第36話 ガブリエラ

『社長さん、あたしは“せんさぁ”以外も優秀ですぅ~』

具体的にどの辺りが?

「しゃちょ~はペットを飼うなら猫派じゃなくて犬派なのよ!」

「うちはペットの猫じゃないにゃ、猫獣人にゃ」

おいっ、ヒルデガルドのヤツ、なんで私が犬派だって知ってるんだ?


「タスーク殿、ここに居られたか」

この場がカオスになりかけた時に、私に声をかける者がいた。


「先日は大層お世話になりました」

声に振り向くと、この街の騎士団の鎧を着けた女性騎士が一人立っていた。

彼女も魔物の集団暴走スタンピードで喪った右腕と顔の酷いキズを私が再生していた。


「私は領主軍の騎士団所属で騎士爵のガブリエラ・シュミットと申します」

女騎士は鎧姿だというのに、私に向けまるでドレスを着た貴婦人のようなカーテシーをした。


「あ、いや、私は平民なのでそのような格式張った挨拶は不要です」

私はそう言いながら空いている椅子を勧めた。

ガブリエラと名乗った女騎士は二十台半ばくらいか、肩の辺りで切り揃えた赤毛に碧眼の整った顔立ちで、背はスラリと高いが、均整の取れた体つきで大女な印象は無い。


「いや、平民だなどと、私こそ貴族だなどと名乗るのもおこがましいただの騎士爵に過ぎませんから」

ガブリエラが慌てて両手をパタパタ振る。


「それで今日は治療のお礼に?」

私がそう聞くとガブリエラの目が泳いだ。

「そ、そのう、私に使っていただいた魔法薬ポーションはいかほどなのかと…」

不安そうな目で聞いてくる。


「しゃちょ~の最上級魔法薬エクスポーション最高品質SSRだから高いわよー」

女には厳しいヒルデガルドが脅すように言う。


「なっ、最高品質の最上級魔法薬!?」

さーっと、ガブリエラの顔色が悪くなる。

びくぅ!と膝の上のタマも身を固くした。


「普通の魔法薬ポーションで腕や脚は生えてこないわよ」

「うっ…」「にゃっ」

「そおねぇ、白金貨一枚くらいかしら」

ヒルデガルドが死んだ魚のような目で嘲笑う。

「し、白金貨一枚…」

「白金貨にゃ…」

『白金貨ってなんですか?』

日本円に換算すると約一億円である。


ぐりぐりぐり

突然、私の膝の上で丸くなっていたタマが腹に頭を擦り付けてきた、なんだ、獣人の愛情表現なのか?


「タスーク殿、貧乏騎士爵の私にはとても白金貨など工面出来ない…」

あれっ、領主か冒険者ギルドか錬金術ギルドが治療費を払うんじゃないのか?


「も、もし、タスーク殿さえ良ければ我が家に入り婿に来ていただければ、貴族としての地位とシュミット騎士爵領を貴方に差し上げ「ちょ、それ、本末転倒!」」

ガブリエラの話を遮ってヒルデガルドが激昂する、いや、お前が白金貨なんて言うからだろうが。


「あ、いや、私のような行き遅れに、村が一つしかない我が所領では釣り合いが取れないが…」

困ったような顔でガブリエラがそう言う、なかなか誠実な性格の娘のようだ。


「行き遅れって貴女幾つなの?」

「恥ずかしながら24になる」

「・・・」

もっと恥ずかしい年のヒルデガルドが絶句する。

まあ、20を過ぎれば行き遅れって言われる御国柄だから仕方ないな。


「トニー、タマは借金奴隷はイヤにゃ、奥さんになるから許して欲しいにゃ…」

まだ私の腹をスリスリしていたタマがか細い声で言ってくる。

いや、まあ、借金奴隷とかにするつもりは無いけど。


それよりも、奥さんになるとか迂闊な事を言うとヒルデガルドに刺されるから、私が…

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