第3話 間章
翌日、どうやら私は失敗したらしい。それもこれ以上ないほどの失敗を。
あまりの事態に打開策が浮かばない。
とりあえず、現実逃避も兼ねて少し前まで振り返ることにした。
◆
全公爵家に公認を貰った翌日、私は少しだけ策を弄することにした。
王子とアリアちゃんだけの空間を少しの間作れるよう、他の子達にいろいろと頼みごとを差配し遅れて集まるように調整したのだ。
そして、私も少し遅れることを伝え、二人っきりの時間を三十分程度稼ぐことに成功した。
昨日、この状態を最大限活かすためにいろいろと考えた。
そして、相談事は別の場所で受けれるように部屋を手配し、事務室は完全に独立させた。
加えて、今日は実験的にずらしで出勤されるように調整した。
今後は、シフト制みたいなのを導入して私がうまく調整して行けば図書館とは違う完全に二人きりの空間を演出できるのではないかという考えに達したのだ。
これはありかもしれない。
他の子達に頼んだ仕事を考えるとまだ二人しかいないはずだ、と思いつつこれ以上は不自然になりそうなので事務室のドアを開けた。
そこには四人の人がいる。
構成は女一人、男三人。
アレンは当然いない。私が仕事を頼んだから。
だが、なぜ他の二人はここにいるのだろう。王子とアリアちゃんが入った後、万が一ウィリアムが来ることに備えて扉にもこっそりクローズの札を付けておいた。普通なら入らないだろう。
頭の理解が追い付かない。
◆
現実逃避をしていても仕方が無い。とりあえず、理由を聞いてみよう。
「…………二人はなぜここに?特にフレイ」
「ふん、俺の勝手だろう。敵情視察のようなものだ。戦は奇襲が有効だからな」
うんうん、奇襲は有効だよね。意味がわからん。次だ次。
「ウィリアムは?扉の前に看板がなかったかしら?」
「いや、見てないけど?窓から入って来たし」
うんうん、窓からかーここは二階だけどね。意味が分からん。
どっちも自由過ぎるわ!これじゃ私の作戦が台無しよ。
しかも、王子とアリアちゃんはあまり気にしていないようで黙々と事務を進めていた。
あかん。完全に四面楚歌だわ。私に味方はいないのだろうか。
「おい、何を突っ立っている。お前は仕事をしないのか。早く座れ」
フレイがこちらを見て言ってくる。
彼はなぜ私の席の横に座っているのだろう。私の席札が目に入らないのだろうか。貴方、私のこと嫌いなんじゃないの。
「あー。そこの横、私の席だけどいいの?」
横で不機嫌でいられても困るので、どけよと言う意味も込めてそう伝える。
「かまわん。敵の手の内を知るのも必要だ」
この人は何と戦っているのだろうと思いつつ席に座る。
「君も大変だねー」
そして、後ろからウィリアムの呟くような声が聞こえた。いや、貴方のせいでもあるんだけど。
ちなみに、席順としては、王子に同意を貰ったうえで私が奥に一人で座りその右前に王子、その隣にアリアちゃん、事務の子達と続くように席が配置されている。
そして、今は私の左前にフレイが座り、ウィリアムは私の席の後ろにある扉から出た先にあるテラスの手すりに腰かけている。
謎のメンツで仕事を片付けていると(うち二人は何もしていないが)、だんだんと人が集まってくる。
こんなことなら時間をずらさないで普通にやればよかったと後悔するが、完全に後の祭りだった。
◆
それから半月ほどが経ち、フレイとウィリアムも毎日とは言わないが頻繁にここを訪れていた。逆にアレンは週二度くらいは休みを入れているので、彼よりよく来るくらいだった。
相変わらず何のためにここにきているのかわからない。仕事もほとんど手伝わないし。
そして、いつしかこの組織にも名前が付いたようで、誰が言い出したかはわからないが、今は五色の生徒会と呼ばれているらしい。
まあ、私は別に呼び名自体はこだわりが無いのでそれで認可も出したが。
とにかく、組織はある程度回りはじめ、王子とアリアちゃんの仲もいい感じだ。
それに、私がアリアちゃんによく話しかけるからか、前にイジメていた子達もだんだんと彼女と話すようになってきたようだった。
後で聞いた話によると、完全に和解は終わっており、アリアちゃんの性格に関する誤解もしっかり解消されたらしい。
時たま聞こえる笑い声にええなーと孫を見るような心持で嬉しくなる。
そして、テストまで残り一か月を切ったある日、アリアちゃんから相談があった。
彼女とは以前に比べて格段に仲良くなったので、最近ではいろいろなことを話してくれるようになっていた。
どうやら、昨日孤児院の院長先生が腰を痛めてしまったようで手伝いが必要らしい。
これまでも彼女は週一回くらいのペースで手伝いに行っていたが、しばらくの間その頻度を上げたいらしく、その間生徒会の仕事を休みたいらしい。
生徒会は問題ない。それよりも大事なことがある。
嫌な予感がして聞いてみることにした。確か、孤児院の手伝いはアレンの最初のイベントにあったはず。
「それってもしかしてアレンも関係ある?」
そう言うとアリアちゃんはびっくりしたような顔をする。
