第3話
「あ、ごめん。こっちの話だから気にしないで」
三体の魔物に取り囲まれている状態にあっても、レッドは恐れている素振りは見せない。
その様子に腹が立った魔物の一人が、言葉を発する。
「黙れ人間。貴様などこの槍で一発だ。だが待て、そうしては面白みがない。まずは、ここに来た理由を聞こうか」
あくまでも自分が生死を決める権利があると勘違いしているらしい。魔物と話し合いなどしたことがなかったから(人間の言葉を話せる魔物が少ないため)一々答える義理はないと思っていたが、上手く行けば魔王の居場所まで導いてくれるかもしれないと考えれば、仕方なく答えてやることにした。
「僕は魔王を倒しに来た」
そのとき、三体の魔物から殺気が溢れる。雑魚な人間を嘲笑う気持ちから、命知らずの愚かな人間を早急に殺そうとする気持ちに変わっていた。
それでも、レッド続ける。
「魔王の部屋を教えて欲しい。そうすれば、君たちに危害は加えないようにするから」
なるべく、怒らせないように言ったつもりだったが、無謀だったようで、次の一言で直ぐに殺しに来そうな勢いだった。
「人間の分際で調子に乗るなよ。貴様が魔王様に挑んで勝てる確率など無に等しい。例え貴様が千人いたところで勝ち目はないだろう」
「そうか。なら、試してみるか?」
ワンテンポ置いてから攻撃するあたり馬鹿だな、と思いつつ、さっと避ける。殺そうと思えば容易いが能力を隠した状態で戦うとなると、多少本気でやらないと厳しい。やはり門番なだけあって、かなり強い。ただ、それでも数の暴力アンデット軍団よりはマシだった。
物理攻撃無効があるため、リュートとレッドの攻撃がほとんど通用しなかった。それでも、ひたすら隙を見て骨のパーツを粉々に砕きまくって、何とかなった。百パーセントレベルのおかげだった。
「うーん、どうしようかな。殺してもいいんだけど、魔王に殺気を感じられて変なタイミングで現われられても困るなー」
喋りながら戦われるのが癪に障ったリーダー格の魔物が、一旦立ちどまる。同時に他二体の魔物が一斉に隙の無い攻撃を打ってくる。
どうやら、時間稼ぎのようだ。
このままあいつを放って置くのは得策ではないか、と考え力を一気に解放して叩きつけようとしたとき。魔王城の上層部(何階なのかが不明なため、そう表す)から、何者かの視線を感じた。
魔力を探るスキルを持っていないレッドには、どうすることもできない。
とりあえず、この状況を打破することだけを考えようとしたときには、リーダー格の魔物はとてつもない進化を遂げていた。
「ふん! 呑気なことだ。オレの『能力向上』のスキルを黙って見届けるとは。いや、オレの部下が強すぎてそれどころではなかったか? 多少戦いを身につけたくらいの人間が意気がるなよ」
もう話し合いで解決しそうにもない。レッドは溜息をつき、精神スキルを使う。
「あんまり使いたくないんだけど、僕の武器で殺せそうにもないし、こうするしかないか。『精神操作:病み』」
敵だしどうなろうと関係ないか、と思いつつスキルを発動させる。
「くそ! 何のスキルだ!?」
魔物共は体に異変がないか念入りに確認する。しばらくして、特にダメージは受けていないんだと考えた。
「何もない、のか? 精神攻撃だから、戦力低下させてくると思ったが、そうでもないらしいな! それともお前のスキルランクが低すぎて俺の精神耐性の方が上回ったか! どっちにしても、俺とお前の間には圧倒的な戦力差があるようだな」
「くそっ! なんで効かないんだ!!」
わざとらしく、大袈裟に呟くレッド。勇者として一年以上も鍛えてきたレッドのスキルがたかが門番程度に耐えられるわけが無い。レッドに攻撃は、常に後からやってくる。発動が遅い代わりに効果が絶大なのだ。
「安心しろ、もうすぐ精神が壊れるぞ」
「なに? ……ぐあああああああ」
苦しむ魔物を見て、心が病むことはない。これもスキルのおかげだ。なんとも無慈悲なものと思う。
一分もしないうちに、魔物は精神が不安定になり、自害した。その光景をレッドは見届け、魔王城への門をくぐる。
魔王城の中は思ったほど、邪悪に満ちているわけではなかった。てっきり、明かりなどなく、どこかにトラップがあるのかと思った。
「まぁ、自分の城が暗いのも、トラップがあるのも嫌だよな。普通に考えて」
人間たちは魔王に対して、多少なりの偏見があるのかもしれないと、レッドは考えた。それでも、魔王が人間に害を与えているのは確かだった。
「にしても、やけに静かだな。門番以外の魔物の気配が一切しないぞ。音もない」
はっきり言って、この城にはあの門番以外いないんじゃないかと思わせる雰囲気だ。
さっきの視線の相手を探すために、レッドは視線を感じた方へとかけていく。油断は禁物だのろのろと歩くのは敵の的になりやすいから良くないと言っていた。
階段を駆け上がり、目的地に着くが、そこには誰もいなかった。どういう訳かその場所は天井がなかった。
「どういうことだ。まさか気のせいだったのか? いや、あれは確かに視線を感じた。どこかに絶対に居るはずだ」
少しだけその部屋を探索していると、明らかに押したらまずいであろうボタンを見つけた。
爆発とかしないことを祈って、レッドはボタンを押した。これで魔王が出てくるかもと思ったからだ。他意はない。
ボタンを押したら、地震が起きた。いや、建物が揺れているのだろう。そして、レッドが立っていた床に魔法陣が現れた。
「!? なんだこれ。さっきはなかったよな、……っ! このボタンか!!」
魔法陣は一度発動すれば、効果を発揮し終えるまで解除不可能だ。レッドを中心として円状に床が浮遊し始める。
どうやら、飛行魔法が施されているようだ。
「うわあああ、浮いてくぞこれ。大丈夫か?」
床はレッドの声など聞かずに上へ昇っていく。
レッドは上空を見る。すると、何かが浮いているのがわかる。
五分もの間ゆっくりと昇っていく。途中下を見下ろした時に、これは見ちゃいけないやつだと思ったので見るのをやめた。
浮いているものの正体は、まさしく真の魔王城だった。
入りたくば好きに入れ、その代わり命に保証はない。と語っているように堂々と門が開いている。
レッドは慎重に歩み寄る。
「そこのもの、止まれ! 貴様に話がある!」
奥の方からそう声がした。
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