1-4
……試合終了。結局、十九歳以下の日本代表は三十六点差で負けた。プロ相手なので、この結果は仕方ないと言えるだろう。
この試合で、青谷成真は二十五分の出場。そして、実に二十四得点を奪う。得意のスリーポイントは五本決めてみせ、FG(フィールドゴール)成功率も四〇パーセントを超す勢いだった。次代を担う若き才能は、その非凡さを周囲に見せつけることに成功した。
対して、あの少年はどうだったか。
彼は、後半からの出場だっためにプレイタイムは十五分ほど。しかしその間に、彼はなんと十八得点を記録。FG成功率は五〇パーセントを超え、スリーポイントは四本も叩き込んでいた。
バスケットボールは四十分の試合時間の間、選手の交代は何度も可能だ。が、主力選手の出場時間は、チームによって差はあれど、三十分前後になる。つまり、今回十五分しかプレイしなかったあの少年が、もし試合の最初から出ていたら……単純に二倍とは言えないが、それでも三十点以上スコアしていた可能性がある。
二十点以上得点を取ると、エースと呼ばれることもあるのがバスケットボールだ。そんな大台にのせる活躍を、十五歳の日本人の中学生が、世代別とはいえ、年上の日本代表にしてみせた。これは若き日本のホープたちには、とてつもない大きなショックを与えた。
しかし。一人だけは違う。そう、青谷成真だ。
確かに、あの少年のプレイは衝撃的だった。彼を止められなかったことは悔しすぎる。
それでも成真は、試合が終わったばかりだというのに、どこか不思議な充実感を覚えていた。
彼は、バスケットボールを始めてから今まで、同年代のライバルを求めていた。その念願の相手が、ついに自分の目の前に現れた気がしたからだ。
「おい、そこのヤツ」
成真は自分のベンチに戻る前、少年に声をかけた。少年は振り返り、成真の方を見る。
「日本語、喋れるよな」
「そりゃあ、十歳までは日本にいましたので」
「名前を、教えろ。フルネームだ」
ぶっきらぼうに言う成真に、少年は眉を顰める。年下とはいえ、成真の態度は初対面の相手にするものではない。
だが。少年は、答えた。
「……
「美和、か。覚えた。俺は青谷・フェリックス・成真。日本では高校二年だ」、
「アンタの名前なんか聞いてないよ。どうせ忘れるし」
「忘れてもかまわない。今日は、俺たちの惨敗だからな」
成真のセリフに、少年、新太郎は少し驚いた顔をした。自分の名前なんて忘れてもいいなどと、普通は言わない。
しかし。成真は、鋭い目で新太郎を睨み続ける。
次は、負けない。
美和新太郎。お前にだけは、絶対に、だ。
「次は、俺の名前を覚えてもらう。今度は、お前がこの悔しさを味わう番だ」
成真は、そう言い切った。
目の前に立つ少年は、自分よりも年下で、かつ身長も二十センチほど低い。だが、そんなことは関係なかった。
こいつとは、近い将来、再びコートの上で邂逅する。
味方かもしれない。だがおそらく、違う色のユニフォームを着ているだろう……そんな予感があった。
「……あっそ。まあ、そんなときが来れば、ね」
「来るさ。絶対に、な」
あきれたように言う新太郎に対して、成真は、はっきりと言った。
「近い将来、俺もプロになる。その舞台で、美和新太郎、お前を叩き潰す」
そう言って、成真はくるりと踵を返し、ベンチに戻っていく。
あとに残された新太郎は、ぽりぽりと頭の後ろをかきながら、ヘンなヤツ、とつぶやいた。
(……そうだ。アイツは確実に、プロになる。なら俺だって、プロになってやる)
成真は、決意した。
そう。彼の運命は、この日を境に、大きく動き出した。
**
……しかし。この練習試合以降、美和新太郎に関する続報はパタリと無くなってしまう。
日本に戻った成真も自身のことに集中していたため、美和新太郎という名前こそ忘れなかったが、彼について自ら積極的に情報を集めるようなことはしなかった。一部の関係者が美和新太郎を世代別の日本代表の合宿に呼ぼうともしたが、すべて相手側から断られていた。
こうして、美和新太郎は再び、日本バスケットボール界から姿をくらましてしまった。
──彼が再び表舞台に現れるのは、この日から、約一年後のことだった。
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