第2話 風の章

 あのイジメを止めたイベントから半月ほどが経つ。




 今、何故か私はたくさんの女生徒の相談役みたいなことをさせられている。




 最初はあの場にいた数人が頑張ったことや、困ったことを報告しに来るくらいだった。




 まあ、これくらいならいいかと対応していただけなのに、その内次から次へと新しい顔が増え、気づいたら全女生徒のまとめ役みたいなポジションになっていた。




 ○○が△△をイジメているから何とかして欲しい。




 ○○が△△と浮気しているから何とかして欲しい。




 絵画コンクールで賞を取ったので是非見て欲しい




 珍しい物が手に入ったので是非贈呈したい。






 いや、私に言われても困るし、とは思いながらも適当に処理していただけなのに。




 流石に忙しいから全部は無理と伝えると、仕分け人のような役職の人が置かれたらしく、整理されたものが上がってくる。






 この形で回り始めてしまった以上、仕方ないから対応はしているものの、なぜこうなったのかを探ると、やはりあの時のことが原因だったようだ。








 私が学院内のイジメを全て許さないというように伝わり、それが移り変わってルールを決めるところとなり、そしてもめ事処理も足されていき、現在のように学院に関わる全てのことが報告されるようになっていったらしい。






 なんだこれは、誰か何とかしてくれ。放り投げたいがその多くは慕ってくれているようでどうにも心が痛む。






 恐らく、アリアちゃんの尾行に支障が出ていればすぐ投げていただろうが、彼女は手伝いを申し出てくれ、今はあのイジメていた子達とアリアちゃんが事務役として案件を処理している。




