第35話 タマ

ばっさ ばっさ

『社長さん、ひどいですぅ~』

メカ娘が恨みがましい目で私を見る。


「いや、何か忘れてる気がしたんだが、集団暴走スタンピードの後も魔法薬ポーションの調合やら負傷者の治療やらで忙しくてな」


ばっさ ばっさ

『えー、あたしの事を忘れてたんですかー(怒)』

「ちゃんと迎えに行かせたじゃない」

ぷんすか怒っているメカ娘をヒルデガルドが宥める。


ばっさ ばっさ

『迎えに来たって、あたしスゴいビックリしたんですからねー!』

メカ娘はヒルデガルドの操るアンデッドグリフォンの足に腰の辺りをつかまれて宙に浮いていた。

まあ、歩いてていきなりグリフォンに鷲掴みにされたら驚くわな。


ばっさ ばっさ

『とにかくー、早く降ろして下さい!』

アンデッドグリフォンの足に掴まれてプラーンと宙に浮いているメカ娘が降ろす様に促す。


ばっさ ばっさ ぱっ

『ひゃっ!』

ズシン

『ぐえっ』

アンデッドグリフォンは足で掴んでいたメカ娘を空中で離した。


「あっ、メカちゃん、道の真ん中に穴ぼこがあったら危ないからちゃんと埋めといてね」

空中から落下して自重0.5tで地面にめり込んだメカ娘にヒルデガルドがそう言い放った。

お前、同性には結構厳しいよな…


~・~・~


「ごろごろごろ…」

冒険者ギルド内の飲食スペースで椅子に座っている社長の膝の上で小柄な猫獣人が丸くなって喉を鳴らしている。


「ちょっと、そこの駄猫、わたしのしゃちょ~の膝の上から退きなさい!」

ヒルデガルドが光を失った目で睨んでる、結構な危険域Danger zoneだ。

「駄猫じゃないにゃ、うちにはタマって名前があるにゃ」

でも、流石は女だてらに冒険者なんて危険な稼業をしているだけあってタマはどこ吹く風だ。


タマは先日の集団暴走スタンピードの際に魔物に片方の脚を食いちぎられ、担ぎ込まれた錬金術ギルドで社長の最上級魔法薬エクスポーションで脚を再生してもらった女性冒険者だ。


「脚を治して貰った恩返しに、うちは『タスーク・ファミリー』に入るにゃ、トニーの役に立つにゃ」

獣人と言うのは一般的に、人族よりも家族や同族を大事にし、更に義理固い性質と言われている。

片脚を喪い、冒険者を続けられずに路頭に迷ってしまう所を社長に救われたタマは、社長に深い恩義を感じていた。

端から見れば、社長に懐いているだけにしか見えないが…


「『タスーク・ファミリー』には斥候職スカウトがいないにゃ、だからうちが必要にゃ」

彼女は身長150㎝に満たない小兵だが、獣人の持つ高い身体能力もあって盗賊シーフとしての能力はかなり高いそうだ。


獣人には個体差が結構あり、全身が獣毛に覆われ獣が二足歩行しているような外見の者から人族とほとんど変わらない見た目の者まで幅広いのだが、タマは後者で獣人としての特徴は頭の上の三角形の耳とお尻の尻尾に見られるだけだった。


タマは冒険者らしいショートカットにした茶色の髪に黄色っぽい猫目、やや童顔だが可愛い顔立ちの娘である。

そこがまたヒルデガルドは気に入らない。


「しゃちょ~」

ヒルデガルドが据わった目で社長を睨む。

「あー、いや、まあ、確かに盗賊がいないとパーティーのバランスが悪いしな…」

超攻撃型のメカ娘に魔導具師兼錬金術師エンジニア&アルケミストの社長、死霊術師兼錬金術師ネクロマンサー&アルケミストのヒルデとパーティーバランスはかなり偏っている。


斥候スカウトなら、メカちゃんが“レーダー”や“望遠モード”とか“暗視モード”とか使えるじゃない」

「確かにメカ娘はセンサー類は高性能なんだけどなぁ…」

『なんですか、あたしは“せんさぁ”以外は残念な感じなんですか!』

ハイ、そうです。

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