第10話 土 異章(アリディア本来ルート)
★アレンルート★
アレンとは笑顔に包まれながらも、どこか静かに、落ち着いた時を過ごしていった。
そんな中、孤児院の子供達の食事を充実させるため、二人で協力し合って孤児院の畑で育てる農作物の改良に着手した結果、従来のものよりも、遥かに育てやすく、量が取れ、栄養価の高い作物が出来上がる。
ゴーレスタ公爵家はそのことに大層喜び、すぐに自分の領地に広めた。そして、それは次第に国中に普及していくことになる。
その大きな体躯に加え、農民に混じって田を掘り起こす姿から土熊と隠れて言われることもあったアレンには、その実績によりこれまでとは比較にならないほど多数の縁談が舞い込むようになっていく。
だが、アレンはその悉くを私を理由に断る。そして、私は上位の貴族達にとって目障りだったのだろう。知らぬ間に両親を嵌められ、それの交換条件として国外への出奔を求められた。
苦渋の選択ではあったが、受け入れざるを得ず、手紙を書き残し私は国を出た。
乗合馬車に乗って国外へ向かう。何とか乗れてよかった。
国外への長距離馬車は一つしかない上、一月に一本しか出ない。
しかし、聞いていた通り本当にこの馬車に乗るのは辛い。車体が軋み、すごく揺れる。
それに、人と荷物をパンパンに載せているからスピードは出せないようで、長い間我慢しなければならないらしかった。
血を垂らし、魔力を通した不可逆の誓約文を書かせたからお父様とお母様は流石に無事だろう。
それが条件の一つでもあったから別れを言う間もなく家を出てきてしまった。
両親もアレンも心配しているだろう。だが、彼らも誓約文が絶対であることは知っている。
きっと私は大丈夫。ちゃんと外でもやっていける。ほとんど農民みたいなものだったしね。
話す人もおらず、ただ黙って蹲る。車体の軋む音が私のすすり泣く音を隠してくれた。
それから何日が経った頃、馬車が止まる。休憩だろうか。
しかし、いつもと違いたくさんの荷物が下ろされている。
乗り慣れている人はわかっているのか続々と馬車を降りていく。
どうやら、隣国に着いたようだ。
馬車を降りるとまだ朝と言える時間だった。太陽が斜めから差し込み少し眩しい。
体が痛かったので少しストレッチをしようと太陽を背に向けて伸びをする。
その時、太陽の光が何かに遮られるのを感じた。そして、目の前の私の影は何かの影が重なり覆い隠されてしまっている。
なんだろうと思い、後ろを振り向こうとした瞬間、その大きな何かは影だけでなく私をも包み込んだ。
びっくりして暴れようとするが、聞きなれた優しい声がして動きを止める。
「アリディア、会いたかった」
なぜ彼がここにいるのだろう。予想外の出来事に頭が混乱する。
「…………なぜここにいるの?」
絞り出すように声を出すと彼にそう問いかけた。
「手紙を読みました。そして、馬車の目的地に馬を走らせたんです。何とか間に合ってよかった」
正直、それはとても嬉しい。二度と会えないと思っていた人に会えたのだから。
でも、私は国には帰れない。彼もそれを知っているはずだ。だから、最後に直接会って別れを言いに来たのかもしれない。
「本当は私も貴方に直接会って別れを言いたかったの。だから、貴方に今会えてよかった。しっかり挨拶が言えるもの」
何というべきか迷う。ただ、あまり長く話していると未練が出てしまうだろう。手短に話そうと言葉を考えた。
「いえ、別れの言葉は必要ありません。一緒に国を出るつもりで来たんですから」
この人は何を言ってるのだろう。四大公爵家の嫡男がそんなことをするのは許されない。それに、あれだけの実績を上げたのだ。今後の輝かしい未来を捨てさせたくない。
「それはダメよ、アレン。貴方はこれまで正しく評価されてこなかった。貴方は知らないかもしれないけど、土熊なんて笑う人もいたのよ?せっかく日の目が当たるようになったのに」
私に拘っていてはいけない。それに彼の両親も放っておかないはずだ。
「今回は折れる気はありません。大丈夫。知っての通り畑仕事は得意なんです」
「でも、貴方のご両親は流石に貴方を連れ戻すはずよ」
「それも承諾を得てきました。かなり無理やりですが。父上と母上は私が言い出したら聞かないことを幼い頃から知っています。それに弟もいるし公爵家もなんとかなるでしょう。手紙を出す代わりにまた作物ができたら送ると約束してきたら少し嬉しがっていたくらいですよ」
確かに彼はとても頑固だ。一度言ったことは貫き通す。彼がやると言ったらそれは何があってもやるということなのだ。
「アリディア。私は前に言いましたよね。慈しみ、育て、守る、これだけならば誰にも負けないと。
私は、君を守ります。君が美しい笑顔を咲かせてくれるように。生涯をかけて」
アレンの大きな手で反対を向かされる。そして、彼はその場に跪づくと私の手にその唇を触れさせた。
慣れないことをしたと思ったのだろう。もう一度立ったとき彼は照れたように頬を掻いていた。
その顔を見て私はニヤリとする。そして、こちらから近づくと、背を伸ばしてさっきとは別の場所に唇を触れさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます