第3話

「この学園広いですね。」

「ええ、あなたは今日は入学する前の見学会という形ですから本日は職員室に話を通すだけでいいわ。」


流石に喋る絵画や幽霊は存在しない廊下を歩いていくが魔法使いの住まう場所のメルヘンチックな感じは健在している。

何が?

といわれると置かれている花瓶の花だったり飾られている鎧だったりが喋りかけてくるのだ。


「ねえきみ、魔法学科を受講してないのに主席になったって言う普通科の生徒だよね。

 これからよろしく、もし君が魔法を使えるようになったら教えてね。

 僕のとっておきの魔法を教えてあげるよ。」


つぼみの赤い色をした花がこんなにもフレンドリーに話しかけてくるのはちょっとした感動を覚えたりする。

夜に出てきたらホラーだけど。


この分だと喋る帽子なんか出てきそう。

変な味のグミとかは勘弁だけど。


「ああいった植物は先生方生徒たちの護衛や監視の名目上設置しているモノですので先生としての役割も機能していますのよ。」


課金一万円の魔法編動画はよく覚えていないからそういった細かい仕様があるのかと思った。

半分大型アップデートみたいなものだったから辻褄合わせにこのような不思議生物が先生役として抜擢されたのかもしれない。


ゲームのアップデートって偶に矛盾が生じそうなときあるから強引な新規設定入れるのよね。

某ポケットの中にモンスターを入れるゲーム・アニメも図鑑のところにアニメで描かれていたことを取ってつけたように説明を添付している。

この乙女ゲームも結構な超大作でなんと10年にわたって続編やらアップデートやらが出てきていてサービス続いているからほんと前世でプレイしていたとはいえ凄い量だわ。


「先生、ですか。

 私、魔法がつかるようになりますか?」

「ふむ、なら魔女である学園長に聞いてみるのも良いかもしれませんね。」

「魔女?」

「学園長は魔法使い最高位である魔女の称号をお持ちですし今までの優等生にも魔法を発言させてスペシャリストです。

 元々育成に興味をお持ちのようで学園の各部の研究施設を取り仕切る歩く国家機密ですわ。」

「それ、言って大丈夫なんですか。」

「ええ、既に学園長があなたをお呼びのようですし。」


彼女が手を添え差す方向の先には日本では不吉の象徴とされ宅急便の象徴ともされる黒猫さんだ。


「かわいい!」


ネコは正義、異論は猫アレルギーの人には認める。


「よしよーしどこから来たんですか?」

「首根っこ掴んでいう言葉じゃないかと思うのですが。」


ネコを手っ取り早く捕まえるには首根っこ掴むのが一番。

懐いてくれない野良猫相手にちゅっちゅしてもこの子たちは靡かないから強引に仲良くなる方法を模索した結果お母さんになることという結論を幼少時(今世)見出した。


「にゃーん」

「にゃんにゃん。」

「学園長、お戯れはその辺りにしてください。」

「中々心得のある接し方だったしこの子とのリンクが切れそうになったからちょっと手間取っちゃったテヘペロ。」

「テヘペロの意味がわかりませんが、なんとなく学園長の年齢にはあってないように感じるお言葉に思えます。」


この子が喋っているけど電話通信みたいな感じなのか声の性質が思ったより若く聞こえる。


私は声が変わったことよりもこのネコちゃんが可愛すぎる。

首根っこを離して顎を撫でてやると気持ちよさそうに眠くなった表情をしてくる。


「あ、あああ、リンクがリングが切れるぅ。」

「学園長、気持ち悪いです。」

「ネコ撫でるのは好きにして良いから研究室に来てちょうだい。

 エリザベ…が…内してープツンー」

「みゃんにゃー。」


リンクが切れ猫に戻ってしまった。


「ネコちゃん、可愛いです。」


抱きしめてすりすりしているとネコも呼応するようにすりすりしかえしてきた。

毛並みが整っているしお風呂に入っているのかきちんと気持ちいい。


「その子、学園長の使い魔であまり人になつかない筈なんですけどね。」


エリザベス様は苦笑しながら私がネコと戯れる光景を見ていた。


「さて学園長もお呼びのようですし向かいましょうか学園長室へ。」

「はい!エリザベス様。」

「あなたに様付けされるのはあまり気分がよろしくありませんわ。

 あの殿下をより良い国として治められるようにするための同志として相性のエリーと呼んでくださいまし。」


エリザベス様は心の底からの笑顔をしていた気がする。

あって間もない相手に言うのもあれだけど乙女ゲームのエンディングのときに幼馴染と結婚したときの笑顔にとても似ていた。


「畏まりましたエリー。」


私も微笑みを浮かべながらなるべく優雅に真似て一礼する。


「学園長の研究室にはその猫についていかないとわからないので手放してあげてくださいね。」


ネコをそっと下すと道案内をするようにゆっくりと学園内を歩いている。

ネコを追いかけるのは幼少期に戻ったみたいで楽しい。


「このネコさんってやっぱり普通のネコさんとは違って知能が高いのでしょうか。」

「何でもこの世界のネコとは完全な異種族とのことらしいです。

 詳しくはこの研究室の学園長から聞いた方がよろしいでしょう。」


目の前にとても頑丈そうな扉が現れた。

少なくとも学園ラブコメディーにはふさわしくないファンタジー要素が強い金属の扉。


「にゃん♪にゃん♪」


リズムのあるマーチのような鳴き声を刻むと重みのある音を響かせて扉はゆっくりと開いた。


「ようこそ学園へ私は歓迎するわ。」