 しかも、誰が許可を出したのか空いた部屋を丸々占有するような形で。






 だが、これでは王子との憩いの時間が無くなってしまう。






 それはまずいと考えた私は、王子をこのメンバーに入れるという苦肉の策を考え、現在彼と面会の予定を立て相談していた。






「学院の生徒に関する事項の管理?」






「はい。どうやら、生徒たち個人のみでは解決しない問題が大量にあるようで。


 学院の上とも話し合ったのですが、貴族の力関係に介入ことができずに手を出しかねていたそうです。どうか、お力をお貸し願えないでしょうか」






 王子は少し考えるそぶりを見せると、いつもの笑顔で頷いた。






「そういうことなら是非やろう。しかし、後の禍根を残さないためにも他の公爵家にも話をとおしておかなければいかないな」






 やはり来たか。王子に話す前に、そのことについては考えていた。






 それらを無視して学園のことを一手に決めて行けば各家の関係悪化にも繋がるだろう。




 当然、派閥も有るためそれぞれ上に立つ四公爵家が知らないことには従えないとも思うし。






 だが、逆に考えると王家と全公爵家の公認組織となればほぼ全てに干渉できるので極めてやりやすくなる。






 一つ問題があるとすれば、せっかく他の攻略対象とのイベントを潰そうとしているのに一緒の時間を作られるのは困るのだ。




 王子が頼めば断りづらいだろう。そして、他の貴族では頼むのに格が足りない。






 これは私の方で処理するのが一番いい。


 公認するが、実務は手伝わない的な方向に上手く調整していくしかないなと考えていた。






「はい。そうですね。では、私がそれに対応しますので王子は代わりに事務処理の子達に指示を出してもらってよいでしょうか?」






「いや、私が頼んだ方が早いのではないか?私がそちらをやろう」






 わかっている。貴方が行った方が早い。だが、そんなことよりも自分の愛を見つけて欲しいのだ。私のためにも。






「それはわかります。ですが、王家の頼みと言えば内心嫌でも協力せざるを得ないでしょう。


 それでは続かない可能性もあります。ここは対等な立場で話の出来る私が行かねばなりません」






「……そうか、わかった。揉めるようなら教えてくれ。その時は改めて私から話そう」






 よし!これで何とか最悪の事態は避けられる。目標は王子のみ実務を手伝い、それ以外は公認だけ貰えること。




 最悪なのは全員集まってしまい、アリアちゃんと接点を持ってしまうこと。できる限りの敵を排除するしかない。






「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」






「ああ。君も頑張ってくれ」










 王子の部屋を退室していく順番を考える。




 まず最初は一番険悪な関係のフレイで実績を作ろうかな。




 そう思って彼を探す。






 どうやら魔法の練習場にいるようなのでそちらに向かうと、火の魔法を連続で放つ彼がいた。








「御機嫌よう」






「あ?お前はコーネリア・ディ・ギリアリア!俺に何の用だ?」






 相変わらずの喧嘩腰だ。公認は王子の意向をちらつかせればいけるだろう。


 そして、仲の悪い私と同じ場にいることを彼が許容するはずは無い。これは楽勝ね。






 公認を得たいこと、王子は既に協力していること、実務はこちらで対応するので時間を奪うわけでは無いことを彼に説明していく。






「なるほど、まあいいぜ。家の傘下の貴族共にも話を通しておいてやる」




「ありがとう!それは本当に助かるわ。じゃあ、邪魔しても悪いしこれで失礼するわね」






 完璧だ。勢いの付いたまま次を探そう。






「いや、ちょっと待て!」




「なに?」






 なんだろう?他に話があるのだろうか。






「あー。お前は事務とやらをやりにいくのか?」




「?ええ。そのつもりではあるけど」




「そうか、わかった。もういい。さっさといけ」






 彼は手で追い払うようにしながらこっちにそう言ってきた。なんなんだこいつ。


 まあいいや。次だ次。早く終わらせて王子とアリアちゃんの空気感を味わいに行こう。












 飄々系キャラのウィリアムは誰も場所を知らなかったので温厚系キャラのアレンを探す。




 彼は温室にいるとわかったのでそちらに向かうと、大柄な男性がそこにいた。




 アレンだ。ゲームだとあんまりわからなかったけどかなりデカいな。




 そうじっと見ていると彼が視線に気づいたようで近づいてくる。








「これはこれはコーネリア嬢、何か御用ですか?」






 その巨体に似合わず彼は優しい声色で問いかける。






「ええ。少し話が合って。少しだけお時間よろしいかしら」




「はい、大丈夫ですよ。立ち話も何ですし、そこの椅子にお座りください」






 彼は椅子を引いて紳士的に対応してくれる。




 そして、二人とも席に着くのを確認すると私は話し始めた。内容はフレイの時と全く同じだ。








「なるほど。それはいいことですね。是非ご協力いたしましょう」




「ありがとう。でも、事務はこちらでやるから大丈夫よ。この温室も管理が大変でしょう?」




「いえいえ。そちらも協力いたします。ずっと見ている必要もありませんので」






 雲行きが怪しくなってきた。彼は男に二言は無い的な考えを持ち、少し頑固な面があったはず。






「いや、でも」




「大丈夫です。こう見えても実は事務仕事は得意なんです」




「……わかったわ。よろしくね」






 これは何を言っても無駄な気がする。彼の中では既に決定事項なのだろう。






「はい。精一杯頑張ります」














 彼は明日から手伝うと私に伝え、さわやかな笑顔で作業に戻っていった。




 一勝一敗か。まあいい。アレンは頑固だが別に押しが強いわけでは無い。他の二人に比べればまだ扱いやすいだろう。














 




 しかし、最後の一人、ウィリアムが見つかる気配が無い。誰も行き先を知らないし。




 学院内を一周するくらい探したが見つからない。




 流石に歩き疲れて休んでいると突如上から声がかかる。






「ギリアリア家のご令嬢が僕を探していると聞いたよ。何の用?」






 なんだ?と思って見上げると木に腰かけたウィリアムがいた。なんでそんなところにいるのかは全く理解できないが、都合がいいしこのままいくか。






「よかったわ、見つかって。少し話があるのだけどいいかしら?」




「なに?」






 一通り説明する。






「ふーん。面倒くさいことをしているんだね」




「そうね。私もそう思うわ」






 私がそう言うと不思議そうな顔で彼はこちらを見る。






「なら止めちゃえばいいのに。どうしてそんなことやってるわけ?」




「なんでかしら。色々ごちゃまぜになっててよくわからないわ」






 苦肉の策で王子とアリアちゃんの時間を作ったが、それは本来の目的でない。




 義務感とは違う。達成感、充実感、楽しさ、それぞれ名前を当てはめていくがあまりピンとくるものが無い。




 本当になんでやってるんだろ。けど、別に嫌なわけでもないのよね。








「よくわからないな。王子に言われたからとか?」






「いえ。別にそうでもないわね。というか嫌になったら私は誰が何と言おうとも止めるし、やりたいなら誰が何と言おうともやると思うのよね。まあ、どっちにしろまだやってるってことはそれが自分の意志ってことね」






「君、変わってるね。あんまり話したことなかったけど」




「そう?別にどっちでもいいわ。それに貴方も大概よ」






 少なくともこいつにだけは言われたくない。木に登る貴族なんて他にいないだろう。






「そうかもね。どうでもいいけど。うーん、まあいいよ。協力してあげても」






 気分屋な彼には断れるかもと思っていたが、どうやら何とかなったようだ。




 


「ありがとう。自分の時間を奪われたくないでしょ?名前だけでいいわ」




「そうだね。でも、最近暇だしたまに遊びに行こうかな。別に行くだけでもいいんでしょ?」






 どういうつもりだろうか。まあ、別に手伝ってくれなくてもいいし、ここで断ってそれならやっぱり協力しないと言われても面倒くさい。






「ええ。それでもいいわよ。好きにしてくれていいわ、邪魔しなければ何も言わないし」




「そうするよ。いつも通りね」






 本当に捉えどころのない人だな。何を考えているかよくわからない






「けど、君は不思議だね。面倒くさいことを引き受けているはずなのに何の気負いもない。むしろ自由に見えるよ」






 そうなのか?まあ、正直自分の目的は最初から最後まで一緒だし他は最悪どうなってもいいかと考えているからかもしれない。




 婚約拒否後の自分の進退すらも別によくて、あのシーンが見れれば悔いなく生きて行けるだろう。






「そう?あまり分からないけど、自分勝手なのはそうかも。とりあえず、協力してくれて助かったわ。それじゃあこれで行くわね」






 私がそう言うと、彼は無言で手を振る。




 すぐに彼の姿は見えなくなる。そして、そのまま歩いていると遠くから微かにハーモニカの音が聞こえてきた。






 恐らく、あれはウィリアムが機嫌がいいときに吹くものだろう。ゲームでもイベントによって流れることがあった。


 少し気になる。何かいいことでもあったのだろうか。




 別に戻ってまで聞きにいこうとまでは思わないが。








 とりあえず、これで全員に話し終わった。




 結果は一勝、一敗、一引き分けくらいか。よくもないが、悪くない結果かな。




 そう思ってみんなのいる部屋に戻った。


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