33 営業中に爆睡できるのが無人販売所の良いところ
部屋にある壁の覗き穴から客の様子を見ているネージュ。
「あっ、マサキさん。見てくださいよ。お客さんが無人販売所の購入方法に手こずってます……で、でもちゃんと説明文読んでますよ。あっ! ちゃんとお金入れました! よ、よかったです!」
客は無人販売所という未知の販売形式に手こずっているもののしっかりと購入することができた。そんな客を見てネージュはホッとしていた。
そんな中、貴族のように身なりが整った
「マッダーム。ここの経営者を見たかーい?」
「ええ。見ましたわよ。ムッシーユ。
「そうなんだーよ。マッダーム。
「あら? そんなに熱々でしたっけ?」
「
「うふふ。ムッシーユったら〜」
婦人と紳士はマサキとネージュが看板を返す約十秒ほどの場面を見逃さなかった。
そこで無人販売所の経営者が
そんな高齢夫婦の会話を聞いたネージュは顔を赤らめながら否定する。
「私たちは
否定しつつもいずれ夫婦になるだろうと思っているネージュ。ついつい『まだ』という言葉を付けてしまったことを少し遅れてから気付き、さらに顔を赤らめる。
恥ずかしくなったネージュはマサキの顔を見れずになり覗き穴から目を離せなくなってしまった。そのままマサキからの反応を待つがマサキは無反応。
ネージュは先ほどの言葉がマサキには聞こえていなかったのだと思い覗き穴から無人販売所の様子を見るのを続けた。
それからしばらくするとマサキとネージュの二人が知っている人物が来店する。
「あっ、ブラックハウジングのブラックさんが来ましたよ。体が大きくて扉ギリギリですね…………」
来店したのは不動産ブラックハウジングのオーナーのブラックだ。
血筋は大きなウサギのフレミッシュジャイアント。他の兎人族よりも
「不動産のスタッフさんに買ってあげるんですかね。怖い顔して選んでますよ。財布からお金も出してちゃんと払ってますね。私たちがやったシミュレーション通りですよ。無人販売所の商品の購入方法すごくいいですね。きっとみんな気に入ってくれると思いますよ」
兎人族にとっては未知の販売形式の無人販売所。
手こずりながらも壁に貼られている購入方法の説明文を読みながらきちんと代金を払っている。そのことにネージュは感動しているのだ。
ブラックが退店して次のお客さんが来店した。今度は兎人族の家族だ。
「マサキさんマサキさん! マサキさんのラスクをご家族が五個も取りましたよ。あっ、あと私のニンジングラッセも選んでくれました! 嬉しいです!」
何が売れたかマサキにいちいち報告するネージュ。しかし報告を受けているはずのマサキから一度も返事はなかった。よくよく考えてみれば数十分前から返事がない。
マサキからの返事がないことに違和感を感じたネージュは、覗き穴から目を離してマサキの方を見る。
「……マサキさん?」
「スハースハー」
「……って寝てます。あんなにオープン日を楽しみにしてたのに……お腹も出しちゃって風邪引いたらどうするんですか……」
振り向いた視線の先、ネージュの青く澄んだ瞳にはマサキがお腹を出しながら爆睡している姿が映っていた。
「二日間全く睡眠取ってませんでしたもんね……それに頭痛が激しいとか言ってましたし……お疲れ様です。ゆっくり休んでください」
爆睡していて聞こえるはずもないマサキに天使のような微笑みを浮かべ労いの言葉をかけるネージュ。
そしてマサキの出ている腹にもふもふの布団をかけたのだった。
「マサキさんを見てたら私も眠くなってきましたよ……ふぁ〜」
気持ちよさそうに寝ているマサキの姿からネージュも睡魔に襲われる。そして大きなあくびが出る。
ネージュもマサキと同じく睡眠不足で疲労が溜まっている。そしてマサキは激しい頭痛、ネージュは軽い目眩があった。
マサキだけではなくネージュも睡眠を取るべきなのである。
「無人販売所ですから私が起きてる必要ないですもんね。オープン初日のお客さんはとても気になりますが、私も少しだけ眠るとします……」
ネージュもマサキが寝ているクイーンサイズの布団の中に潜り込んだ。すぐに起きると思っているネージュはブラウン色のロリータファッションのまま布団の中に入ったのだった。
北の国の怪鳥の羽毛から作られたもふもふでふわふわな布団。そして同じ素材の枕。
ネージュは、もふもふな布団に包まれると一瞬で眠りの世界に誘導される。そして瞬きの刹那、深い眠りの世界の中へと意識が消えていった。
「スハースハー」
「フヌーフヌー」
「スハースハー」
「フヌーフヌー」
無人販売所の隣、壁を一枚挟んだ先では経営者の二人が疲れ果てて眠りについている。二人は寝息をかきながら気持ちよさそうに寝ているのだ。
人間不信のマサキと恥ずかしがり屋のネージュが壁の先にいる客のことが気にならないほどぐっすりと爆睡している。それほど疲れ果てているということだ。
二人は寝返りを繰り返してお互いの距離が近くなる。そしてお互いは同時に抱き付き、お互いを抱き枕にしながら寝始めた。
