第二章 その手の温もりは、とても身近で②

「じゃあ、CoGの協力プレイでもやるか。あれならちょうど二人プレイだしな」


 とりあえず小森に「機会があれば」と玉虫色のメッセージを送り、ゲームを準備する。

 俺はコントローラーの一つを枝折に渡しながら、


「それ、最近はほとんど使ってないから、途中で動かなくなったりしたらごめんな?」


「(こくん)」


 コントローラーを物珍しそうに弄びながら、枝折は無言で首を振る。

 学校だけでなく家でも一人なので、基本的にはコントローラーは一つしか使わない。ならどうして二つあるのかというと、ゲーム機本体を買った時にスペアとしてもう一つ買っておいたからである。


「ええと、協力プレイを……って、枝折?」


 ふと横を見ると、モニターに流れるCoGのオープニングムービーに釘付け状態の枝折の姿が。そういえば、ゲームはほとんどやったことがないと言ってたっけ。枝折と仲が良かった時もゲームに誘ったりはしなかったし、興味津々になるのも無理はないか。

 俺は彼女の肩を叩く。


「っ。ご、ごめんなさい。こういうの、あまり見たことが無くて……」


「いや、全然。ただ、操作方法とか確認しとかなくて大丈夫かなと思ってさ」


「見せて」


 取扱説明書を表示させたスマホを枝折に渡す。

 枝折は数秒ほどでスマホから顔を上げると、


「完全に理解した」


 中々の得意顔をこちらに向けてきた。


「……本当か?」


「ゲームの操作を覚えるぐらい造作もない。えっへん」


「そういう奴ほど変な操作ミスするんだよな」


「ミスなんてしないもん」


「まぁ、プレイし始めれば嘘か本当かは分かるし、別にいいけどさ」


「私の凄腕プレイで重音の鼻を明かしてあげる」


やけに自信満々な枝折に一抹の不安を覚えつつ、協力プレイを開始する。


「ほら、敵が出てきたぞ」


「わっ、わっ」


 枝折はコントローラーとテレビを交互に見ながら、わたわたと慌て始める。

 そして銃を構えることすらできず、数秒足らずで敵に蜂の巣にされてしまった。

 枝折は目尻に涙を浮かべながら頬を膨らませると、


「……重音ぇ」


「さっきまでの自信はなんだったんだよ」


「どのボタンを押せばいいのかは頭で理解してる……けど、身体が追い付かない」


「そもそも押すボタンすら間違えてたけどな」


「……えっ?」


「銃を構えるのはR2ボタンだぞ。さっきのお前は✕ボタンを押してただろ」


「???」


 操作方法を完全に理解したと言っていたくせにこの困り顔である。機械音痴なんだからかっこつけずに素直に分からないって言えばいいのに。

 このままじゃまともにゲームが進まないので、操作方法をちゃんと教えることにする。


「ちょっと貸してみろ」


「ひゃっ」


 彼女が握ったままのコント―ローラーに手を添えつつ、モードを協力プレイから一人プレイに切り替え、代わりにプレイしてみせる。


「銃を構える時はこうで、敵が近づいてきたらここのボタンを押すんだ」


 彼女と手を重ねたまま、説明を加えながら敵を次々撃破していく。

 このゲームはかなりやり込んでいるので、今更詰まったりすることはない。


「よし、これでトドメ、っと……」


 短いモードなので、五分足らずであっさりクリア。


「と、まぁ、こんな感じだよ」


 渾身のドヤ顔を決めてやろうと枝折の顔を覗き込むと、何故か彼女の顔は深紅に染まっていた。


「どうした? もしかして、よく分からなかったのか?」


「ち、違う。あの、手が……」


「手?」


「コントローラー、触れて……うぅ……」


 口ごもる彼女の視線を追った先には、コントローラーの上で重ねられた二人分の手が。

 今の状況を認識した途端、彼女の温もりと柔らかさが伝わってきた。


「ご、ごめん」


 かなり失礼なことをしていたことに気付き、身体ごと慌てて離す。

 枝折はコントローラーを握ったまま、視線を彷徨わせ始めた。


「こ、こっちこそ、ごめんなさい……」


 幼馴染みとはいえ、流石にデリカシーが無さ過ぎた。

 せっかくそこそこ喋れるようになってきたのに、このままではまた嫌われてしまう。


「マジでごめん。ゲームに夢中になりすぎた」


「あ、謝らなくていい。嫌だったわけじゃ、ないから……ちょっと、驚いただけ」


 よく分からないが、どうやら怒ってはいないらしい。

 反省を込めてもう一度謝罪しつつ、タイトル画面に戻る。


「操作方法は大丈夫そうか?」


「うん。重音が教えてくれたから大丈夫」


「また蜂の巣にされたりしてな」


「重音なら守ってくれるって信じてる」


「……善処はするよ」


 幼馴染みに頼られただけでやる気が出る自分自身のチョロさが悲しい。

 自分の分のコントローラーを握り、ゲーム再開。


「きゃっ……!」


 操作方法を手取り足取り教えたとはいえ、枝折は初心者。開始数秒で敵に囲まれてしまう。

 慌ててフォローに入るが、流石に二人用の敵を一人で殲滅することはできず、ゲームオーバーになってしまう。


「あー……すまん。もっと早く援護に入ればよかった」


「ううん。私がだらしなかった。次はもっと上手くやる」


 どうやら枝折の心に火が点いてしまったらしい。


「絶対にクリアしてみせる……っ!」


 やる気満々の彼女に苦笑しつつ、俺は協力プレイを再開した。

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