第2話

「どうしてこうなったんだ」


真夜中に冒険者ギルドに呼び出されたレッドは、急な追放を言い渡され、パーティーを追い出されてしまった。


「もうすぐで魔王退治できそうだったんだぞ!! それを、陰キャだから!? 勇者のパーティーに似合わないから!?? そんなくだらない理由で追い出すほどの絆しかなかったのか僕たちの中には!!!」


僕は夜道を彷徨いながら、この一年のことを思い返していた。


「一年前、初めてスキルというものを知った日からも、僕たちはずっと四人でやってきた。それはもう、いい思いだけじゃなかった。リュートがスキルを身につけたことによってある程度の魔物は怖いものなしになったせいで、戦う前から勝ち誇ったような態度で戦ったせいで大怪我を負って、シエラがいなかったら今頃みんな墓に埋められている。ロッドがゴーレム相手に素手で突っ込んでった時は僕がゴーレムの守備力を下げなければロッドも危なかった。そんな時でも、僕たちは魔王討伐を胸に掲げて四人でやって来た。それをこのタイミングでどうして?! 四人勇者パーティーでやろうと言ったのはリュートだったのに! こんな時にどうして僕だけ仲間外れにするんだ。こんなことなら、最初から僕を仲間にしなければよかったじゃないか!!」


静かな夜の街にレッドの嘆きが響きわたるが、気にする者は誰もいない。誰もレッドを慰めてはくれない。

レッドに再び、孤独がやってきた。もう孤独には慣れていたはずなのに、一年以上も家族以上に大切に思ってきた仲間と過ごしてきたことにより、孤独とはすっかり無縁の存在になった。


「体が見えないくらい暗くて、肩が痛くなるくらい狭くて、息が凍りそうなくらい寒くて。一人でいていいことなんて何もないのに。でも、一人になった。これはどうしようもない」


とりあえずレッドは一人になっても、孤児院にいた時のように放心状態に陥る前に、自らのスキルで精神を安定させた。


「ふぅ。これでとりあえずは一安心かな。精神系スキルに特性があってよかったー」


レッドは自分のスキルを使って、精神を安定させる。逆に不安定にすることだってできるが、かなり危険なので使っていない。


精神スキルなんて、使い方次第では国一個滅ぼせるだろってレベルで凄いスキルだった。

今では低ランクの精神スキルは安易に無効化できるポーションなどが安く売られている。流石にそんな危険なスキルを対処しないはずがない。


「別によくないんだけどな! パーティー追い出されたし、金は貯金してきたから当分は持つけど、このままひっそりと暮らすなんて御免だ。せっかく魔王を倒すためにここまで頑張ってきたのに、陰キャだから陰キャな暮らししていいよって言われてできるかぁ!」


リュートは決して陰キャな暮らしをしろだなんて言っていなかったが、レッドの頭は精神を強制的に安定化させたせいで多少ズレている。


「畜生、こうなったら俺一人で魔王城に乗り込んでやる!!!」


そして、どういう訳かレッドは一人で魔王に挑む気でいた。


•*¨*•.¸¸☆*・゚


「あなたは、っ! 勇者様ではありませんか! わたくしの耳にも貴方様の活躍は聞いております。もうすぐで念願の魔王討伐を果たせるのですよね! もしや、今から行かれるのですか?」


「ああ、うん。そうなんだ。魔王城までとは言わないから、出来るだけ近くまで乗せていってくれないかな?」


「ええ。それくらいであればお役に立ちますわ。ですが、他の勇者様はいらっしゃらないのですか? まさか、貴方お一人で立ち向かうのですか?」


「……いや、仲間たちはもう先に行ったんだ。僕は魔王軍に情報を与えすぎないように、後から加勢しに行くんだよ」


「あら、そうだったのですね。そうとは知らず、無礼をお許しください」


夜が明けてからは早速、レッドはこの辺りでは珍しい女の行商人と話をしていた。どうやら、勇者パーティーの功績はかなり世に出回っているようだ。しかし、今のレッドにその話は持ちかけないで欲しかった。


「いいんだ。わかってもらえれば、だから僕が勇者だってことと僕の行動の一切を君には黙っていて欲しい。出来る?」


「もちろん! 約束致しますわ」


レッドは感謝を告げ、荷馬車に乗り込んだ。走った方が早いのは事実だが、あまり力を人の目の付く場所で力を見せつけるのはあまり賢くない。能ある鷹は爪を隠すのだ。

本当はリュートたちに見つかりたくないだけだが、事情を知らない人たちの前ではそういう建前を作った。


魔王城へ行くまでの間、ずっと戦略を練っていた。攻撃役のリュートも盾役のロッドも支援役のシエラもいない。パーティー内でのレッドの立ち位置は、全員のサポート役、と言った感じだ。

ステータスが低い、ということにしてあるレッドはオリジナルスキルによって自らのレベルとスキルランクを調節し、リュートたちよりも少し下になるように施していた。


何故、そんなことをしたのか。答えは単純である。

一年前までは、レッドもリュートもロッドもシエラもほぼ同じレベルで、強さもそれほど違いはない。だが、勇者に与えられる初期武器によって役割が与えられる。リュートにはロングソード。ロッドには大盾。シエラにはマジックワンド。そして、レッドには武器は与えられなかった。だから、武器屋で買った短剣を使っていたのだが、スキルを覚えてからやっとレッドに与えられた能力を知った。


それは、覚えたスキルに関する情報及び、攻撃を受けたスキルを分析し自分のスキルへと変換する能力だった。そして、たまたま街を歩いていた時に数人のスキル持ちの男に襲われて攻撃を受けた。その時に、どうやら男の持つステータスを書き換えるスキルを手に入れた。


このスキルを使えば魔王と対峙した時、もしものことがあれば能力を解放させて魔王を少しは怯ませられるかもしれない。そう考えて、他の三人が寝ている時も、欠かさず鍛錬を続けてきた。

だからこそ、追い出されるなんて思ってもいなかった。


「勇者様、着きましたわ。わたくしが連れてこれるのはここまでです。これ以上先に行きますと、魔族の国境に踏み入れることになりますから」


一度、頭をリセットさせてレッドは荷馬車から降りる。


「ありがとう行商人よ。礼を言う。先の件、破ってはならぬぞ」


「ええ。承知しております。貴方様に関する情報は他言無用、でいいのですよね?」


行商人は美しい笑顔を見せる。この顔で売り込めば、その辺の男どもなら何でも買うだろう、とレッドは思った。


「ああ、ご苦労だった。気をつけて行くのだぞ」


「はい! 勇者様も、どうかお気をつけて!」


そう言って、行商人は馬を走らせる。なかなか遠い距離をレッド一人のために費やしてくれるなど、なんという気立てのいい女なのだ。

そんなことを若干頭に残しながら、魔王の城へ向かう。


しばらく歩くと、数体の悪魔が近寄ってきた。


「貴様! ここで何をしている! 人間が一体何用か!」


魔物に囲まれている中、思い出したことがあった。


「言葉遣い間違えた!!!」


思考をリセットしたせいで、言葉遣いまでもリセットさせてしまった。

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