第34話 無免許医師

錬金術ギルドに運び込まれた重傷の冒険者の男の、魔物に裂かれた腹の傷に“洗浄クリーン”の魔法をかけ、消毒する。


更に局所麻酔替わりに“麻痺パラライズ”の魔法をかけるとはみ出た内臓を腹腔に押し込む。

もちろん自分の手も“洗浄クリーン”で消毒済だ。


ぱしゃっ

高品質レア上級魔法薬ハイポーションを腹の傷にかけるとみるみるうちに傷が塞がっていく。

「うっ…」

冒険者の男が身動ぎをする。


「意識が戻ったらコレを飲ませてやれ」

男の仲間の冒険者に高品質な上級魔法薬をもう一本渡した。

「た、助かるのか?」

明らかに致命傷だったのだ、仲間の男が信じられないような目で瀕死だった男を見ている。


ふふん、私は無免許医師だが凄腕だ、BJと呼んでくれ。


「それで若くてキレイな女騎士さんには最上級魔法薬エクスポーションを使って、瀕死の冒険者さんには上級魔法薬ハイポーションしか使わない件ですけど…」

狐娘ハンナが蒸し返してきた。


「今、華麗な手際で冒険者の治療をした私の腕前を見てなかったのか?」

今度はこちらからジト目でハンナを見る。

「最上級魔法薬は要らなかっただろ!」

「そ、そうですけど…」


ゴウッ

突然、野戦病院のようになっている錬金術ギルドの中を冷気が満たした…


「やっぱり若い娘が良いの?」

ヒルデガルドが光のない目で私を見つめてくる。

いや、お前、なんで手に刃物ダガーもってんの?


「大抵の大怪我は私やヒルデガルドが作る高品質レア上級魔法薬ハイポーションで治るが、欠損は最高品質SSR最上級魔法薬エクスポーションでしか治らないし、最上級魔法薬は貴重な素材を使っているせいで数が作れないからどうしても必要な相手にしか使ってないだけだ」

「ヒ・ル・デ!」

そこで呼び方に拘るのか!


「納得したか、ヒルデ?」

これ以上拗れるとややこしいのでヒルデガルドを愛称で呼んでやる。


「もし、わたしが大怪我をしたら、しゃちょ~の作った最上級魔法薬エクスポーションで治してくれる?」

ヒルデガルドが上目遣いで見つめてくる、そんな事しても目が濁ってるぞ。


「わかった、わかった、約束する」

「~♪」

目に見えてヒルデガルドの機嫌が良くなったが、お前自分で最上級魔法薬エクスポーション作れるだろ…


「わ、わたしも大怪我をしたらトニー様のエクスポーションで治療を…」

受付嬢のハンナまで上目遣いで私を見つめてきた。


「お前には普通ノーマル魔法薬ポーションしか使ってやらん」

「ひ、酷い!」

受付嬢ハンナはショックを受けた顔をしているが、何故に貴重な最上級魔法薬を使って貰えると思った?



「こっちには上級魔法薬、そこの衛兵は解毒薬を飲ませた後で魔法薬を!」

鑑定で負傷者の状態ステータスを確認しながら社長が的確に指示を出す。


「どいた、どいたー!」「コイツも重傷者だ!」

「にゃー、うちの足がぁ~」

また一人、重傷者が担架で運びこまれて来た。

まだ若い猫獣人の女性冒険者のようだ。

右脚の太ももの半ばあたりで脚を魔物に食い千切られている。

「こんな身体じゃもう冒険者を続けられないにゃー、路頭に迷ってしまうにゃ~」

にゃーにゃー五月蝿いが彼女の立場なら仕方ない、現代日本みたいに身障者にある程度でも配慮が出来る豊かな社会じゃないのだ、このままだと早晩スラム行きになるだろう。


「これは最上級魔法薬エクスポーションが必要だな…」

空間収納インベントリから最上級魔法薬を取り出す。


「ねぇ、やっぱり若い娘が良いの?」

いや、ヒルデガルド、これは治療だから…


「それともネコ耳が良いの?」

うっ、髪の毛からピョコンと突き出した三角の耳、否定は出来ん、モフりたい…


「わたし、着けるよ、ネコ耳…」

いや、ネコ耳をその年・げふんげふん…止めとけ。

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