第七章 作りすぎた夕飯、隠しきれない秘密⑤

「重音は大きな胸が好きなんだ……」


 帰り際に重音から渡されたクッキーを齧りながら、私はベッドの上でごろごろ転がる。謝罪の心を込めておりますのでどうかこれで許してください、って重音は言っていたけれど、彼の中で私はお菓子で買収できる女だと思われているのかも。ちょっと心外。


「私もそんなに小さくはないんだけどな」


 パジャマ越しに自分の胸を触ってみる。同年代の女子の中では大きい方、なはず。クラスの女子と自分のものを比べたことはないから、他の人のサイズなんて分からないけど。


「大きいと言えば、佐々木先生も大きいよね……」


 胸も大きくて、足も長くて、おまけに身長も高い。まさにモデルのような理想体型。あの人は教師じゃなくてモデルをしていた方がいいんじゃないかって思っちゃう。


 佐々木先生と比べられたら、私に勝てるところなんてない。ううん、形なら私の方に軍配が……でも、先生の方が大きいし……むぅぅぅ。


「もっと胸を強調した服を着る、とか……?」


 大胆な格好をした自分を想像してみる。……似合わない自信しかない。ああいうのは小森さんみたいな明るい人がするから似合うのであって、私みたいな自分に自信がない人が着るようなものじゃないんだ。


「にしても、重音もああいう本、持ってるんだ……」


 重音も男の人だから、えっちなことに興味があるのは当然……だと思う。

 でも、重音のそういう一面を今まで見たことがなかったから、少し驚いちゃった。


「私がいるのに……」


 写真だろうと絵だろうと、私以外の女性に重音の興味がいくのは嫌だ。重音には私だけを見ていてほしい。たとえそれが、えっちな視線だったとしても、重音には、他の女性を見ていてほしくない。


 こういう時、他の女の子はどうしてるんだろう。恋人でもない、ただ片想いしているだけの男の子に、自分以外の人を見てほしくない時。

 えっちな本を一冊も持たないで、なんて、ただの幼馴染みの立場じゃ言えないし。


「そもそも、重すぎるよ……他人の所有物に口を挟むなんて……」


 クッキーを箱に戻して、枕に顔を埋める。

 重音のせいで変な悩みが増えてしまった。こんなの、クッキーひと箱じゃ足りないよ。


「うぅぅ……もっと露出とか増やした方がいいのかな……」


 ベッドの上をごろごろ転がって、枕に向かってむーむー唸って。

 結局その日は、一睡もできなかった。

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