「知ってたんですか?私は昨日まで彼が孤児院を手伝ってると知らなかったんですが。
今までは違う日にそれぞれ手伝いに行っていたみたいですね。アレンさんは生徒会の仕事をする中でほんの少し前に孤児院を知ったみたいで」
既に接点ができようとしている。これは危険だ。監視する必要がある。
「もしかしてだけど、院長先生が倒れたなら手伝う日が被るってことよね?」
「そうなんです。二人も抜けるのは申し訳ないんですが」
いや、それは問題ない。業務は効率化しているし、人員も増やしたので既に休みを取れるような体制になってきている。
ずっと働き続けると嫌になるだろうし、生徒会がボランティアである以上余裕が必要だと最初から思っていたので、むしろ休んでほしい。
だが、これはまずい。アレンルートが始まってしまう可能性がある。
何が何でも阻止したいが、正直これを無理に止めるとせっかく仲良くなった彼女との関係にひびが入りかねない。それはどうしても嫌だ。
「許可は出すから、少しだけ待って貰える?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
◆
自分勝手とは思いつつ。私は王子にお願い事をすることにした。
「しばらく席を空けたい?どうしてだ?」
アリアちゃんを手伝いたいことを伝える。もちろん、ルート阻止のことは全く言わないが。
「なるほどな、いいだろう。君のおかげで組織もだいぶ形が整ってきた。それに、これまで誰よりも真面目にやってきたアリディアの頼みだ。助けてあげたい気持ちはわかる」
自分勝手な二人とは違って頼りになり過ぎて涙が出そう。それに、アリアちゃんのことをちゃんと見ているところが何よりもポイント高い。グッジョブ!
「だが、人を助けるのというのはなんとも君らしいな。不在の間は全て任せてくれていい」
いや、なんか変なイメージ持たれてるけど違いますから。とりあえず、害は無いので聞き流しておくけど。
何とかなった。あとは、効果は無いかもしれないけど二人にも力になってくれるよう頼んどくか。
◆
「なに?この俺に頼み事だと?」
フレイはいつもの調子でこちらを威圧してくる。まあ、特に怖さを感じたことは無いが。
「ええ。私と貴方の関係を思えば協力してくれないとは思うけど。
少しの間、私は生徒会を不在にするわ。だから、その間にできる範囲でいいの。クラウス殿下の手伝いをしてくれないかしら」
無言で腕を組むフレイ。やっぱり無理だったみたいだ。
「…………なぜ俺に頼む」
無駄だと思うものの頼む理由はいちおうある。フレイは本当に稀にしか手伝わないが、その能力は極めて高い。テストで頭が良いのは知っていたが、そのせいか、何事も即断即決で仕事が早い。
普段やっていないはずの仕事もだいたい片手間で仕上げることができるほどだ。
「うーん。あえて言うなら、その腕を見込んでってとこかな」
「…………いいだろう。できる範囲で手伝ってやる。だが、これは借りだぞ」
まじか。どこまでやってくるかわからないが、少しやってくれるだけでも本当に助かる。
王子は快諾してくれたが、正直私とアリアちゃんの抜ける穴はとても大きいはずだ。
「ありがとう!大丈夫。私は借りはしっかり返す主義だから」
「そうか。ならいい」
そう言うと、彼は珍しく書類を手に取り作業を始めた。
◆
「僕に頼み事?聞くだけ聞いてあげてもいいよ」
ウィリアムは以前からテラスにパラソルと椅子を置いており、そこに横になりながら目線もむけずにそう言った。
「ありがとう。少しの間、私は生徒会を不在にするわ。
だから、その間にできる範囲でいいの。クラウス殿下の手伝いをしてくれないかしら」
相変わらず目線を向けないウィリアム。フレイの奇跡が起きたからこっちもとは思ったけど流石にそううまくはいかないか。
「…………それって命令?」
「いいえ。あくまで決めるのは貴方よ。私は貴方がどんな決断をしようと文句を言うつもりは無いわ。最初に好きにしていいって言ったしね」
「そっか。そうだったね」
少し沈黙が続く。諦めて話を終えようとした時、彼が再び口を開いた。
「君は僕に手伝って欲しいの?」
「そうね。するかどうかは貴方の自由だけど、私は手伝って欲しい。なんだかんだ、貴方やるときはしっかりやるしね」
彼はとても丁寧に仕事をする。しかも、独創的な考えに至ることも多く、時たま王子すらも手放しで称賛するような答えを出すことがある。
「…………そっか。いいよ、手伝ってあげる。飽きるまではね」
自由人の二人が揃って手伝ってくれるとか本当に奇跡だ。これで心配は完全に無い。
憂いなくアレンルートを阻止に行ける。
「ありがとう!嫌になったらやめてくれていいわ。だけど中途半端で止めるのだけはやめてね。貴方のことだからあり得ないと思うけど」
「ああ。あり得ない、僕はやる時は徹底的にやるし、やらない時は徹底的にやらないんだ」
そう言うと、彼はこちらに目を向け不敵に笑った。
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