第38話 借金奴隷

「少し待って貰えるかしら」

我々が帰ろうとした処で受付の奥から副ギルド長のアイシャが声をかけてきた。


ぺしっ

「いたっ!」

無言で受付嬢ラヴィの頭をはたく。

「報酬を渡す時にはキチンとギルドカードを確認しなさいって言ってるでしょ」

「スイマセン~副ギルド長、皆さん規則なんでギルドカードを出して下さい」

涙目の受付嬢ラヴィが手を差し出す。

三人分のカードをラヴィに手渡すとアイシャがひったくって奥に持って行った。


暫くするとカードが帰って来たが、Bランクに更新されていた。

「これは?」

カードを手にしてアイシャに訊く。


「貴方達のパーティー『タスーク・ファミリー』だけでスタンピードの魔物の過半を倒した上に、負傷者の治療まで…ギルドへの貢献度を評価したのよ」

アイシャが二ンマリ笑う。


「恐らく、Bランクへの昇進の最速記録よ」

そりゃそうだろ、先日登録したばかりだ、しかも成り立てほやほやの新人冒険者を集団暴走スタンピードの防衛に駆り出しやがって…

「今後の活躍にも期待してるわよ」

妖艶な表情でアイシャが言ってくるが、生憎冒険者を生業にするつもりはない、王都へ戻る為の路銀を稼ぐ為の手段に過ぎない。


~・~・~


「なにやってんの?」

錬金術ギルドの建物に入ると狐獣人の受付嬢のハンナがいきなりジャンピング土下座をしてきた。


「あんたがトニー・タスークかい?」

視線を土下座をしているハンナから声の方へ向けると白髪の老婆がいた。

黒いローブを纏い、頭には黒いとんがり帽子、杖を手にしたいかにも“魔女”って格好だ。


「わしはこのギルド支部のギルド長をやっておるベアトリクスと言う者じゃ」

「ほう、高名なベアトリクス女史とこのような地でお目にかかろうとは…」

ベアトリクスと言えば一昔前に名を成した錬金術師だ、彼女の著書を何冊か読んだ事がある。


「よしとくれ、トニー・タスークに高名だなんて言われたら背中がむず痒くなっちまう」

老婆が肩をすくめる。

「そちらのお嬢さんは“教授”のヒルデガルド嬢だね」

ベアトリクスがチラッと視線を私の後ろに向けた。

後ろを振り返ると、お嬢さんと言われたヒルデガルドが嬉しそうにくねくねしていた。

チョロいヤツ…


「こちらはアンナ、そっちはタマ、ガブリエラとは面識がありそうだな…」

他の三人を紹介する。

メカ娘が『久しぶりに名前で呼ばれた』とか言ってるがスルー。


「ところでコイツだが?」

まだ土下座をしているハンナを指差す。


「済まないねぇ、上級魔法薬ハイポーション最上級魔法薬エクスポーションまで治療に使ったんだってねぇ」

ベアトリクスがすまなさそうな顔で謝ってくる。

「おかげで不具になった者はいないし、死人も冒険者が三人殺られただけで済んだ」

あー、あの証拠隠滅した三人だけで済んだのか…


「でもねぇ、この街の予算じゃとてもじゃないが払いきれないんだよ」

ベアトリクスがため息をつく。


「わしの留守にコイツが勝手をして…」

「ぼ、ボランティアなのかと…」

負傷者の治療に湯水のように使った魔法薬ポーション代が高額過ぎて払えないって訳か。


「コイツを借金奴隷にでもして連れて行って貰うくらいしか…」

土下座をしていたハンナの肩がびくぅ!となる。


「うーん、奴隷って言っても衣食住こっち持ちで面倒をみないといけないし、あまり有り難く無いと言うか…」

この国では借金奴隷だからと言って虐待とかをするのは犯罪である、奴隷にも最低限の生活は保証しなければならない。


「ええーっ、若くて美人な奴隷ですよー、凄いお値打ち品なんですよー!」

有り難くないと言われたハンナがガバッと身を起こして不満そうに言う。


いや、奴隷とか困るんだよ、今も私の背中にヒルデガルドが刃物ダガーを突きつけてるし…



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