第九章 お膳立てからの、振り絞った勇気④

 今日、重音から映画に誘われちゃった。


「やった……っ!」


 小さくガッツポーズをしたところで、ここがまだ外であることを思い出して、私は素早く手を引っ込めた。幸いにも周りに人はいなかったみたいで、私は安堵の溜息を洩らしたり。


「向こうから誘ってきたということは、そういうことなのかな……?」


 一緒に映画を観るだけなら、私である必要はない。

 でも、重音は私を誘った、誘ってくれた。

 つまり、私と仲良くなりたい、ってこと……?


「これってデート、だよね……デート……重音とデート……」


 デートなんだから、映画を観るだけじゃ終わらないはず。一緒にご飯を食べたり、一緒に街を歩いたり……恋人みたいに、指を絡めて歩いちゃったり……。


 ……少し妄想が先に進みすぎちゃった。

 デートだって思った途端、心が浮つき始めちゃってる。

 しょうがないよ。だって、重音から初めてデートに誘われちゃったんだから。


「デートだと思ってるの、私だけかもしれないけど」


 それでもいい。

 重音と二人でお出かけできるというだけで、私はすごく幸せだから。

 それに、雰囲気がよかったら、この想いを伝えられるかもしれないし。


「映画、楽しみだな……」


 ついつい足取りが軽くなる。周りに人がいないから、スキップまでしちゃってる。


「新しい服、買っておかないと」


 せっかくのデートなんだから、少しぐらい奮発しよう。

 重音には、一番かわいい私を見てもらいたいから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る