18.迷宮の守護者戦・1
「──クロム、下がってて!」
短くそう告げたマリナが飛び出す。
軽やかに地を蹴った彼女は、一直線にゴーレムの元へと疾走。
流れるように巨人の右足に渾身の一振りを繰り出す。
ガキィン!という耳障りな音が鳴り響く。
彼女の剣技を持ってしても屈強な鎧に刃を通すことは出来ず、大きく弾かれてしまう。
「っ! 硬い……!」
今の一撃で敵の強さを理解したマリナは、一度ゴーレムから距離をとった。
「ごめんクロム、あれは流石に斬れないかも!」
マリナの攻撃が通じなかった時点で戦力差は明確になった。
あの岩石の巨人は俺達じゃ手に負えないという事実を理解する。
「仕方ない、ここの攻略は諦めよう。あいつを2人で倒すのは多分無理だ。このまま階段から引き返して……」
「どうしたの?」
「階段が、無い」
自分達が降りてきた長い階段が消失し、そこには周りと同じような灰色の壁があるだけだ。
(間違いない。閉じ込められた……!)
迂闊だった。
この部屋に踏み込んだ時点で、撤退という選択肢は既に失われていたのだ。
「っ! クロム!」
彼女の警告を聞き、振り返る。
そこには動き出した巨人がいた。いつの間にか手には人よりも大きな岩石が握られており、投擲の予備動作をとっている。
「やばっ──!」
「来るよ!」
マリナと共に右側へと大きく跳ぶ。
数秒前まで自分達が立っていた場所には、巨大な岩石が着弾し、大小様々な石の欠片が飛び散った。
ひとまずゴーレムの射線から外れるべく、2人並んで壁際を走り始める。
「まずいな。逃げ道は塞がれたし、戦うにしても剣士2人じゃ相性最悪だぞ……!」
「ねぇクロム! あれってどんな魔物なの?」
「ゴーレム。クレイドールの上位種だよ。けどあいつらと違って装甲が硬いから、これまでみたいに単純な力じゃ押し切れない。俺達みたいな物理攻撃頼りの冒険者にとっては天敵みたいなヤツだ!」
巨人はその場から一歩も動かないが、一定の間隔で岩石を投げてくる。
あの大きさの物体が直撃したら間違いなく一撃で終わる。
「逃げてても埒があかないな……とりあえずやれることはやってみるか!」
足を止め、ゴーレムを見据える。
どうやら魔力で岩石を生成しているようだ。
投擲用の岩石を作り出しながら、こちらをじっと狙っている。
それが再び放たれる前に、俺は先に行動を起こした。
水銀の入った小瓶を開け放ち、形状変化の命令を与える。
「
十数本の銀の矢となったそれが一斉に放たれる。
それらは寸分違わずゴーレムの身体に命中するが、予想通りその悉くが屈強な岩の鎧に防がれた。
「くそっ……やっぱり硬い!」
水銀の入った瓶は残り4つ。
優れた魔術師ならば触媒を必要とせずに魔術を行使できるが、生憎と自分にそこまでの技術は無い。
よって手元にある瓶が無くなれば、もう魔術は使えないものと考えていい。
飛来する岩石を回避しつつ、マリナと策を練る。
「魔術の他に弱点とか無いのかな?」
「弱点自体はクレイドールと一緒だよ。体内にある核を破壊できれば倒せるはずだ。まぁそれが難しいんだけど……」
ゴーレム種はその多くが分厚い装甲に覆われているため、耐久性はクレイドールのそれを遥かに上回る。
故に物理攻撃が効き辛く、魔術等を用いて地道に装甲を削っていくがの正攻法とされているが、生憎と今ここに魔術師はいない。
「駄目だ、情報が少な過ぎる! せめてもう少し時間があれば……」
「──わかった。じゃあ私が時間を稼いで来る」
「いや無茶だ! いくらマリナでもあの巨体を一人で相手するなんて」
「避けるだけなら簡単だから大丈夫! クロムはその間に攻略法を見つけて!」
少女は剣を握り直し、床を蹴る。
自らの攻撃が通用しないと分かっていながら、その巨人へと勇敢に立ち向かう。
接近するマリナを認識したのか、ゴーレムは岩石の投擲を中断し、その逞しいを持ち上げて華奢な少女を迎え撃つ。
振り下ろされる一撃。
少女はその一瞬の動作を見て即座に反応し、身を翻す。
行き場を失った頑強な腕は床に大きな窪みを作った。
その隙を見てマリナも反撃を開始する。
「はあッ!」
繰り出される斬撃。
一太刀、一太刀が凄まじい速度で振われる。
しかしその猛攻をもってしても巨人は動じることはなく、岩の表面に薄らと跡を残すだけだった。
少女は折れる事なく、予備動作の大きいゴーレムの攻撃を回避しては追撃を与え続ける。
その姿は見事に巨人の注意を奪っていた。
ならば自分も自分の役目を果たさなければ。
彼女が稼いでくれている時間を無駄にしてはならない。
(よく見ろ、何かあるはずだ)
弱点になりそうなものは無いか。
ゴーレムの頭から指先まで必死に目を凝らす。
赤く光る目、太く逞しい手足。
所々にビビの走った岩の鎧。
「あれは……」
ふとゴーレムの脚に、銀色に輝くものを見つけた。
巨人の膝辺りには一本の矢が刺さっている。
あれは先程俺が放った魔術によるものだ。
「──そうか、全身が硬い訳じゃないんだ。関節部分なら剣でも斬れるかもしれない」
だがまだ足りない。
関節を切断したところで倒すには至らない。
手元にあるのは愛剣プルミエと水銀の瓶が4つ。
ここからあの分厚い装甲を撃ち破り、核を破壊するためには──
思考の果てに、やがて一つの策を導き出す。
「──これしかないか」
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