃、マサキの意識は覚醒へと近付いていた。
「んっ……」
夢と現実の狭間で口元に何かが当たっている感覚を味わうマサキ。
濡れたもの。ザラザラとしたもの。柔らかいもの。温かいもの。
夢と現実の狭間にいるマサキには想像する力がまた戻ってきていない。なので何が口元に触れているのか想像もつかなかった。
(……なんだろう。ザラザラで濡れてる。まだ夢……だよな……いや、夢じゃないか……ちゃんと意識はある。起きる前って感じだろうな。じゃあ俺の口元を
マサキは戻る意識の中、自分の口元に触れているものの正体に近付いた。
(でも誰が俺のことをこんなにも激しく情熱的に舐めるんだ? も、もしかして……ネージュ!? 俺が寝てる間に欲求が抑え切れずに……ってあり得ないか。でも
暗闇の中、さらに思考を巡らせる。
(ネージュじゃなかったらクレールの可能性……いや、クレールはまだ子供だ。発情期とか無さそう。ネージュと同じで寝ぼけてる可能性もあるが……だったら一番可能性があるのはダールか? ダールは俺にちょっかい出すの好きだし……でも寝てる俺にちょっかい出さないよな。ましてはこんなペロペロと情熱的に俺の口を舐めたりなんかしないだろうし……てかこんなに思考してるんならさっさと起きろよ俺。今の俺、人生で一番頭回転してんじゃねーか? やっぱり夢か?)
マサキは根本的な問題『なぜ寝ているのか』を考え始める。
(というか俺、なんで寝てるんだ? 確か食品展示会に来てたはずだよな……睡眠を向上させる食品でも食べて寝たのか? いや、違う。そんな記憶はない……俺の最後の記憶は…………氷のキューブ! そ、そうだ凍結珠を見てたんだ。そ、それで俺は、いや、ネージュが震えだしてそのまま俺に伝染して……だ、ダメだ……そこからの記憶がない。ということはそこで俺は気絶したってことか!)
記憶を探り気絶したことを思い出す。
(ということは気絶した俺を誰かが、多分ダールだな。ダールがどこかに運んでくれたってことだよな。家か? いや、さすがに家は遠すぎる。だとしたら食品展示会……冒険者ギルドのどこかに運ばれたってことになるな。って待てよ。ここが家じゃなかったら俺の口元が舐められてるのってヤバ過ぎる状況じゃんかよ。周りに人がいて見られでもしたらヤバイぞ! いや、ここが家で周りに誰もいなかったとしてもダメだけど……ネージュが寝ぼけてやってんなら早めに止めてあげなきゃ!)
動くようになってきた頭で状況を整理。そして状況の深刻さを理解して焦りだす。
(もう十分に思考しただろ俺。起きろ起きろ起きろ! このままだと恥ずかしすぎるし、もっと過激な噂が流れちまう! だから起きてくれ俺よ!)
