第9話 風 異章(アリディア本来ルート)

★ウィリアムルート★


ウィリアムとはお互いの時間を尊重し合いながら過ごし、関係を深めていった。




そんな中、アリディアに留学の話が出る。留学先は全ての本の集まる場所と呼ばれる学術都市グランディア。海を渡った先にある都市は彼女の夢の場所であった。


ウィリアムにしばしの別れを告げ、旅立ったアリディアだったが、その途中乗った船が難破してしまう。




そして、それを聞き必死に探すウィリアム。家の力を最大限使い、長い時間をかけた末見つけ出すことには成功するも、彼女は記憶を失っていた。


















 この家に来て一月ほど、ようやく使用人に世話されるのにも慣れてきた。




 私は、ここに来る前、海に流されているのを偶然見つけて助けてくれた老夫婦を手伝い、生活していた。






 そして、畑を耕していた時、突如たくさんの人がやってきて、気づいたらここに運ばれていたのだ。






 私をここに連れてきたのは大貴族のウィリアム様。彼はとても優しくしてくれる。




 頻繁に様子を見に来てくれるし、どんな用事があっても必ず朝食は一緒に食べてくれる。








 使用人に聞いたが、彼はとても忙しいらしい。私を探すためにかなり無茶をしてきたようで、その穴埋めに奔走しているようだ。






 記憶を失う前の私が、どんな人だったかはあまり知らない。ウィリアム様も教えてくれないし、使用人も口止めされているようで濁されてしまった。


 自分に家族がいるのかすらも今の私は知らないのだ。






 そうだとしても、今これだけ優しくしてくれているということは、彼にとって記憶を失う前の私がそれだけ大事な人だったということだろう。






 でも、私は彼のことを覚えていない。積み重ねてきた日々は私の中に何も残っていない。




 彼の愛した人は私ではない、記憶を失う前の私なのだ。






 これ以上、迷惑は掛けられない。我がもの顔でこの幸せを享受できるほど私の神経は図太くないみたいだ。




 だから、この家を出ようと思った。言うなら早い方がいい。朝食まではまだ少しある。彼を探そう。








 使用人に聞いたが、彼はいつも誰にも場所を知らせないらしくわからなかった。




 書斎を始め、いそうなところも探したがいない。




 家の中で探すところは無くなり、外に出て探していると、微かに音がすることに気づいた。






 どうやら、何か楽器の音のようだ。その音を追いかけていくとその先には木に腰かける彼がいた。








 その光景を見た瞬間、頭にズキッとした痛みが走り、脳裏に遠い日の記憶が蘇った。




 何度もこの光景を見た。思い出深い記憶の多くはこの音と共にあった。










「ウィリアム………………」




 その声に彼がこちらに気づく。そして、驚いた顔をして声を出す。




「アリディア、君、記憶が戻ったのかい?」






 まだ少し、混乱はある。だが、私が誰で、彼とどんな日々を過ごして来たかはしっかりと思い出した。






「そうみたい。だいぶ迷惑をかけちゃったみたいね」






 かなり無茶をしたのだろう。彼はあまり家の手伝いをすることは無かった。でも、今は毎日それを手伝っている。貸し借りを嫌う彼が無視できないほどに、実家の力を使ったのだろう。






「そうだね。かなり無茶をしたよ。君のためにね」






「ありがとう。でも、ちゃんと私も貴方に借りを返すわ。ひとまず、家に帰って親にも相談してみるわね」






 うちは貧乏だしできることは少ないだろう。だが、多少でもなにかできるようならした方がいい。






「それはダメだね。許さない」






 家に帰ってからのことを考えていると、彼から思いもよらない答えが返ってきた。なぜだろう。私達はそれぞれお互いの考えを強く否定することはしてこなかった。


 その時々で合うなら合う、合わないなら合わないでそれぞれやってきたのに。






「何故ダメなの?」






 それを問うと彼は木から降り、こちらに歩いてくる。






「最近考えが少し変わったんだ。僕は自分のことは自分で決める。何にも縛られずに。それは今も全く変わらない」




 


 彼が私の目の前に立つ。そして、絡みつくようにその手に抱きしめられた。






「でも、君を自由にはしてあげられない。君はもう僕の一部なんだ。また失うわけにはいかない。そして、ここならずっとそばにおける。最近は毎日機嫌よく過ごせていたくらいなんだよ?」






 なんとか彼の腕から顔だけ出すとその目を見つめる。




 あまり強い意志を見せることの無い彼の瞳に、今はとても大きな想いが宿っているように見えた。






「君も知ってるだろ?僕はね、やる時は徹底的にやるんだ。だから、覚悟してね。もう君を絶対に手放すつもりは無いから」






 そう言うと、彼の顔が私に近づく。そしてすぐに、影は一つに重なった。

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