第37話 討伐報酬

「そのう、小領の騎士爵領とは言え、領地持ちの貴族の軍役は持ち出しなので…」

ガブリエラが申し訳なさそうに言う様に、貴族の義務である軍役は領地持ち貴族の場合、国や寄親の上位貴族から金銭などが支給される事は余程の軍功を上げでもしない限り無い。

軍役に備える為に領地を与えたのだからと言うスタンスだ。


他国との戦争なら、勝てば土地だの略奪した戦利品だの捕虜を奴隷にしたりだのと何かと実入りがあるが、魔物の集団暴走スタンピードからの街の防衛戦ともなると、倒した魔物の魔石や素材くらいしか得るモノが無い。


しかも、それらの収入の大部分は冒険者ギルドに割り当てられる。

領地を経営している領主貴族や街から給金を貰っている衛兵達と違い、冒険者にはきちんと働きに見合った報酬を支払わなければならない。

報酬をバックレたりしたらがあった時、冒険者達は戦わずに逃げてしまうだろう。


つまり、小さな騎士爵領とはいえ領主貴族であるガブリエラは今回は大赤字と言うことだ。



「まあ、魔法薬ポーションの件はとりあえず置いといて、冒険者としての報酬を受け取るか」

パーティーメンバーのヒルデガルドとメカ娘を促して受付カウンターへ向かった。


「……」

「おいっ」

「……」

窓口では兎獣人の受付嬢ラヴィが全力で私と目を合わさない様にしている。

そういやコイツ、緊急召集の直前に我々をDランクから強制依頼の対象になるCランクに上げやがったな…


『スタンピードの時の報酬を受け取りに来たんですけどー』

「ハイ、パーティー『タスーク・ファミリー』ですね、報酬はこちらになります」

受付嬢ラヴィに入った報酬をメカ娘に差し出す。


じゃらじゃら

『社長さん、金貨が15枚も入ってますよ~♪』

いやメカ娘、何を喜んでるんだお前は…あれだけ魔物を倒して金貨たったの5枚だぞ。


「これで三人分なのかしら?」

ヒルデガルドが死んだ魚の様な目で受付嬢ラヴィを見つめる。

「ええっと、スタンピードなどの緊急依頼で召集した時は参加者一律で一人金貨5枚と決まってまして…」

ウサ耳娘が明後日の方角に目を逸らしながら言う。


「わたし達のパーティーで集団暴走スタンピードの魔物の六割方を殲滅したんだけど…」

「ハイっ、そう現場からの戦果報告を受けています」

「むーっ」

どうやら参加者一律一人金貨5枚と言うのは覆らないようだ。


『ヒルデさん、金貨5枚も貰えたんだし良いじゃないですかぁ』

一人で三割から四割ほどの魔物を殲滅したのに、金銭感覚が拙くて報酬の少なさに気づけない残念な娘がそうヒルデガルドにのたまう。


「魔物の素材分の分け前は別にあるのよね?」

ヒルデガルドがカウンターの向こう側にいるラヴィに詰め寄った。

今回のスタンピードで倒した魔物の素材は換金されて参加した冒険者の貢献度に応じて分配される。


「あー、『タスーク・ファミリー』は一番良い魔物素材を持って行ったと他のパーティーから申告がありましてー」

「一番良い魔物素材って何よ、そんなモノわたし達は「グリフォンを丸ごと一匹」ア、ハイ、タシカニモライマシタ…」

ビルデガルドが死霊術ネクロマンシーで眷属にしたアンデッドグリフォンが我々に分配された分け前だった。


「トニー」

くいっ、くいっと服の袖が引かれる。

振り返るとタマが小さな革袋を差し出していた。

「ポーション代には全然足りないけど、うちの分の報酬をトニーにあげるにゃ」

いや、流石にそれは受け取れんよ…


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