第五章 騒がしいクラスメイトは、ピザを片手にやってきた④

 そして夕方。

 ついに枝折が家に帰る時間がやってきた。


「お世話になりました」


 昨日の服を身に着けた枝折が、玄関先でお辞儀をする。

 割と濃い時間を過ごしたせいか、あっという間に一日が過ぎていった気がしてしまう。


「結局、服は洗濯してやれなかったな。すまん」


「い、いい。自分の服ぐらい、自分で洗えるから」


「そっか」


 枝折がそう言うなら、何も問題ないのだろう。気を遣うだけ損というものだ。


「お泊り、凄く楽しかった」


「俺は大変だったけどな」


「重音は本当に素直じゃない……」


「ほっとけ」


 彼女の前だとどうしても素直になれない。なんというか、本当のことを言おうとすると背中がくすぐったくなる。


「また、泊まってもいい?」


「……考えておく」


「ん、楽しみにしてる」


 枝折は荷物を抱え直し、にこりと笑う。


「お邪魔しました。また、授業日に」


「おう」


 もう何度目かもわからない見送り。枝折も慣れてきたのか、俺が手を振り返す前にさっさとエレベーターの方へと去っていってしまう。


 扉を閉め、居間へと戻る。


 テーブルの上に置かれた二人分のカップ。

 朝に枝折が自分の身体に巻いていた、ふかふかの布団。

 そして、枝折と食べたピザの入れ物。

 枝折がこの部屋で生活した痕跡が、そこかしこに散らばっている。


「……楽しかったな」


 もし俺が枝折と釣り合う人間だったら、こんな楽しさが当たり前の日常を手に入れられていたのかもしれない。


「まぁ、俺にはこれぐらいがちょうどいいのかもしれないけど」


 こんな生活が毎日続いたら、きっと俺は耐えられない。

 だから、そんな夢物語は考えないようにしよう。

 俺が枝折と釣り合う人間になれる日なんて、来るはずがないのだから。

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