第44話 迷宮

『社長さん!』


ヒュヒュッ カン カン カンッ

『どうしてあたしが先頭なんですか?』

壁に開いた穴から飛んで来たダンジョンのトラップの仕掛け矢をアダマンタイト製の装甲で弾き返しながらメカ娘が聞いて来る。


ガシャッ ポキポキッ

『ふつー盗賊シーフのタマちゃんが先頭だと思うんですけどー』

ダンジョンの壁から突然突き出して来た槍をへし折りながらぼやいている。


いや、お前なら無傷で全ての罠を踏み潰して進めるだろ。


盗賊シーフのタマはメカ娘の後ろで10フィート棒を持って、メカ娘が引っ掛からなかった罠が残っていないか慎重に壁や床を叩いて確認している。


『お前、全部のトラップに引っ掛かってないで、超音波エコーとか赤外線サーモとかセンサー使って調べろよ』

とかってどうやって使うんですかー?』

無駄に高性能な身体ボディが本当にムダだな…


カパッ

『あああああぁー!』

ズシーン

今度は落とし穴か…


「うぁー、床にトゲトゲが生やしてあるにゃ!」

落とし穴の縁から中を覗き込んだタマがぶるっと身体を震わす。

「よく、アレで平気だな…」

ガブリエラも困惑顔だ。

「わたしとしゃちょ~の愛の結晶なんだから、アレくらいは平気よ」

愛の結晶ってメカ娘はヒルデガルドお前の娘かなにかか!


『社長さーん、ロープ垂らして下さ~い』

落とし穴の中から元気な声が聞こえる。

勿論、メカ娘は落とし穴の底で無傷だ、上から覗くと金属製のトゲがメカ娘の身体の形にへし折れていた。


『冒険者ギルドで買って来たロープ、耐荷重は大丈夫かな?』

空間収納インベントリからザイルの様なロープの束を取り出す。

「確か500kgくらいまでは平気にゃ」

流石はC級冒険者、詳しいな。


『じゃあ、ギリギリだな』

そう言いながら落とし穴にロープを垂らす。

「えっ、500?」

『乙女の体重をバラさないで下さーい!』

下でメカ娘がぷんすこ怒っているが無視だ無視。

「メカちゃん、そーっと上がって来ないとロープが切れるわよー」

ヒルデガルドが警告する、いや、だからそんなグイグイ引いたら、いくら鉄人アイアンアーマー着ててもこっちまで落とし穴に落ちるって!


私が落とし穴に落ちない様にとガブリエラとタマが後ろから鉄人アイアンアーマーの腰に抱きついて引っ張ってくれている、だが“だいしゅきホールド”で私に抱きついているヒルデガルド、お前は邪魔なだけだ!


~・~・~


私達は冒険者ギルドの用意した馬車に乗って、魔物の集団暴走スタンピードの原因ともくされるダンジョンにやって来ていた。


スタンピードの時に破壊されたらしい冒険者ギルドの出張所だの衛兵の詰所だのの建物の残骸が散らばる中、地面にぽっかりと口を開けたダンジョンの入り口があった。


平らな地面に真っ四角に開いた穴の中には地下へと降りる階段が見える。

4m四方の入り口も石造りのような階段も人工物の様に見えるが人が造ったモノではない、迷宮ダンジョンが造ったモノだ。


内部も天然の洞窟のようでいて、まるで鉱山の坑道のようにどこか人の手が入ったような気配も感じさせる。


しかも陽光が届かない地下だと言うのに中は真っ暗闇ではない、迷宮の壁自体が仄かに発光していて薄暗くはあるが足元が見える程度には灯りがある。


何故?

という疑問に対して、この世界の人間はこう答える“だって迷宮ダンジョンだもの”

いや、み○をじゃないんだから、ちょっとは考えろよ!


なんで迷宮ダンジョンの中には罠が?

いったい誰が仕掛けたんだ?

“だって迷宮ダンジョンだもの”


なんで迷宮ダンジョンからは魔物が湧くんだ?

“だって迷宮ダンジョンだもの”


果たして迷宮ダンジョンを作ったのは神か悪魔か?

誰も解いた事のない謎だが、今もこうしてここに迷宮ダンジョンはある。

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