第七章 作りすぎた夕飯、隠しきれない秘密①

「ふわぁ……今日も疲れた……」


 授業が終わり、背伸び交じりに欠伸を零す放課後。

 最近暖かくなってきたせいか、夕方頃になると眠気が襲うようになってきた。そろそろカフェイン配合のガムでも用意したほうがいいのだろうか。買うなら量の多い缶タイプにあるんだろうけど、あれって結構高いんだよな……。


 ガムの値段を調べるためにスマホを手に取り、検索エンジンを開く。んー、やっぱりそこそこ高いな。もう少し安価だったら買ってもよかったんだけど……。


「何見てるの?」


「んー?」


 テーブル向かいから枝折が身を乗り出し、画面を覗き込んできた。彼女が見やすいように俺はスマホを傾ける。


「眠気覚まし用のガムでも買おうかなって。最近、昼過ぎぐらいになるとめちゃくちゃ眠くなるからさ」


「コーヒーじゃダメなの?」


「カフェイン摂り過ぎになっちゃうじゃん」


「そのガム、カフェイン入りって書いてあるけど……」


「最後には吐き出すからセーフセーフ」


「そういう問題じゃないような……」


 何言ってんだこいつ、と言わんばかりに枝折は眉を顰める。こういうのは実数値ではなく気分の問題なのだ。大雑把と思わないで欲しい。


「まぁ、一先ずは保留かな。授業中に眠気が耐えられなくなってきたら導入するよ」


 スマホの画面を消し、再び欠伸を一つ。

 すると、枝折がいきなりその場で立ち上がった。


「冷蔵庫で冷やしてるお茶、取ってくるね」


「おうー」


 そういえば、枝折が持ち込んだお茶を冷やすために冷蔵庫を貸してるんだった。


「…………(そわそわ)」


 キッチンから戻ってきた枝折はテーブルの上にお茶を置き、そして何故かそわそわし始めた。


「どうしたんだ?」


「重音。甘い物、嫌いじゃなかったよね?」


「別に嫌いじゃねえけど……何で?」


「実は……」


どうしたのかと眺めていると、枝折は背中から白い箱を取り出した。


「なんだそれ」


「ケーキ。重音と一緒に食べようと思って、買ってきてた」


 朝、ここに来た時になんかケーキっぽい箱を持ってるなとは思ってたけど、まさか俺の分まで用意されていたとは。


「一緒に食べたい。……ダメ?」


「ダメじゃない」


 幼馴染みの上目遣いには勝てない俺なのであった。


「ケーキかぁ。でも、そのまま食うのももったいねえよな。紅茶でも淹れるか」


「じゃあ、私はお皿とフォークを用意する」


「ほいほい」


 キッチンに移動し、紅茶のホットを準備する。せっかくだから少し高めの茶葉を使ってみようか。こういう時じゃないと使わないだろうし。なんか普通に飲もうとするともったいなく感じちまうんだよな。


「これでよし、と……」


 紅茶を二人分淹れ、ミルクや砂糖なども準備し、居間へと運ぶ。そこでは枝折がケーキを皿に盛りつけた状態で俺を待っていた。


「ほれ、紅茶淹れてきたぞ」


「ん、ありがとう」


 テーブルの上にカップを置き、枝折の向かいに腰を下ろす。

 枝折が買ったというケーキは全部で二つ。一つはイチゴの乗ったショートケーキで、もう一つはブドウやキウイなどの多種多様な果物が混ぜ込まれたフルーツケーキだった。


「重音はどっちがいい?」


「んー、そうだなぁ」


 個人的には、ケーキの王様であるショートケーキが食べたい。食べたいのだが……。


「(キラキラキラ)」


 子どものような綺麗な瞳でショートケーキを見つめる枝折を前に、そんな選択など誰ができようものか。

 最近やけにわかりやすさが増してきている幼馴染みに肩を竦めつつ、フルーツケーキの乗った皿を自分の方へと寄せる。


「俺はこっちにするよ。キウイ好きだし」


「ショートケーキじゃなくてよかったの?」


「確かに気にはなるけど、俺よりもショートケーキを食べたくてしょうがなさそうな奴がいるからな」


「っ」


 自分の行動に気づいていなかったのか、俺に指摘された枝折は恥ずかしそうに俯いた。

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