今にも離し出しそうなシワをしたウィッチハットをした魔女様は一言で表すなら童話に出てきそうな魔女といった感じ。


胸とか出るとこ出てるけど男を誘うような感じではなくて控えめな表現をしているし足とも全部ローブに身を包ませているので体のラインを控えめな感じにしている。

驚愕すべき部分はその若さだろうか。

大人の妖艶さはそのままに年齢を感じさせる雰囲気こそするものの見た目は20代そのもの。

滲み出る経験の雰囲気は隠せないのか漏れているけど草食系男子が好みそうな引っ張って教えてくれる系お姉さん。

一言で言うならど……


「あらあら、私はそんなはしたない女ではなくてよ。

 夫一筋ですからね。」

「リヤさんだまされてはいけませんよ。

 この学園長の旦那様は普人族ですがとても小さく可愛らしい人ですからね。

 あの肖像画が学園長の夫の今のお姿です。」


ガチなショタっこの肖像画が見えるけど若い頃の旦那さん的なオチですら無いのか。

ショタっこ…


「ゆ、誘拐?」

「いえ、魔法薬によって旦那様をそのお姿にしているそうです。」

「若返りの薬とは違って寿命は変わらないから学術論文としても不完全なものだけどねえ。

 旦那以外に良い検体はいないかしら。」

「学園長はマッドサイエンティストと王宮では呼ばれておりますので中々検体になってくれる人物は死罪を言い渡された者が免罪を言い渡されない限りやらないかと存じますわ。」


マッドサイエンティスト(mad scientist)とは

主にフィクションで登場する常軌(常に行うべき行動。)を逸脱した科学者のこと。

アインシュタインの言葉を借りるなら集団性の偏見を持っていない人物でわからないことを知るためなら倫理、宗教などの道徳を一切気にすることなく知ろうとする科学者。


その検体をする旦那さんも旦那さんだけどいったい何をしたのかすごく気になる。

怖いもの見たさってあるよね。

ホラー苦手だけど感染ゾンビゲームやったりとかするときみたいな好奇心が働いた。


「な、何をしたんですか?」

「簡単に言うと魔法で泥パックをしてもらったのよ。」

「ど、泥パック?」

「ああ、平民の間ではあまり知られてないわね。」


無駄に凄い技術。

そしてマッドサイエンティストってmud scientist?


「私は一部の貴族の間では大好評の美容エステを開設しているのよ。

 ただ泥魔法を使っているのよ。

 私は泥魔法を専門に使ってる魔女だから戦争とかの有事の際には重宝されるけど有事の際じゃないと何にもできない穀潰し同然。

 それで泥魔法に肌を改善させることに気が付いて美容エステを開業しているんだけどこれがあんまり評判良くないのよね。」


日本でも泥パックは有名なのに。


「泥ってあんまりいいイメージ無いのよね汚らしいって言われるし。

 旦那で試してみて絶大な人気を得ようとしたんだけどね。」

「私も学園長の研究は素晴らしいとは思いますがお母様がするなと言うものですから。」

「なら私がしてみても良いですか?」


この学園長の行う泥パックもとい美容エステは凄い効果が期待できる気がする。


「歓迎するわ。

 早速今から施術しましょう。」

「今からですか。」

「ええ今からよ。

 他にも用事があったけどそれは施術中にでも済ませられることだわ。」


これでエリザベスさんにも良い口実ができた。

今まで学園での職員室に用事があると言う名目で殿下の要求を回避していたけれどもその上位存在の学園長からお呼ばれしており実験に付き合う名目が立つ。

そして私も王子に会いに行く必要がなくなる。


全ては実験の名目でなんとなかなる。

その過程で私が肌荒れになるか綺麗になるかは賭けだけど。


「エリーさんこれで私は殿下の用事よりも優先すべきことができてしまいましたので殿下にはいけないとお伝えください。」

「ええ、殿下には伝えておくわ。学園長の補佐をすることになったと伝えれば良いかしら。

 陛下も学園長の教え子の1人だから強く言えませんしね。

 殿下のことよりも優先できることとして処理してくださるでしょう。」


「うんうん、これで互いにwin winの関係だわ。

 鼻垂れ坊主のことは任せてちょうだい。

 エリザベスも苦労しているでしょうしね。

 責任はとても大きいだろうけどきちんとアイツの手綱は握っておきなさい。

 それが嫌ならあなたが王になればいいわ。」


王になればいい。

そのことが頭から抜けていた。

この国って男女差別強いところあるし、今まで思いつきもしなかったわ。

でも殿下を鼻たれ坊主なんて言えるなんて原作では書かれていなかったけど学園長ってすごい人なんだ。


「私が王になるのも良いかもしれませんが私のように流されやすい人物を王にしてしまっては民に面目が立ちませんわ。

 それよりも殿下に旗頭となっていただいた方が国としてはよろしくて存じ上げますわ。」


え、自認してたの。

これは予想外、っていうことは乙女ゲームのヒロインは悪役令嬢の策略にそのままハマっていたかもしれない。

他の悪役令嬢にはまだ会ってないけど下手をすればこっちがコントロールされるかもしれないと思うとゾッとした。


現実とゲームは違うけどやっぱ貴族って腹黒じゃないと生きていけない世界なの。



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スライム道

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