エピローグ 一度きりの人生
「やっぱり君は、二十年を共に過ごした私より、たった二年の付き合いの野島を取るんだね」
彼女は大きくため息をついた。喉の奥に溜まった熱をゆっくりと吐き出していくかのように。
「でも、彼ほど僕のことを理解してくれる人はいないよ。君以上にね」
「つまり、私は君に心を開いていたつもりだったのに、でも君は私には心を開いてくれてなかったってことね」
「ううん。開いていたよ。でも君は決して背中を押してはくれない。それどころか、いつも僕から挑戦する自由を奪っていくんだ」
「背中を押すのには基本的に責任が伴わないからね。でもね、それがビルの屋上だと話が別なの。ビルの屋上で背中を押したら、必ず責任が伴う。私は私の責任が伴う限り、絶対に君を死なせやしない」
「君にそんな責任を背負う資格も義務もない」
僕の言葉を聞いた彼女は、嘲笑う時のような、喉が引き
「やっぱり君は最初の時からなんっっっにも変わってないよ。別にそれが君の幸せっていうのなら、受け入れるつもりなんだよ。でもそれでいつも死んじゃうんだから世話ないよ、ほんとに」
「君は想像上の僕を勝手に殺しているだけだ。生きている僕は今ここにいるというのに」
「……どうやら私は、決して君達と同じ世界の住人にはなれないみたいだね」
彼女は孤独に打ちひしがれるように目を瞑って、顔をふっと天井へ向ける。それから目にかかった髪の毛を振り払い、僕を
その
「いいよ、もう絶対に引き留めない。何千回でも何万回でも後悔すればいい。勝手に死んじゃえばいい」
涙を隠そうともしない彼女は、それだけ言い残すと、腹立たし気な足取りで喫茶店から去っていった。
確かに、彼女の言う通り、この選択のことはこの先何度も後悔するかもしれない。でも、一度きりの人生というのはそもそもそういうものなのだ。
たった、一度きりの人生 クロロニー @mefisutoshow
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