17.未踏の迷宮・2

 ひとまず石碑の助言に従うことにした俺達は

右側の暗い通路を選んだ。


 数分程歩くと道は再び分岐していた。

 同じように暗い方の通路を選択して進む。


 そうして一連の流れを3回ほど繰り返した頃、思わぬ障害にぶつかった。




「ん、どの道も同じくらい明るいな。どうするか……」


 二手に分かれた通路はどちらも明るい。

 暗がりに進むという攻略法は早くも通用しなくなった。


 自慢じゃないが謎解きは苦手だ。

 しばし頭を回転させてみたが、正解を導き出す手段は思いつきそうになかった。


 諦めて引き返そう、そう告げようと思ったその時、マリナがハッと目を見開いた。


「あっ、いいこと思いついたかも」


「どうするんだ?」


「暗くないなら、暗くしちゃえばいいんだよ!」


 そう言ってマリナは左側の通路へと踏み込み、壁に備え付けられた照明器具に触れて何かを探し始める。


 しばし待ってみると、カチッという音と共に灯りが消えた。どうやら裏にあったスイッチか何かを押したらしい。


「うーん、片方の通路だけじゃダメなのかな? クロムもそっち側消してみてくれる?」


「わかった」


 右側の通路に踏み込み、マリナと同じように照明を消す。


(そんな上手くいくかな……)


 直後、迷宮が振動し、石材同士が擦れるような重い音が響き渡る。

 おそらく今の「灯りを消す」という行為で、仕掛けが作動したのだろう。


 二つの通路の間にあった壁が上へと滑り、

第三の道が現れる。

 それは更に地下へと続く階段だった。


「やった!」


「えぇ……」


 あまりにも円滑に事が運んだため、思わず唖然としてしまった。

 剣の腕といい、先刻の閃きといい、マリナには驚かされてばかりだ。


「クロム、早く行こ!」


「あぁ」


 ご機嫌なマリナの後を追って、俺も階段を降りていく。

 元々ここは地下にある迷宮だ。そこから更に下がっていくとなると、もうどれだけ深くまで来たのか分からない。

 ふとマリナの顔が険しくなった。


「なんだか空気が変わった気がしない?」


「そうか?……俺には感じ取れないけどマリナがそう言うんなら、多分何かあるんだろうな」


 体感温度に変化は無い。視覚や嗅覚に影響を及ぼすようなものも無い。

 おそらく熟練冒険者特有の勘というものだろう。

 だが、それが如何に重要なものであるかはよく知っている。

 その第六の感覚が命を救うこともあるのだ。


 やがて長い階段にも終わりが見えてきた。

 その先は深い闇に包まれている。

 仕掛けを上手く突破したとは言え、危険が無いとは限らない。


「……もしかしたら強い魔物が潜んでるかもしれないし、慎重に行こう」


 マリナも「うん」と小さく頷く。

 軽く深呼吸をして、俺達はその暗闇に踏み込んだ。


 壁に備え付けられた照明が手前から奥へと、順番に光が灯っていく。




 暗闇が晴れ、辺りは明かりに包まれた。

 目の前に広がっていたのは円形の空間。

 石碑のあった部屋と比べて何十倍も広い。


 そして何より目を引くのは部屋の中心にある“巨大な石像”だ。

 壁や床に用いられているものと同様に、それも灰色の石材で築かれている。


 一応人型ではあるが、スレンダー・クレイドールと違ってその身体はゴツゴツとしており、分厚い岩の鎧を纏ったような姿だ。

 石像は膝をつく形で固まっている。

 

「あの石像、動きそうだよね」


「絶対動くよな、あれ」


 現冒険者と元冒険者が抱いた感想は一緒だった。

 迷宮の奥深く。意味ありげに佇む石像。

 この状況下で何も起こらない方が怪しい。




 突如、大きく地面が揺れた。

 天井から落ちてくる塵。鳴り響く地響き。

 まるで何かが目覚める鼓動のように、迷宮そのものが振動し始める。


 その意味を悟ったのか。マリナはいち早く抜剣した。


「クロム」


「あぁ、わかってる」


 彼女に続き、俺も抜剣する。


 それを待っていたかのように、目の前のそれ・・は、動き出した。

 岩のような身体がゆっくりと立ち上がる。


「来るぞ……!」


 直立した石像の高さは5メートル弱。

 所々にヒビは入っているが、身体の大部分が堅牢な装甲に覆われている。


 その名は【ゴーレム】。

 クレイドールの上位種であり、人工の魔物の中で最高峰の性能を誇る古代の兵器。


 岩の鎧を纏いし巨人は、赤く輝くその瞳で2人の敵対者を捉えた。

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