マサキは強く願った。
そして願いを答えるかのように、脳が全身に信号を送り始める。
その後、マサキは意識を覚醒させ、瞳を開けた。
「んっん!?」
目の前の光景に驚くマサキ。
マサキが夢と現実の狭間で思考した通り、マサキの口元は激しくそして情熱的に舐められていた。
しかしそれをする人物は白銀の髪の美少女ネージュではない。
「ル、ルナちゃん!」
「ンッンッ」
チョコレートカラーのイングリッシュロップイヤーのルナだった。
ルナの舌はマサキが感じたように濡れていてザラザラ。そして温かく柔らかい。
ルナはいつよりも静かに声を漏らしながらマサキの口元を激しくそして情熱的にペロペロと舐め続けていたのであった。
(だ、だよな。そうだよな。普通に考えてルナちゃんだよな。うちの
マサキは嘆息した。嘆息するということは期待していたということだ。
「ンッンッ」
「わかった。わかったから。もう舐めるのをやめてくれ」
「ンッンッ」
「よしよし。わかったわかった」
マサキは左手でルナを頭を撫でる。すると舐めるのをやめて小さな鼻をひくひくとさせながらマサキのことを無表情とも言える表情で見続ける。
マサキの黒瞳とルナの漆黒の瞳が交差する。
「もしかして……気絶した俺の心配をしてくれてたのか?」
「ンッンッ」
「それとも口元に餃子の肉汁が付いてたとか?」
「ンッンッ」
「どっちだかわからない表情だな。まあ前者として受け取っておくよ」
「ンッンッ」
無表情のルナからは読み取れない。
そのままマサキは横になっている体をゆっくりと起こしてその場に座った。そして辺りを見渡す。
「茶色い壁と天井……あとは……白いベット…………オレンジ色の…………ダール!!」
辺りを見渡すマサキはダールを発見する。
ダールはマサキの正面で木製の長いベンチに座りながら目を閉じていた。疲れて眠っていたのだろう。
マサキの声に気が付いたダールはゆっくりと瞳を開けながら目を擦り始めた。
「に、兄さん! やっと起きたんッスね。おはようございますッス」
ダールの横をよく見ると食品展示会の参加者が首にかける参加証が不自然に浮いている。
つまりそこには透明状態のクレールがいるということだ。
ルナとダールとクレールの確認は済んだ。マサキは確認が済んでいない残りの一人、白銀色の髪で雪のように白い肌の美少女を探し始めた。
「ネ、ネージュは? ネージュはどこだ?」
慌て始めるマサキ。
ネージュがいなければ平常心が保てなくなり気絶した時よりも悲惨な未来が訪れてしまう。そして気絶して倒れたネージュを必死に心配しているのだ。
そんな慌てるマサキとは裏腹にジト目で呆れた様子のダールは口を開く。
「兄さんの横で寝てるじゃないッスか。それに手も繋いだままッスよ」
「え? は?」
ため息混じりのダールの言葉にマサキは耳を疑った。手を繋いだまま隣で寝ているのなら気付かないはずがないからだ。
マサキはゆっくりと黒瞳の視線を右へとずらしていく。
己の右手は細くて長い綺麗な指と絡み合っている。そして視線がずれるとともに隣から温もりそして気配を感じ始める。
ダールが言った通りマサキの隣には白銀の髪で雪のように白い肌の兎人族の美少女ネージュがすやすやと眠っていた。
(き、気付かなかった。こんなに近くに、というか同じベットの上にいて手も繋いだままなのに気付かなかった……)
マサキとネージュは大型の種族のために作られたベットの上に運ばれていたのである。なので同じベットの上で寝ていたのだ。
その理由は単純。手を繋いでいて別々のベットに乗せることができなかったのである。
マサキは常識的に考えてこのような場所で一つのベットに二人で寝ているということはあり得ないと思っていた。だから隣で寝ているネージュに気が付かなかったのである。
ネージュの寝顔を見て安心したのだろうか、マサキは太ももの上に乗っているルナのもふもふの背中を優しく撫で始めた。
「ンッンッ」
「んっんっ?」
ルナが声を漏らすのと同じタイミングでマサキもルナと同じような声を漏らした。
なぜならマサキの左手の手のひらにもふもふ以外の何かが触れたからだ。
それはゴツゴツしていて硬い。指を動かせば柔らかい部分のもあるがほとんどが硬い素材でできている何かだ。
「……ゴミか?」
食品展示会で試食品を提供する際に使う使い捨ての器のゴミが付いているのだろうとマサキは思い、そのゴミを掴んだ。
かなりの軽量で掴みやすいがゴツゴツやぷにぷにがマサキの指の触覚を刺激する。
「ってゴミじゃなくて妖精じゃんか!」
マサキが左手で掴んだものはもふもふの毛皮を着た薄緑色の髪の妖精だった。
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