第五章 騒がしいクラスメイトは、ピザを片手にやってきた②
「な、何で小森がこんなところに……」
「唯奈でいいってば。つか、どうしてとかウケる。見ての通り、ピザ届けに来たに決まってんじゃん。あたし、実は出前のバイトしてんだよね」
「ウチの高校、バイト禁止じゃなかったっけ……?」
「もち、内緒でやってる。あ、このことは先生とかに言わないでね? あたし、結構このバイト気に入ってるから」
「は、はぁ」
「つか、ここってさねさねの家なんね。ウケる。配達先が偶然同級生の部屋とか初めての経験なんだけどー。あ、はいこれピザね。千二百円になりまーす」
「え? あ、お、おう……」
流されるがままにピザの代金を支払わされる。
それだけでは終わらず、小森はぴょんぴょんと跳ねながら俺の部屋を覗き込もうとしてきた。
「ねぇねぇさねさね。せっかくだし部屋に上がってもいい? つーか、一緒にCoGやろうよCoG。前に約束してたっしょ」
「ま、待て待て待て。どうしてそんな話になる? それ以前の問題として、今お前バイト中なんじゃねえのかよ!」
「あたしは出前だけだから。さねさねが注文したお店、ウチが登録してる会社と提携してんの。バイトってより個人事業主って感じ?」
なるほど。だから制服を着ていなかったのか。
小森はピザの箱を俺に押し付けながら、
「まあ、そんな感じだから次の注文来るまでは暇なんだよね。だからさねさねの部屋に上がらしてー。ゲームしよー。おじゃましまーす」
「いやいやいやちょっと待ってちょっと待ってお願いだからちょっと待って」
強引に部屋に入ってこようとする小森の肩を慌てて掴む。今こいつに侵入されるとかなりまずい。だって、部屋の中には枝折がいる――っ!
「今度、今度やろう! 今日はちょっと立て込んでて……ゲームどころじゃないから!」
「え、なになに忙しいの? もしかして部屋の片づけしてる感じ? いいよ、あたしが手伝ってあげる。これでも掃除とか得意なんだよね」
「片付けじゃなくて……そ、そう! 勉強! 勉強してんだよ! だからゲームはできないんだ!」
「マジ? 勉強してんの? 休みの日に?」
「そ、そうだよ」
「すご、さねさね超えらくない? そういえば成績よかったよね。こういう小さな努力がさねさねの成績を支えてるってコトかー。あ、じゃあじゃあ、ついでにあたしに勉強教えてよ。今度の小テスト、わかんないトコがあってさー」
コミュニケーション能力の化身か何かかこいつ!? 何でこんなに拒否してんのに一歩も退かねえんだよ!
とにかくこいつを部屋に入れるわけにはいかない一心で小森を外へと追いやろうとするが、何故か一歩も動かなかった。こいつの体幹どうなってんの!?
「い、いいから今日は帰ってくれ……」
「えー♪」
「何で嬉しそうなんだよ……っ!」
何を考えてるのか分からない小森にツッコミを入れる――と。
「重音。さっきから何やってるの?」
戻ってこない俺を心配したのか、枝折が部屋の奥から姿を現した。
「あ、ダメだ枝折、こっちに来ちゃ……」
慌てて枝折を押し戻そうとするが、時すでに遅し。
小森は目を見開きながら、驚きの声を垂れ流し始めた。
「え? うそ、常坂さん? どうしてさねさねの部屋に常坂さんがいんの? つか、枝折って呼び捨て……?」
「お、終わった……」
バレた。ついにバレた。枝折と一緒にいるところを、ついにクラスメイトに見られてしまった。しかもよりにもよって、クラスの中心人物である小森に。
……いいや、まだ諦めるには早い。俺はともかく、枝折の今後の高校生活だけは守らねば。交渉だ。交渉するしかない。
「こ、小森。頼む、このことは、他のみんなには……」
「あ、もしかしてワケありな感じ? オッケー、じゃああたしだけの秘密にしとく」
「そ、そうか……え、今なんて?」
「あたしだけの秘密にしとく。だいじょーぶ、あたしこれでも結構口は堅いから」
お口チャックの身振りをしながら、小森は無邪気な笑みを浮かべる。
「だから、何でここに常坂さんがいるのかあたしに教えてよ――さねさね♪」
断るなんて選択肢はなかった。
「……お入りください」
「おじゃましまーす!」
脱いだ靴を律義に並べ、部屋の奥へと走っていく小森。
そんな彼女の背中を眺める俺に、枝折はぽつりと一言。
「……ど、どういうこと?」
「俺が聞きてえよ……」
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