第49話 ボス部屋

『ミノさん、かたきは討ったからね』

アンデッドミノタウロスのミノさんの遺品である巨大な戦斧で魔法生物ビホルダーをズタズタに切り裂いたメカ娘が呟く。


「メカ娘、コレを…」

ガブリエラが、ミノさんの炭化した遺体がダンジョンの床に吸収された跡に遺された魔石をメカ娘に渡す。


『ううっ、あんなに強くて頑丈だったミノさんが死ぬなんて…』

いや、メカ娘、ミノさんの魔石を手にして目に涙なんか浮かべてるけど、ミノさんはアンデッドだから既に死んでたからな。


て言うかお前の“ロケットパンチ”が生前のミノさんにとどめ刺してるしな。


「しゃちょー、四階の階層フロアに戻ったらミノタウロスがリポップしてるかも?」

ヒルデガルドが私にだけ聞こえる小声で囁く。


『いや、ワザワザ前の階層には戻ったりしないからな』

このダンジョンの異常の原因を調べるのが優先だ、さっさと奥に進まないと。

こんな強力な魔法生物ビホルダーが五階層のボス部屋に居る事自体がこのダンジョンに異常が発生している証拠だ。


「にゃっ、トニー、宝箱にゃ!」

タマが指差す先、メカ娘にズタズタにされた魔法生物ビホルダーの死骸の消えた跡に魔石と共に宝箱が現れた。


「罠は仕掛けられてないか?」

ガブリエラがタマの後ろから覗き込む。


「大丈夫、罠はないにゃ」

『えーっ、ボス部屋の宝箱ってなんかスゴい良い物が入ってるんじゃないのー?』

さっきまで今は亡きミノさんに涙していたメカ娘が、ガフリエラとタマを押し退けて宝箱を開ける。


かぱっ


「うわっ」「にゃっ」

『おおーっ』


宝箱の中には銀色に輝く美しい剣が一振り入っていた。

柄にも鞘にも繊細で美麗な彫刻がなされ、神々しいほどの美しさだ。


「『鑑定」』

私とヒルデガルドはほぼ同時に“鑑定”の魔法を使った。


【聖剣エクスカリバーver.1.03】


『聖剣…』

「ver.1.03って何かしら?」


聖属性付与

対アンデッド特効有り

対魔族追加ダメージ有り


ふーん、弊社の製品の“聖剣”とそんなに変わんなくね?


『社長さん、ちょっとコレ持ってて下さい』

メカ娘がの戦斧をぐいっと私に押し付けると宝箱の中から聖剣を取り出した。


おいっ、ミノさんの遺品の扱い軽いな、お前!


しゅらっ きらーん

『おおーっ』

メカ娘が聖剣エクスカリバーの鞘を払った、古代文字が刻印された美しい刀身がキラキラ輝く。


『コレ、壊れたモルゲンステルンの代わりにあたしが貰ってもいいですよね?』

メカ娘が聖剣を手にニンマリした顔で聞いてくる。


『お前、ミノさんの遺品の戦斧があるだろ』

『斧なんかよりこっちのがいーの、カッコいいし!』

おいっ、ミノさんが草葉の陰で泣いてるぞ!


『タマやガブリエラはどうなんだ?』

私は他のパーティーメンバーに確認した。

全身が武器なメカ娘よりも前衛の二人、特に騎士のガブリエラが持った方が…


「あたいが使うにはソレは長過ぎるからいらないにゃ」

タマが背中の忍者刀をポンポン叩きながら答える。


「わ、わたしにはトニー様が作ってくれた”聖剣“があるから…///」

おふぅ、ガブリエラは可愛い事を言ってくれるじゃないか、こういう娘を嫁に・


「しゃちょー、わたしには聞いてくれないの?」

死んだ魚のような瞳孔の開いた目をしたヒルデガルドが低い声でそう言ってくる。

いや、ヒルデガルド、お前は死霊術師ネクロマンサー錬金術師アルケミストってバリバリの魔法職で剣とか使えないだろうが!


『ヒルデガルドは聖剣が欲しかったりするのか?』

一応、聞いてみた。


「しゃちょー、わたしは”杖“しか装備出来ないから聖剣は別に要らないよ~」

両手を頬に当てクネクネしながら答えるヒルデガルド…くっ、耐えろトニー、たぶんコレは必要な“儀式”なんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る