抱き付き合ってからは寝返りを一度も打たない。それほど安心するのだろう。
客が自分で商品を選び料金箱にお金を入れて購入が完了する販売形式。
自己完結形の販売形式で、よほどのトラブルがない限り客の前に姿を現さないのが無人販売所だ。
なので二人が寝ていても何の問題もない。営業終了の時間に起きて閉店作業さえできれば問題ないのだ。
「スハースハー……ダ、ダメだ……むにゃむにゃ……もうおなかいっぱい……プリン……食べれないよ……スハースハー……お、押し付けないで……」
「フヌーフヌー……マサキさん……うふふふっ……うふふふふふっ……マサキさん……フヌーフヌー」
疲れている時ほど寝相が悪い。そして寝言もよく溢す。二人は幸せそうな表情で夢を見ていた。
そんなマサキはネージュの豊満な胸の谷間に顔を挟みながら寝ている。怪鳥の枕と同等レベルの柔らかさに激しい頭痛が消えること間違いないだろう。
「プリンだけど……ゼリー……でもいい匂い……スハースハー……ぷるぷる……もちもち……スハースハー」
「マサキさん……うふふふっ……ふふっ……フヌーフヌー……ふふふっ……フヌーフヌー」
ネージュはマサキを抱き枕にしているが腕だけではなく細長い美脚でもマサキを抱きしめている。
締め付けられる感覚にマサキは時々苦しそうな表情を見せているが胸の柔らかさに鼻の下を伸ばしたりして幸せそうな表情もしている。
マサキ自身も抱き付いてくるネージュの体の下に腕を入れている。マサキもネージュを思いっきり抱きしめながら抱き枕のようにしているのだ。
無意識に抱き枕にしてしまっているので仕方がないが、もし無人販売所に来た客が間違って部屋に入ってしまいこの状況を見てしまったら、仲の良いカップルや夫婦だと思ってしまうだろう。
今まさにそれが起きてしまったのだ。
「ママ〜! ママ〜! おねーちゃんとおにーちゃんが抱きつきながら寝てるよー」
「コラッ! 勝手に入っちゃダメでしょ。うちの子ったら……すみませんね……で、では、ごゆっくり〜。行くわよ。勝手にうろちょろしたらダメなんだからね」
「はーい。おねーちゃんたちラブラブだね」
「若い夫婦なんだから当然よ。買い物に戻るわよ」
「はーい」
間違えて部屋に入ってしまった兎人族の幼い女の子。店舗スペースと部屋の間には扉がなくカーテンで区切られている。カーテンの先には軽い通路がありそこを通ると部屋にたどり着くことができるのだ。
しかし好奇心旺盛な女の子はカーテンの先が気になり入ってしまったのである。仕方がないことだ。
部屋に入ってしまった女の子を連れ戻しにきた母親は無人販売所の店内へと戻った時、知り合いの兎人族とバッタリ遭遇する。
「あら、リュムールさん。こんなところで奇遇ね。なんで奥から出てきたのかしら?」
「ロシュさん。奇遇ですね。うちの娘が入り込んじゃって……それで連れ戻してきたんですよ」
「あら、そうだったのですね。ホホホホッ」
女の子の母親がバッタリと遭遇した知り合いはマサキとネージュも知る人物。探検隊のロシュ・ミネラルだった。
ロシュの右手にはマサキとネージュが
「ところで奥はどうなってたと思いますか?」
「そうですね〜。可愛いカップルが抱き合ってたとかですかね? ホホホホッ」
「ロシュさん正解よ。まさにその状況だったのですよ。昼間からラブラブで羨ましいわ。無人販売所を経営していて将来安泰ね。本当にうらやましいわ」
「あら、当たってしまいましたわ。あの子たち結婚もしていたのね。いいわね。ホホホホッ」
うらやましそうにしている二人に純粋無垢な女の子が口を開く。
「抱き合って寝てたの! おにーさんの方はおねーさんのマフマフに顔を押し当ててたよ! それでねそれでね……」
よからぬことを言う前に母親が娘の口を塞ぐ。
「コラッ! 大きな声でそんなこと言わないの。ごめんなさいね。うちの子ったらこういう話が好きなのよ」
「本当に熱々だったのね。それじゃ挨拶はせずに買い物だけしようかしら。ホホホホッ」
こうしてマサキとネージュの知らないところで変な噂がさらに広まっていくのだった。
このように客同士の会話や商品を手に取りカサカサと袋が鳴る音、そして料金箱に銀貨や銅貨を連続して入れる音。様々な音が無人販売所内に鳴り続いた。
どんなに無人販売所が騒がしくて音が響いたとしても爆睡している二人が目を覚めることはなかった。
「スハースハー……マフマフ……スハースハー」
「ふふふっ……フヌーフヌー……マサキさん……く、くすぐったいですよ……フヌーフヌー」
現実と夢がリンクしているのだろうか。マサキはネージュの豊満な胸を夢の中と現実で揉んでいる。
そしてネージュはくすぐったそうにしている。本来はすぐに叩いたりして揉むのをやめさせるのだが夢の中ではそんなことはしなかった。
このまま二人は営業時間中ずっと深い眠りの中にいたのであった。
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